信仰
-神・仏など、ある神聖なものを信じること。
あぁ。なんて美しいんだろう。
白い肌、綺麗な黒髪、吸い込まれてしまいそうな大きな瞳。
まるで創り物の様な貴方。
近寄り難い不思議な雰囲気を纏った貴方は私の中の絶対。
狂ってしまいそうな程に愛おしい。
⋯
ため息がこぼれる。
つまらない。教室を漂う化粧の匂い。
弱い者を見つけては嘲笑する奴ら。
気持ち悪い。
窓際の席で外を眺めている私。
この空間では私が1番おかしいのかもしれない。
それもそのはずだ。自分をカーストトップだと信じ疑わないバカ共しかいないのだから。
きっと私はいなくても変わらない。
チャイムの音が響く。
「起立、礼、着席」
担任が口を開いた。
「今日は転入生が来ています。」
騒がしくなる教室。
響く1人の足音。
「佐藤 美雪です。」
男共は騒ぎ出す。
「美雪ちゃーん。彼氏とかいるの?」
「どーいう人がタイプ?」
ズカズカとプライベートな質問を投げかける。
そんな中私はその転入生に目を奪われていた。名前は至って普通。しかし容姿はどうだろう。綺麗?いや、美しい。体が熱い。鼓動がうるさい。
こんな感覚は初めてだ。
「それじゃあ美雪さんの席は窓際の席ね」
そこは私の席の後ろだ。
足音が近づいてくる。毛先まで手入れのほどこされた綺麗な黒髪がとても美しい。横を通る彼女にも聞こえてしまうのではないかと心配になるほど鼓動の音は大きくなっていく。
「よろしくお願いします」
彼女は軽く頭を下げた。
所作さえも美しい。
クラスの誰もが彼女を見ている。
好奇の目、冷ややかな目で。
その日、彼女の席には沢山の男共が集まっていた。女共は気に食わぬ態度で眺めていた。
次の日。
「アンタのせいで彼氏に振られたんだけど」
彼女の席にはこのクラスの中でも特に厄介な3人組がいた。
「どーしてくれんのよ」
お前に魅力がないせいだろ。彼女のせいにするな。と私は内心イライラしていた。
彼女は静かに本を読み続けている。
「なんか言ったらどうなのよ」
「そーよ」
「人の男取っておいてどういうつもり?」
3人組はそんな彼女に怒りを抑えられなくなっていた。
「私は知らない。なので、何も言えません」
彼女はそう言って本に目線を戻した。
「は?アンタね転入生だからって調子に乗ってんじゃないわよ」
「コイツ完全に私達のこと舐めてるでしょ」
「決めた!これからお前で沢山遊んでやるよ」
そういうと3人組は彼女の席を後にした。
彼女は転入してきたばかりだからきっと知らない。あの3人組がとても厄介だと思われている理由を。彼女たちは気に入らない奴がいればとことんいじめ、転校、不登校に追い込んでしまうのだ。そしてもうひとつ。3人組のトップの女の親は権力がある。だから教師は何も言えないのだ。
権力者の娘というのはなぜこんなにも厄介な者が多いのだろう。漫画でも、アニメでもだいたいそうだ。
「佐藤さん、大丈夫?」
私はそれくらいの事しか言えない。
「大丈夫。どうせ口だけでしょ。」
彼女は知らないからそう言えるのだ。
「佐藤さん、あの3人組は違うよ。だから⋯」
「大丈夫。心配しないで。」
彼女は私の言葉を遮り、優しく微笑んだ。
「わかった。だけど無理だけはしないで。」
彼女は少し驚いた様な表情をして頷いた。
その日の昼休み。事件は起きた。
「佐藤さーん。ちょっと来てくれる?」
3人組のうちの1人が彼女を呼んだ。
彼女はそいつとどこかへ歩いていく。
何も無いといいが。そんな気持ちはむなしく、彼女は全身が濡れた状態で帰ってきた。カバンからジャージを取り出しどこかへ歩いていく。
きっとアイツらのせいだ。トイレの水でもかけたのだろう。そんなに長くはなかった。きっと他の事はされていないはずだ。
クラスのヤツらは彼女を見て驚いていたが3人組が関わっていると気づいたのかその後は普通にしていた。
許せない。何もすることができない自分のことも許せない。
「佐藤さん、何があったの?」
彼女が戻ってすぐ私は話しかけた。
「少し言い合いになっちゃって、そうしたら水をかけられたの。」
「それだけ?」
彼女は静かに頷いた。
きっと彼女へのいじめは日に日に酷くなっていくだろう。いざという時、私は彼女のことを助けられるのだろうか。きっと無理だ。怖い。こんな私でもやっぱり怖い。自分のことが大切なのだ。
特にその日はそれ以外何か起こることはなかった。
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