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なんだか呼び慣れない名前で呼ばれたものだから、不思議な感じがする。


「あの、「様」なんて付けなくてもいいです。せめて「さん」付けで呼んでください」


「わかりました」


帰ってきた隊士にお茶を配る。


「美味いな」

隊士たちは、勢いよくお茶を飲み干していった。

無事に帰って来れたことを安堵しているせいもあり、お茶が特別に感じるようであった。


「みんな良かったね。でもね、帰りが遅いよ。俺たちがここに帰って来てからどのくらい時間が経ったと思っているの?」


小野寺さんの言葉を聞いて、全員が固まった。


「俺だからまだ言わないけど、隊長だったらもっと怒ってるよ」

だんだんと安堵の表情から、無言で表情も厳しくなっていく。


「まぁまぁ、いいじゃないですか。今日は。慣れない土地でしたから」


顔色が悪くなった隊士たちを見ていられなくて、私が仲裁に入った。


「優しいな、小夜ちゃんは」

甘いよという小野寺さん。


「そんなに月城さんって恐いんですか?」

私が隊士たちに尋ねても誰も口を開こうとしない。


「恐いなんてもんじゃないよ、鬼だよ鬼」

彼は、恐い恐いと震える真似をした。


「最初は、私も恐いと感じましたけど、本当はすごく優しい人だなって思いました」


小野寺さんは、はぁとため息をついた。

「それは小夜ちゃんにだけだよ」


「隊長の訓練を受けた後は、もう身体が動かなくなるほど、くたくたになる。副隊長の俺にだって容赦ないんだよ。まあ、自分にも厳しい人だからさ。全体訓練が終わっても、一人で残って鍛錬しているし。すごい人だなって思う」


小野寺さんは、訓練なんて思い出したくないと言い、残っていた甘味を食べ始めた。


蜂に刺されて休んでいた隊士も動けるようになり、いつの間にか夕方になった。


久しぶりに一人で食べる夕食は、なんだか味気がしない。


「本当は小夜ちゃんの近くにいたいんだけど、命令なんだ。青龍も見ているし。何かあったらすぐ呼んでね。俺たち、外にいるから」


小野寺さんは月城さんの代わりにずっといてくれるらしい。隊士たちは交代で私の警備をしてくれると言っていた。


夜寝るのも、もちろん一人。

昨日は、月城さんが隣で寝ていたなんて夢みたい。


なかなか寝付けなかったが、気付けば朝になっていた。


三日間続けて見た夢も見なかった。

あの男の子が月城さんだってわかったからかもしれない、そんなことを考える。


今日は往診が入っているため、小野寺さんに相談をした。

付き添いは嬉しいが大勢で行くと患者が驚いてしまうため、できたら少人数で行動をしたいと伝えた。


「いいよ。わかった。もちろん俺がついて行くから。他の隊士は、わからないところで待機をさせておくよ」


念のため、街までは馬車を出してくれるらしい。


小野寺さんと一緒に何件か往診に回った。


「あら!小夜ちゃん。男前な警官隊さん連れてどうしたんだい?」


「そう言ってくれると嬉しいな、ありがとう。奥さん」

小野寺さんは持ち前の愛嬌で、すぐに患者さんと馴染んでいた。

真面目な対応をする月城さんとは違って、特に女性に好感を得ていた。


「お兄さん、街の見守りお疲れ様。これ良かったら持って行って」


今日往診をする家庭は、経済的にも困窮している人たちが少なかったのもあり、帰る時にはたくさんの贈り物を貰っていた。


「ありがとう!遠慮なく貰っていいのかな?奥さんみたいに綺麗な人に贈り物なんて貰っちゃうと、俺、勘違いしちゃうかも」


「いやね、もう!お上手なんだから」

お客さんもまんざらでもなく、嬉しそうだ。


「小野寺さん、大人気ですね」


「そっかな。あ、これ美味しそうな甘味もらったよ?一緒にあとで食べようよ」


女性の扱いが上手いのか、人との付き合いが上手なのかわからなかったが、帰宅する頃には両手に持てないほどの荷物でいっぱいだった。


「あと一件だけだっけ?今日の往診」


「はい、そうです。あそこの角を曲がって、街の外れの家になります」


そう言って歩いていた時だった。

正面から、十人ほどの集団がこちらに歩いて来た。

あまり関わりたくないような、皆、ガラの悪い男たちだった。


嫌な感じがして不安になり、隣にいた小野寺さんを見る。彼も顔つきが変わったかのように感じた。


「あぁ、面倒くさいな。もう」


「えっ?」


小野寺さんが急に呟いたので、驚いた。


「小夜ちゃん、俺のそばから離れないでね」


そう言うと小野寺さんは歩くのを止めた。

すると自然と通り過ぎると思っていた男たちが、私たちを取り囲んだ。


「お兄さん、よく気が付いたな。話が早い。その女を渡してもらおうか?」


この人たち、私を狙っているんだ。

でも先日、私を襲って来た男の人はこの中にはいない。


「渡せって言われて渡せるわけないじゃん。早くかかって来てよ」


男たちは次々と刀を抜いていく。


「俺はね、隊長とは違って優しくなんかないから。畝内とかじゃ済まさないからね」


早く他の隊士さんを呼ばなければと思い、近くにいるはずの青龍に声をかけようとした。


すると

「大丈夫。もう呼んであるから。でも間に合いそうもない。俺が一人で片付けちゃうから。もし血とかダメだったら、目を瞑っていて」


「兄ちゃん、俺たちを見くびらない方がいいぜ。俺たちは……」

一人の男が話しかけてくる。


「うるさいな、とっととかかってきなよ。お前らが来ないなら、俺から行くから」


「なんだと……」

そう男が言いかけたが、もう遅かった。


まるで、電光石火のよう。

小野寺さんが刀を抜いたと思ったら、次々に男たちが倒れていった。


「ぎゃあぁぁぁあ!!」


あまりの速さに切られたことがわからず、痛みの感覚が後から来るようだ。


辺りは血の海になった。

薬師としてケガの処置もすることがあるため、血には慣れていたがこれほどの量は見たことがない。


「う……」

一人うめき声を上げている男がいた。


「あ、忘れちゃった」

刀についた血を振り払った後、小野寺さんが男に近づく。


「この子を襲えって誰に頼まれたの?」


「……言えない」


「そう。まぁ、わかっているからいいや。言わなきゃ言わないで」


そう言って彼は男の首に刀を突き刺そうとした。


「待ってくれ……。俺たちも知らない男だった。女みたいな男だった。金をくれるからって約束で。それだけだ」


「ふーん。そう」


話している途中で、隊士たちが駆けつける音がした。


「副隊長、お待たせしました」


「後は片付けといて」

いつもの彼とは違い、冷たく言い放つ。


隊士との話が終わったと思ったら、私の方をくるりと向き

「小夜ちゃん、ごめんね。恐かったでしょ?もう大丈夫だからね」

声音も顔つきも、いつもの小野寺さんに戻った。


冷静になって、倒れている男たちを見る。

出血はしているが、早く処置をすれば命に別状はないだろう。


全員生きている。

殺さないように加減をしながら、一人でこの人数と戦ったの?

月城さんが剣技は信用できるって言っていた理由が理解できた。


呆然としている私を見て小野寺さんは

「俺のこと、少しは凄い人って思ってくれた?」


「はい」


当たり前だ。この短時間にこれだけの人数を、殺さずに力加減をしながら戦う……。並大抵のことではない。

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