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「よく来たね」
男の顔を見ても、最初は全く気がつかなかった。ジーンズに清潔感のある空色のシャツを着た男が左手を軽く上げてにっと笑ったとき、乃江は思わず大きな声をあげてしまった。あの晩に店の裏で出会ったあの男だ。
「あれ、あなたの髪もっと長くありませんでした?」
頭を撫でながら、男は大きな声で笑った。
「あれはズラだよ」
「でも、あなたがどうしてここに?」
「さて。どうしてでしょうか」
目を丸くいて立ち尽くしている乃江の前に、神原桜子が現れた。
「よく来てくれたわね」
黒いロングスカートに、ゆったりとしたベージュのセーターを着ていた。ボブカットのグレイヘアが揺れて、やっぱり綺麗だった。
「驚かせてしまったわね。彼は火村正平さん。見てくれは悪いし性格揉んで歪んでいるけど、怪しい人じゃないから」
「もっとマシな言い方があるだろう」
「これ以上のいい言葉は思いつかないわ。この人のことは気にしないで入って。そちらのあなたもどうぞ入って」
乃江の肩越しに桜子は視線を向けて言う。乃江が後ろを振り返ると、少し離れたところに樹の姿があった。
「マネージャ―付きとは驚いたね」
正平がまたにっと笑うので、乃江は慌てて首を振った。
「違います。彼は…、そんなんじゃありません」
「行かない方がいいですよ」
心配してついて来てくれたのだろうか。今日は仕事が休みだったので店には行っていない。どこからついて来たのだろう。駅で偶然見かけたとか? それともアパートから? 考えたらちょっと背筋がぞくっとした。
コメント
2件
いつもコメントありがとうございますm(_ _)m
乃江さんが再会したあの男、まさかこんな形で話が繋がるなんて驚きました!「ズラだった」って軽く笑う正平さん、胡散臭いけど桜子さんが「怪しい人じゃない」って言うから信用していいのかな…。でも何より気になったのは、樹くんがこっそりついて来てたところ!「行かない方がいい」って、彼なりに乃江さんを守りたかったのかな。距離感がじわじわ変わってきそうで、続きがすごく気になります🌷