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ひでお
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それでは、
どうぞっ。
ーーーーー
宿舎のリビングに響く電子レンジの音で、百花はぼんやり目を開けた。
頭が重い。
喉が焼けるみたいに熱い。
身体の節々が痛くて、布団から少し動くだけで息が詰まりそうになる。
それでも、百花はゆっくり起き上がった。
鏡に映る自分の顔は最悪だったけど、慣れている。
デビューしてから、“多少の無理”なんて日常だった。
💙「……大丈夫」
誰に言うでもなく呟いて、キャップを深く被る。
今日は新曲の振り付けレッスン。
休むなんて、ありえなかった。
リビングへ出ると、先に準備を終えていた美咲がソファから顔を上げた。
🧡「……顔色悪くない?」
💙「そう?」
🧡「うん。熱あるでしょ」
即答だった。
百花は少しだけ目を逸らす。
💙「ない。」
🧡「嘘」
💙「……」
🧡「でも行くんだ」
責める口調じゃなかった。
ただ、全部分かった上で確認しているみたいな声。
百花は小さく頷いた。
💙「今日は大事なレッスンやから、」
美咲は数秒だけ黙って、それから立ち上がる。
🧡「じゃあ、私の近くにいて。」
💙「……え?」
🧡「倒れたら支えるから」
冗談みたいに言うくせに、目だけは本気だった。
百花は返事をしないまま、そっとマスクを引き上げた。
ーーーーー
レッスン室はいつも通り騒がしかった。
音楽。
鏡。
汗。
何度も繰り返される振り確認。
最初は、まだ平気だった。
いや、平気なふりができていた。
けれど時間が経つほど、視界が揺れる。
ターンの軸がぶれる。
足に力が入らない。
呼吸が浅い。
鏡越しに、美咲と何度も目が合った。
その度に“休んで”と言われている気がして、百花は無理やり笑って踊り続けた。
でも。
激しくフォーメーション移動した瞬間、ぐらりと身体が傾く。
💙「あっ……、」
床に倒れそうになった身体を、後ろから腕が支えた。
🧡「百花」
低い声。
美咲だった。
音楽が止まる。
メンバーたちが一斉に振り返った。
🩵「大丈夫!?」
🤍「顔真っ白なんだけど……」
百花は慌てて姿勢を戻そうとした。
💙「もも、まだできる。…すみません、」
🧡「できない。」
美咲がぴしゃりと言った。
珍しく強い声だった。
🧡「宿舎戻って休んで。」
💙「でも……」
🧡「今の自分、鏡見えてた?」
💙「……」
🧡「立つのも危ない」
百花は唇を噛む。
迷惑をかけた。
空気を止めた。
最悪だ。
🧡「誰か送れそう?」
美咲が周囲を見る。
けれど今日はそれぞれ予定が詰まっていた。
ボーカルレッスン。
撮影。
打ち合わせ。
申し訳なさそうな空気が流れる。
百花はすぐに首を振った。
💙「1人で帰れる。」
🧡「百花。」
💙「ほんまに、大丈夫やから。」
その“本当に”が全然本当じゃないことくらい、美咲には分かっていた。
でも百花の性格も分かっていた。
だから最後には、小さく息を吐いて。
🧡「……着いたら連絡して」
💙「はい」
🧡「絶対」
💙「はい」
ーーーーー
宿舎へ戻った瞬間、百花は玄関にしゃがみ込んだ。
限界だった。
気を張っていた糸が切れたみたいに、全身から力が抜ける。
熱い。
寒い。
頭がぐらぐらする。
なんとか部屋まで辿り着いて、ベッド横に崩れ落ちた。
呼吸が苦しい。
胃が気持ち悪い。
💙「っ……ぅ……」
立ち上がろうとして、そのまま洗面所へ駆け込む。
吐いた。
何も食べていなかったせいで苦しいだけなのに、止まらない。
涙まで勝手に出てくる。
💙「……やだ……」
誰もいない部屋で、弱音が零れた。
苦しい。
しんどい。
誰か。
でも“助けて”なんて、言えない。
言い慣れてないから。
百花は床にうずくまったまま、震える指でスマホを握った。
美咲からメッセージが来ていた。
🧡《着いた?》
返そうとしても、文字が打てない。
視界が滲む。
そのまま、力尽きるみたいに床へ額を押し付けた。
ガチャ。
玄関のドアが開く音。
🧡「百花!?」
聞こえた瞬間、張っていたものが一気に崩れた。
美咲だ。
足音が近づいてくる。
🧡「ちょ、何してるの!?」
洗面所まで来た美咲が息を呑む。
涙でぐしゃぐしゃの顔。
苦しそうな呼吸。
熱で真っ赤な肌。
🧡「……連絡、ないから……嫌な予感した。」
美咲はすぐにしゃがみ込んで、百花の背中をさする。
🧡「立てる?」
百花は小さく首を振った。
💙「……むり、」
その弱々しい声に、美咲の目が少しだけ揺れる。
いつも絶対に“無理”と言わない子だったから。
🧡「じゃあ、ゆっくりでいい。私につかまって」
美咲が腕を回す。
百花はふらふらしながら、その肩へ寄りかかった。
その瞬間。
ぎゅ、と服の裾を掴まれる。
美咲が目を瞬かせた。
🧡「……百花?」
💙「……行かんといて、」
掠れた声。
熱で潤んだ目。
普段の百花からは想像できないくらい、不器用な甘え方だった。
💙「1人、いやや……」
ゆあは数秒固まった。
それから、ふっと笑う。
🧡「……なにそれ」
💙「……」
🧡「そんな顔できるんだ。」
百花は恥ずかしそうに眉を寄せる。
でも離れない。
美咲はそのまま額に手を当てた。
🧡「熱、高っ」
💙「……ごめん」
🧡「謝らなくていいから」
💙「でも……迷惑……」
🧡「迷惑じゃない。」
美咲は即答した。
🧡「むしろ、もっと頼って。ね?」
💙「……」
🧡「たまには、いいかも」
優しく髪を撫でられる。
百花はぼんやりした頭のまま、その手の温度に安心していた。
ベッドへ移動して、薬を飲ませてもらって、水を飲ませてもらって。
その間もずっと、百花は美咲の服を離さなかった。
🧡「百花。」
💙「……はい」
🧡「今、完全に赤ちゃん。」
💙「ちが……うから……」
🧡「うんうん、笑」
💙「……笑わんといて、……」
🧡「だってかわいいから。」
その言葉に、百花は布団の中へ顔を隠した。
でも数秒後にはまた、そっと美咲の袖を掴む。
美咲はもう抵抗しなかった。
end.
リクエストありがとうございました♪