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「実は――同じ学校のヤツとケンカをしたんだ」
「どうして喧嘩なんかを?」
「色々あってさ――」
「今まで1度だって喧嘩して帰って来たことなんてなかったあなたがどうして? もしかして悪い連中と付き合ってるんじゃないでしょうね?」
「そういうんじゃないんだ。男同士の揉め事だよ。きっと男にしかわからないよ」
「それに、喧嘩した相手の人も怪我したんじゃないの?」
母さんはガーゼの下の傷口を見ると顔を歪めていた。
「まぁ、それなりに怪我はしたと思う。でも、それはお互い様だからさ――学校にはバレてないから安心してくれよ」
「バレるバレないの問題じゃないの。こういうのは誰も見ていないようで見られているものなの。学校の中なんて広いようで狭いから直ぐに噂は広まって学校側の人間の耳にも入ってしまうかもしれないわ。将来を期待されてるあなたの経歴に傷がついたらどうするの!」
「そんなことわかってるって!」
「わかってない! 本当にわかってるならケンカなんてしないでしょ!」
「確かに母さんの言う通りだよ」
「――――」
「それより母さんに、頼みがあるんだ」
「頼み? 何?」
「そっ、それは―――」
小、中、高校の成績が学年で常にトップの優等生でやってきた俺を誇りに思っていてくれている母さんに、嘘だとはいえ傷つけ失望させてしまうことに強い憤りを感じていた。
「その顔は、何か言いにくいことなのね?」
「まっ、まぁね――」
「言いなさい。ある程度のことなら母さんは驚かないわ。仕事柄色んな事件も扱ってるから大丈夫よ」
弁護士をやっている母さんらしい言葉だった。
「五十嵐マナって知ってるでしょ?」
「県議員の五十嵐大吾さんの娘さんでしょ?」
「そうなんだけど――実は付き合ってるんだ」
「そうなの? 別に母さんは反対はしないし、どうこう言う気もないわよ。但し、高校生っていう立場なんだから色々と気を付けなさいよ」
「色々って何のこと言ってんの?」
「避妊はしっかりしなさいよ。妊娠させたなんてシャレにならないわよ」
「――――」
そんなふうに先に言われてしまったら、余計に言いづらくなってしまう。
「ちょっと、何黙っちゃってるの? まさか―――」
「ごっ、ごめん! そのまさかなんだ。マナを妊娠させてしまった」
「じょ、冗談でしょ?」
「冗談でもふざけてる訳でもないんだ」
「やめてちょうだい! そんなの聞きたくないわ!」
「本当なんだ!」
「ちょっと待って! 突然そんなこと言うなんてどうかしてる! ふざけるのもいい加減にしなさい! もう何も聞きたくない!」
「本当にマナのお腹のなかっ――」
パシッ!
「聞きたくないって言ってるでしょ!」
初めて母さんに殴られた。ゆっくりと顔を上げると顔を真っ赤にして目じりを吊り上げて怒っている母さんの顔が目の前にあった。