夜の帳が降りた街――
古びた家屋の中
若者達が
酒を飲み交わしながら
たむろしていた。
粗野な笑い声が飛び交い
使い古されたテーブルには
空の酒瓶がいくつも転がっている。
油の染み付いた布で
雑に吊るされたランプが
煙草の煙で淀んだ室内を
薄暗い光で揺らめかせていた。
「なぁ、誰だよ?
あの桜の根元に
お宝があるなんて言った奴」
一人の青年が
酒を煽りながら悪態をついた。
「マジだって聞いたんだよ。
先祖代々伝わってるってさ」
「デマじゃねぇか!
わざわざ穴掘ったってのによぉ!」
「くそ、くたびれ損だぜ!」
苛立った声が響き
誰かが手元の瓶を投げつけた。
ガンと音を立てて床を転がり
ガラスが割れる音が室内に響いた。
その時――
【⋯⋯みつけた⋯⋯】
不意に
耳の奥で低く響くような
微かな声が聞こえた。
「⋯⋯?
おい、今なんか言ったか?」
青年の一人が首を傾げて
周囲を見渡すが
誰も気にした様子は無い。
「はぁ?なんも言ってねぇよ」
「いや、今⋯なんか変な声が⋯⋯」
青年達がざわつき始めた、その瞬間。
「⋯⋯なんか、暑くねぇか?」
次第に室内の温度が異常なほど上がり
息苦しささえ感じ始める。
額に浮かんだ汗を拭おうとするが
異様な熱気に指先が湿っていく。
「なんだこれ⋯⋯?
誰か、暖炉にでも火を入れたか?」
「いや、火なんて誰も⋯⋯」
誰かが不審そうに呟くと――
【みつけた⋯⋯っ】
パリンッ!
吊り下げられたランプの硝子が
熱に耐えきれずに砕け散った。
飛び散った破片が床に散らばり
中の灯火が
赤黒い炎となって床に落ちた。
その炎が
まるで生き物のように蠢き
人の形を作り始める。
やがて黄金の髪が靡き
燃え立つ炎の翼を拡げたアリアが現れた。
その深紅の瞳は怒りに燃え
冷徹な表情が青年達を射抜く。
「貴様らだな⋯⋯我が夫を⋯⋯
冒涜したのは⋯⋯」
低く震える声が
怨嗟を帯びて響き渡る。
「な、なんだ!?あの女⋯⋯!」
「人間じゃねぇ⋯⋯!?」
青年達は恐怖に凍りつき
目前に立つ異形の存在に
身体を強ばらせた。
アリアの瞳が
一人の青年を捉えた瞬間
「あ⋯⋯っ?」
男は突如
頭部に異様な熱を感じ
額を押さえた。
「うあああぁぁぁっ⋯⋯!!」
頭の中で
何かが煮えたぎるような感覚。
まるで脳の中に炎が入り込み
沸騰させられているかのようだ。
額の下
眼球の奥で血液が沸き立ち
視界が赤く染まっていく。
「熱いっ!
あづ⋯ぅあ、頭が⋯割れるぅ⋯⋯!」
男は両手で頭を押さえ
膝から崩れ落ちた。
「助けて⋯っ! 誰か⋯ぁがっ!」
叫ぶ度に目から血が溢れ
耳からも鮮血が垂れ流れる。
鼻孔からは赤黒い液体が噴き出し
口からも血泡が滴り
声が次第に掠れていく。
頭蓋骨の内部が脈打つように膨張し
血管がブツッ、ブツッと
破裂する音が耳鳴りのように響く。
「い、痛い⋯! いだいぃああっ!」
痛みに耐え切れず
男は頭を床に叩きつけ始めた。
ガン、ガン、ガンッ――!
音が響く度に
血の飛沫が周囲に散る。
脳が高温で膨れ上がり
圧力で眼球が前に突き出していく。
瞼が裂け
眼球が膨張し
とうとうパンッ!と弾けた。
空洞になった眼窩から
血煙のような蒸気が激しく立ち上る。
「ぅがああぁぁぁっ!!」
内圧に耐え切れなくなり
ギシギシと頭骨が軋む音が響き
頭皮が裂けると
青年の頭が一気に破裂する。
脳漿が血飛沫と共に飛び散った。
断末魔の叫びが室内に反響し
やがてその声も小さくなっていく。
男の身体から炎が噴き出し
赤黒いその炎に全身を包まれながら
ドチャリと力無く崩れ落ちた。
焼け爛れた肉が
異様な甘さと苦さを含んだ腐臭を放ち
充満する匂いと恐怖に
他の青年達は
その光景を呆然と見つめたまま
動けずにいた。
ーーが。
「う、うわあああぁぁぁ!!」
「見ないで、見ないでぇえええ!!」
アリアの視線が動く気配を感じるや否や
パニックに陥った青年達は
一斉に背後の出口に向かって
這いつくばるように逃げ始めた。
恐怖で足が竦み
動きが鈍くなる中
無様に逃げ惑う。
アリアはそんな者達に
一瞥する事もなく
炎の翼を上へと大きく広げた。
「時也を穢した罪⋯⋯
地獄で永遠に悔いるが良い」
鋭く冷徹で
怨嗟を孕んだ声が響き渡る。
青年達が狂ったように叫びながら
背後のドアに触れようとした。
次の瞬間――
空気が歪む程の熱量が迸る。
「死して⋯⋯償え」
炎の翼が叩きつけられ
爆発音が轟いた。
家屋の壁が青年達ごと吹き飛び
炎の柱が迸り
地面には巨大なクレーターが刻まれた。
空気が震える程の熱波が
街の一部にまで広がり
崩れ落ちる建物や火の手があがる。
遠くからは
驚愕と悲鳴の声が重なり合い
混乱の渦が広がっていく。
アリアは背後の光景を
気にする様子も無く
ただ冷たく燃え続ける瞳で
目前で震える
唯一の生き残りを見下ろしていた。
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