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真司との情熱的なキスに、頭が芯まで痺れていた。
デスクに押し付けられた背中から、彼の体温がじわじわと伝わってくる。
同期という名の境界線は、もうどこにも見当たらない。
「……あき」
熱を含んだ声で名前を呼ばれ、私の理性が溶けかけた、その時。
デスクの上に置いた私のスマートフォンが、無機質な振動を始めた。
静まり返ったフロアに、バイブレーションの音がやけに大きく響く。
「……っ、誰……」
慌てて身を引こうとしたけれど、真司の腕がそれを許さない。
彼は眉を寄せ、私の肩越しに画面を覗き込んだ。
そこに表示されていた名前を見た瞬間、彼の瞳から一気に熱が引き、冷徹な光が宿った。
『直樹』───私を捨てた、元カレの名前。
「……何、いまさら」
震える手でスマホを手に取ると、着信だけじゃない。
通知欄には短文のメッセージが並んでいた。
『急に別れてごめん。やっぱり亜希じゃないとダメなんだ。今から会えないかな?』
胸の奥が、嫌な音を立てて波立つ。
あんなに酷い振られ方をしたのに、勝手な言葉に揺れてしまう自分が情けない。
「……出るのか?」
真司の声は、低く地を這うようだった。
「出ないわよ。…でも、なんで今さら……」
「どーせ女に捨てられたかなんかだろ。都合悪くなってお前のところ帰ってこようとしてるんじゃないの」
突き放すような真司の言葉に、ハッとして顔を上げる。
彼は冷めた目で私を見下ろし、デスクから体を離した。
「で、亜希はどうすんの?」
「そ、そんなの、断る…わよ……っ、ちゃんと…」
言いかけた私の言葉を遮るように、再びスマホが震える。
迷っている私の手から、真司が強引にスマホを奪い取った。
「っ、ちょっと、何するの!」
彼は私の抗議を無視して、着信を拒否すると、そのまま電源を切った。
そして、唖然とする私の腰を抱き寄せ、無理やりフロアの出口へと歩き出す。
「亜希。お前を泣かせた男に、一分一秒だって時間を使うな」
「ちょ、どこ行くのよ!」
「決まってるだろ。……あいつの記憶、全部俺が上書きしてやるんだよ」
エレベーターに乗り込んだ真司は、一度も私の手を離さなかった。
冷たい無機質な鏡の中で、怒りと情熱が混ざり合った彼の瞳と、私の視線がぶつかり合う。
今夜は、ただの「慰め」では終わらない。
真司の、隠しきれない本性が牙を剥こうとしていた。