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◻︎岡田の奥さんに打ち明ける


それから1時間ほど、そのお店で岡田と2人で岡田の奥さんを待っていた。

さっきまでずっと俯き加減で、ボソボソと話していた岡田は、まるで生き返ったように話し続けている。

スマホの中の家族の写真を見せられて、あれこれと説明をしてくれる。

その間にも、家族からのLINEが入ってきていた。


『お父さん、今夜はすき焼きだよ!』

「これは娘です、今、中学1年で…」

『おとん、英語教えてくれよ、わかんないとこいっぱいでさ』

「これは息子、中3です」



「いらっしゃいませ!」


店員さんの声が響いて、あっ!と女性の声が聞こえた。


「あなた…よかった、ちゃんといてくれて…」


崩れ落ちるように岡田の隣に座った。


「ごめんな、僕、逃げてたよ」

「いいよ、もうそんなことは。こうやって元気で会えたんだから…」


奥さんはハンカチで顔を覆いながら、ポンポンと岡田の膝を叩く。

私はそっと席を立とうとしたのだけど。


「あ、そうだ、紹介します。僕の嫁さんで美智恵といいます」

「はい、あの、私…は…」


なんて自己紹介しようかと考えていたら


「この女性は僕の命の恩人で、西野さんだよ」

「えっ!命の恩人?本当ですか?それはそれはありがとうございます。岡田の妻の美智恵です」


立ち上がって深々と頭を下げられてしまった。

私も思わず立ち上がって、首を振って否定する。


「そんな命の恩人は、岡田さんの方なんですよ、車に轢かれそうになった私を助けてくれたんだから」

「え?どういう…?」


キョトンとしてる奥さんに、岡田が順を追って説明した。

うんうんと、その説明さえもうれしそうに聞いている奥《美智恵》さん。


「…というわけなんだ」

「そういうことだったんですね?西野さんがいなかったら、まだこの人と連絡がつかなかった、それどころかこの人は最悪のことまで考えてたんですね。やっぱり命の恩人です。ありがとうございました」

「あれーっ!私のほうが助けてもらったのに」


なんだか困ってしまう。

それでも、やっと帰ってきた夫を見てうれしそうな奥さんを見ていたら、こっちまでうれしくなってニヤけてしまう。

そして、何の連絡もない自分のスマホを見つめてしまった。


「そういえば…西野さんも家出中とか?」

「あは、そうなんです、昨日夫とちょっとありまして」

「連絡は?した方がいいですよ!絶対西野さんのことを待ってますから」

「…そうなんですかねぇ」


私はなんの履歴もないスマホを見た。


「まだね、昨日の今日ならまだですよ、ご主人も頭に血が上ったままかもしれないしね」


焦ったように美智恵が言う、フォローのつもりなんだろう。


「すみません、今度は私の話を聞いてもらってもいいですか?」

「もちろん!こういう時は誰かに話すだけでも気持ちがいくらか楽になるから」


ね?と岡田夫妻が目を合わせてうなづく。

話が長くなりそうなので、もう一度、飲み物をオーダーした。


私は、貴と結婚した経緯と、家族関係とそれから貴の性格と、これまでにあったこと、それから昨日あったことがきっかけでブチッとキレて家出したと話した。

話しながら、私は貴に対してこんなに不満があったんだと気づいた。

知らない間に心に積もり積もっていたようだ。


「ちょっと、それ、ひどい仕打ちですね」


美智恵が同意してくれて、安心する自分がいる。

私の感覚がずれてる?と思っていたから。


「あなたはどう思う?西野さんのご主人のこと」


美智恵が夫の岡田に聞いている。

腕を組んでしばらく考えていた岡田。

さっきまでとはまるで別人のように、しっかりして見える。


「僕が言えることは…男って視野が狭い生き物なんだと思う。一度にたくさんのことをこなすのが苦手というか。一つのことに集中してしまうと他のことが見えなくなるんだよね?もうそれしか考えられなくなるというか」

「どういうことですか?」


岡田が話すことに、ヒントがあるような気がする。


「ご主人は、西野さんのことを好きかどうか?よりも多分、趣味の車のことしか頭にないんだと思う。西野さんとはお見合い結婚で、苦労して射止めた人とは違うしね。聞いてると生活するのも特に困ってる様子もないし。僕からしたらうらやましい限りだけどね」


「あー、なるほど。切羽詰まってないから好きなことだけにしか目がいかないということですね」

「うん。聞いてるとご主人は一回りくらい年上らしいけど、男はいくつになっても成長しないと思うよ。僕も今回の家出のことで自分のことしか考えてなかったと思い知ったからね」


ね?と美智恵に同意を求めている。

貴は苦労をしたことがないお坊ちゃんだということだ。

言われてみればそんな気がする。


____いっそのこと略奪婚くらい強い気持ちがあったら、もっと違ったのかなあ?


「ね、西野さんはご主人のこと、愛してるんでしょ?」

「私ですか?」


美智恵からの不意の質問に、返事に困る。


「…改めて聞かれると、わからないです。結婚したかったから結婚した、でもそれは好きだから結婚したというのとはイコールじゃないかもしれません。お見合いして、いい人だなと思ったのと、正直、お金では苦労することはないだろうなと思っての結婚でした。打算的ですよね?」

「あら、女は打算的なこともないと家庭は続かないと思いますよ。結婚する時にどんなに愛し合っていても、愛だけでは食べていけませんからね」


うふふと笑う美智恵さんは、さっきまで泣いていた人には見えない。

行方不明になっていたご主人と、再会できたことでとても安心したのだろう。


「愛、だけではダメですか?」

「愛に、情がつかないとやっていけないと思いますよ。そしてね、ずっと夫婦、家族でいると愛の形も変わるんです。夫婦愛とか家族愛とかにね。それがね…男の人はなかなかそれがわからないみたいね」


コツン!と岡田の頭をつついた。


「お金はないよりあったほうがいいけど、その代わりに何かが不足するのかもね」

「愛情が不足かなぁ?でもまぁ、それは私もそうかもしれません」


愛してるから結婚した、というわけじゃないのだから。

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