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バストロがレイブを救出した昨年のハタンガ災害に居合わせられたのも、この夏季放浪の最中の事であった。
ハタンガ周辺の集落が石化によって無人と化した、その数七集落である。
去年の『ハルマツリ』は大事件の発生によって終らざる得なかったが、今年レイブが初めて同行した『ハルマツリ』では様々な収穫を得つつも、のんびりと放浪を続け、各集落の希望する品や依頼を取りまとめてから、今の所一番居心地が良いと判断した、件(くだん)の洞窟に戻って、注文品の準備を続けてきたのである。
まあ砕けた言い方をすれば、『ハルマツリ』は御用聞き、その後ゆっくり時間を掛けて領域内の点検をし、注文が揃い次第『アキマツリ』で納品を終え、稼いだ食料や物品を中心に冬篭りの準備をする、この繰り返しが魔術師とその仲間達、スリーマンセルの一年の過ごし方なのだ。
前述の通り今回は『アキマツリ』である。
サクサクと納品を済ませて戻れば幾日も掛かる事にはならないだろう。
特に今回は七集落が減った事で訪問する集落は六に過ぎない。
早く終わるだろうが、その分収穫が減る事は必然である。
その事を危惧していたバストロはレイブやギレスラ、ペトラと一緒に寝転んでいた背中から、ズンドコ言っている背の主、ヴノに声を掛けた。
「ヴノ、集落から見えない辺りで一旦止めてくれよ! 俺たち降りて歩いて行くからな!」
『ドコドン―― そりゃかまわんが、一体何故なのじゃ?』
ヴノの隣でゆったりと飛んで併行していたジグエラも、長い首を傾げて言う。
『いつも集落まで乗って行ってるじゃないの? なあに? レイブを鍛える為とかそういうのなら反対だわね、『放浪』は『放浪』、鍛錬とは分けて考えるべきだわよ』
ジグエラの声は抗議の色を含んでいた。
バストロは寝転がっていた上半身を起こして説明を始める。
「そんなんじゃない、良いか? 十三箇所有った集落がたった六箇所になっちまったんだ、効率良く、いいやはっきり言っておこう、各集落から限界ギリギリまで搾り取らなけりゃ今年の冬はひもじい物になるぞ…… ペトラも増えたからな…… まさか子供たちにまで、お前らみたいに生のモンスターや木の皮を食べさせる訳にも行かないだろう?」
ヴノが不思議そうに言う。
『それが歩く事に関係有るのかのぉ? 良く判らんが……』
「ふふん、何、情に厚い村人の優しさに働き掛ける、って事さ」
『まあ企んだわねバストロったら、でもそう上手く行くかしら?』
『俺には良く判らんが、まあ気の済むようにしたら良いじゃろうて、さて、ドンドコドンドコ――――」
「おう! 任せて置けよ!」
根拠があるのか無いのか甚(はなは)だ疑問が残る所ではあるが、兎に角自信満々に言ったバストロは、不思議そうな顔で自分を見つめている弟子世代、小さなレイブ、ギレスラ、ペトラに笑い顔を見せながら言う。
「お前らも心配すんなっ! 任せとけっ!」
そう言って再び上半身をヴノの背に任せた自分の師匠に一抹の不安を感じながらもレイブ少年は答えるのである。
「う、うん…… 大丈夫かなぁ……」
と。