コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
1636年、中国は清朝と呼ばれていた統一王朝に、国号を改名され「清」と名付けられた。
「徳州扒鶏(とくしゅうはっけい)を作りたいから鶏肉を買ってきて」
赤い満州服を着た9歳くらいの女の子、俪杏(リーシー)は母親にそう言われてしまい、しぶしぶ街を歩いていた。
赤い提灯が並べられた街並みには、中華料理店やカフェのような店がずらりと並んでいる。
また街の中心部には大きな橋があり、その下に流れる水流は、いつも通りゆるやかだ。
ん? クンクンッ……!
その時、俪杏の方に何やら独特な匂いが漂ってきた。
この甘酸っぱいような匂いは……間違いないっ、杏仁豆腐だ!
俪杏は買い物のこと何かそっちのけにして、匂いのある方へ辿っていった。
そして、ようやく着いた……。
ここだ、ここから甘酸っぱい匂いがする……!
そこは「好吃菜館(ハオチーサイカン)」と看板が立てられた1階建ての中華料理店だった。
垂れ下がる赤い提灯に瓦の付いた特徴的な屋根。
もう入るしかないっ!
中に入ろうとしたところで、俪杏は手に持っている荷物を見て思い出した。
そうだ、買い物をしていたんだった。
しかし、杏仁豆腐の甘い誘惑には勝てっこない。
それに……。
俪杏は荷物から銅幣10枚を手に出した。
これだけあれば、余裕でしょ。
悪だくみをするような笑みを浮かべたまま、銅幣を荷物に戻し店内へと入る。
「いらっしゃいませ! こちらのお席へどうぞ!」
20代くらいの若い女性が明るく出迎えてくれた。
俪杏は誘導されるがままに席に座る。
席は丸いテーブルに何人も座れるような椅子の数々。
ここを一人で使うには何だかもったいない気がした。
さて、メニュー表なんて見る必要もない。
既に頼むものは決まっているのだから。
「何に……」
俪杏が席に座ったのを確認し、店員は口を開ける。
「杏仁豆腐くださいっ!!」
俪杏は店員の口を挟むように大声で口に出す。
幸い、まだ開店したばかりらしく周囲に客は居ない。
「わ、わかりました……では、ほかに何か……」
「やっぱ杏仁豆腐、もう一つくださいっ!!」
俪杏は再び店員の口を挟むように大声で口に出す。
「え、あ、はい……」
(杏仁豆腐以外でって意味なんだけどなあ……うう、やりにくいなあ……)
俪杏は下をうつむき、もじもじとしている。
「あの、やっぱ杏仁豆腐もうひと……」
「もうやめてくださいっ!!」
店員の方も必死だ。
「……ごめんなさい、2つでいいです」
「それでは、杏仁豆腐2つでよろしいですね?」
「はい……」
店員に口止めされたかのように、俪杏は返事をするしかなかった。
「しばらくお待ちください」
店員はそう言って、店の奥へと入っていった。
(んー、杏仁豆腐3つはダメなのかなあ……でも、もっと食べたいしなあ……)
俪杏は杏仁豆腐のことが頭から離れなかった。
なんで3つ以上がダメだったのか俪杏には分からない。
けど、店員に口止めをされてしまったからには、気長に待つしかない。