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これは、禁忌の影に隠れた禁忌の話。
表の禁忌級が黒龍なら、裏の禁忌級は其なのだろう。
人形兵器と生産地点の多くを破壊したのは其である。
それは、この出来事が起こるまでは、温厚どころではない温厚だったはずなのだ。
彼と会ったことのある龍が言うには生きて行けるかわからないほどに温厚。
尾を軽く喰まれようと、体の上を寝床にされても、角を止まり木にされても、縄張りに入ってきたとしても、怒りをあらわにすることはなく。
獲物のおすそ分けや、縄張りの一部を散策ついでに見回ったり。
その異常なまでの温厚さは、逆にその地を安寧に導いていた。
その温厚さの対象が竜や小さな生き物たちだけなら異常ではなかった。
龍が来ようとも特に気にしない。
普通自身以外の龍が縄張りに入ろうものなら縄張り争いが始まるか、そうでなくとも眉をひそめるが常であるのに、その龍はほとんど気にしない。
さすがに視界に入れば敵視されるだろうと近づいた好奇心旺盛な龍はさらに好奇心が旺盛だったその龍に構われすぎたりしてぐったりして帰ってゆく。
どこからかやってきていたその龍は、いつの間にか揺籃と呼ばれ、のんびりとした日常を送っていた。
あの出来事が起こってからは…
ある日、いきなり揺籃の前に赤色の彗星…バルファルクが落ちてきた。
息も絶え絶え、翼と細身の身体に深々と刻み込まれた傷。翼の表面には火傷。
きっとそれは揺籃にとってトリガーとなったのだろう。
揺籃はバルファルクに応急処置をして隠すと、ゆったりと体を起こし、美しい音を響かせ、飛び立った。
それは、龍たちが歩みだして、一月後のことであった。
カランと何かが落ちた音に困惑した男が音のした方へ駆けてゆく。
曲がり角を曲がったのか、見えなくなった瞬間、あ!と男の声が一瞬したかと思えば途端に響き渡るは水音の混じった何かが折れる音。
怯えた1人が警備用人形兵器をそちらに向かわせるが影から伸びてきた何かに絡め取られる。
ぼき、大きな音が響き、警備用人形兵器が折れ曲がる。
「お、おい!ここは安全じゃなかったのかよ!!!!」
1人の男がそう叫ぶ。
室内はパニックになり、逃げ出す者、本部にヘルプを飛ばそうとして何度も失敗する者。
最後に見たのは青色の刃であった。
城は混乱に陥っていた。
この無尽蔵の人形兵器さえあれば龍など敵ではないと笑っていた男は部屋の隅でがたがたと震えながら何かをブツブツ呟くのみ。あの龍の美しい翼で作られたドレスが欲しいわ!と笑いながら言っていた王女は部屋に閉じこもって震えている。
始めは何だっただろうか?ああ、そうだ。始まりは10日前、無線機から飛び込んできた南の端の生産所からの救難信号だ。
支離滅裂な内容に最初は誰かのいたずらだと思っていた。
それがあってから一晩、ぐるりと一周するように西、東、北と端の方の生産所からの支離滅裂な伝令。
そのどれもに青に関連する言葉が入っていたことに気付いたときにはもう遅かった。
1日も経たず飛び込んでくる支離滅裂な伝令。
それの位置がぐるぐると東西南北を巡りながら近づいてくる。
巨大な龍を討伐したという知らせも、嬉しいものでは無くなった。
ついにはこの間、城から見える生産塔が崩れ落ちた。
青い線に半ばからずぱんと切り裂かれ、重力に従い落ちてゆくのを見てからこの城はずっとこんな調子で。
龍たちの侵攻も謎の黒い龍が出てから加速し続けている。
そんなことを考えながら、昨日崩れ落ちた最後の塔を見つめる。黒い龍もすぐそこまで来ている。
炎に鋼鉄でできた門が溶け落ちた瞬間、ふと振り向くと青い刃が通り道の人間を切り裂きながらこちらに迫ってきて…
あ…れ…?な…んで…逆…さ…
シュレイド王国は滅び、今ここにいるのは黒い龍…黒龍ミラボレアスと揺籃だけ。それ以外はさっさと縄張りへ帰っていった。
「お前は温厚じゃなかったのか?」
黒龍は揺籃にそう話しかける。
「んー、まァ、そうだな。」
緩く目を薄めながら揺籃は微笑む。
ゆらゆらとふわふわの尾を揺らしながら座っている。
じぃっとボロボロの城を見つめる目は仄暗く。
「さすがに驚いたよ。目の前の獲物が崩れたんだから。」
「ふふ、それは申し訳ないね。」
おちゃらけたように笑う2体はシュレイド王国を滅亡に導いた大きな2つとは思えないほどおだやかで。
「私はここに残って資料などが全て風化するまで待つが、揺籃はどうするんだ?」
「私は隠してきた赤色の彗星のあの子が治るまでついてやるからここに居続けるわけには、ねぇ…」
ゆらりと揺れる目は隠してきたという天彗龍を見つめるように遠くを見ている。
「そうか。では、またいつか。」
それを視ていた黒龍はふ、と笑って別れと再会の言葉を呟く。
ぱちりと目をまたまかせ、揺籃は微笑む。
「ああ、また会いに来るさ。じゃあ、また。」
そう言い合うと黒龍は城の方へ、揺籃はどこかの森に戻って行った。
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