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「美香お姉さん、何かあったの?」
奇縁ちゃんが指さした部屋へ入り、向かい合わせになって座ると、奇縁ちゃんが私にそう聞いてきた。
「何って…なにがぁっ?」
私はまだ騙せるかもしれないと思いとぼけるも、奇縁ちゃんは真剣な顔で言った。
「だってさっき、お姉さんに凄い悪口言ってたでしょ?何か悩みがあって、お姉さんに当たっちゃってるのかなあって…」
奇縁ちゃんはそう言って、少し俯いた。
ああ、私はこんな小さな子供に心配させてしまっていたのか。
「…すみれちゃん、私の好きな人を奪った幼馴染みに似てて嫌になったの。偽善者ぶってる感じが堪らなく嫌になって…あーゆーこと言ったの」
私は猫を被るのも忘れ、素のまま話していた。なんだか、話そうとしてみると、心が軽くて。
「…お兄さんのことも、嫌いだから何があったか知らないの?」
急に私の兄貴の話をする奇縁ちゃん。そんなことには気づかず、私は声を荒らげた。
「違っ……くはないけど…!でも!私は兄貴に慰められてきたからっ…!嫌いかもだけど、それでも見つけて、心配したって、文句言うの!」
自分でも訳の分からない回答をしていると分かる。それだけは焦ったり心を開いて、勇気を出して話している、こんがらがった頭の中でも分かる。ただ、整理ができないだけだった。
「…本当に嫌いなの?」
奇縁ちゃんは子供とは思えないほど大人びた真面目な顔をして、こちらに問いかけた。瞳に映ってないとはいえ、真っ直ぐに見つめられては、反射的に顔を逸らしてしまった。
「っ……」
奇縁ちゃんにそう聞かれてから、少しの沈黙が流れた。でも、その沈黙を破り、私は声を荒らげた。
「…っ本当に嫌いなわけないじゃん!!!!」
逸らしていた顔を、あげる。そして、奇縁ちゃんのことを真っ直ぐ見つめた。
「本当に嫌いだったら探さないし!それにっ、今まで慰めてもらってたのに、あんな言葉遣いで兄貴と話したことしか覚えてないって…兄貴がいなくなってから気づいたって意味ないでしょ!?」
そう。私が兄貴との思い出で覚えていることといえば、ヤンキーが使うような荒い言葉遣いで、毎度クソ兄貴としか呼んでいなかった。
兄貴との連絡がつかなくなって、兄貴と会話ができなくなって、兄貴がいなくなってから気がつくなんてずるいと分かっている。
それでも、謝りたい。
謝って恩返しがしたいんだ。
私がポロポロと涙を流しながらも声を荒らげ終わると、奇縁ちゃんは立ち上がった。そのまま私の横まで来て、少しの間隔をあけて床に正座で座った。
すると、私の頭を太ももに乗せて言った。
「お姉さん、休んでいいんだよ。辛いことがあったり、泣きたい時だってあるよね。何したらいいか分からなかったり、自分をクズだって、ずるいって思うことだってあると思う。でも、そんな時は休んで?休んだら、きっと自信を持てるから。考えても考えても分からなかったら、考えるのをやめて、一旦は全部をどうでもいいって思えばいいよ」
そう優しい声で太ももで寝ている私を撫でる奇縁ちゃん。奇縁ちゃんの左手は私の両手を包み込み、奇縁ちゃんの右手は私を撫でている。奇縁ちゃんの顔を見ると目が合い、にこっと微笑んだ。でも、何か含みが絶対にある。
考えたくなるが、唐突な眠気に襲われた。
考えなきゃだめだ。考えなきゃ危ない気がする。そうは思うものの、眠気には勝てなかった。
段々、瞼が重くなり、意識が遠のいていく。
奇縁ちゃんと誰かが会話する声がぼんやりと聞こえる。会話の内容は分からないが、多分この声はすみれちゃんだろう。 春香…あいつに似ているからといって八つ当たりしてしてしまったこと、謝らなくては。
そう思いつつも、私は眠気で意識を手放した。
「…寝た?」
「待って、もうすぐ…あ、寝た」
お姉さんが扉からひょこっと顔を覗かせている。さっきのこともあってか、寝ているこいつを警戒しているのだろう。
「私凄いボロカスに言われてたんだけど…何かしたっけか…」
「自分の好きな人を奪った幼馴染みに似てるんだって」
「うわあ…どんまいとしか…。え?顔?性格?」
「どうでもいいけど、さっさとこいつ退かしてくれない?」
私がそう言うと、意外そうにお姉さんは目を見開いた。
「え?奇縁ちゃんから膝枕してあげたんじゃないの?」
そう言いながら部屋に入ってくるお姉さんにきっぱりと言った。
「いや、信用を勝ち取ってから殺す方が手際いいでしょ。私が膝枕したのもそれが理由。そんな理由がなきゃ、美輝ちゃん以外の生き物をここに乗せるとか勘弁」
そう言って寝ているこの女を少しの間睨み、その後お姉さんを睨んだ。お姉さんは少し戸惑いつつも私に言った。
「…まあ、こいつをガムテープとかで縛って口塞いで、その間に安楽死させるって感じ?」
「いや?起きてから殺す」
私がそう言うと、お姉さんは頭に疑問符を浮かべた。
「私は今頃、美輝ちゃんと楽しくおしゃべりできたかもしれないのに、こいつが悠真のスマホを取りに来たせいで話せなくなったの。それに加えて美輝ちゃん以外に膝枕させちゃったから、楽には死なせない」
そう言うと、今までの恐怖を前面に出したように、顔が青ざめていった。
「…膝枕は自分からしたけどね」
そうお姉さんが呟いたけれど、面倒だったから聞かなかったことにした。
そのまま悠真の妹である美香、こいつを殺す準備に取り掛かった。