「店長っ! 杏仁豆腐2つ!!」
「えっ!? まだ隅中ぐうちゅうだぞっ!!」
店長は突然の言葉に驚いていた。
「いいから早くっ!!」
「よーしっ!!」
(なんだか慌ただしいな……)
5分後、ついに店員が真っ白な皿を持ってきた。
その皿の上には、スライムのように揺れ動く見事な杏仁豆腐が2つ付いている。
その杏仁豆腐に俪杏は、ぱあああと明るくなる。
朝ごはんはあまり食べてこなかったから、より嬉しさがある。
店員は、その皿をこちらに置き、「失礼します」と言って立ち去った。
さてさて、真っ白なミルクに、ちょこんと乗った赤い杏仁。
もう我慢できない。
俪杏はカップのすぐ傍にあった散蓮華ちりれんげを手に持ち、さっそく杏仁豆腐を掬い上げた。
やはり何度見ても見事だ。
こういう中華料理店には一度も行ったことが無かったから、めちゃくちゃ嬉しい。
「いっただっきまーす!!」
そして、掬い上げた杏仁豆腐を口の中へ入れた。
その瞬間、ほんのり甘い味が口いっぱいに広がった。
しばらくすると、さっぱりとした後味がした。
なんて美味しいんだろう。こんなに美味しい杏仁豆腐は生まれて初めてだあ……!!
その後も俪杏は、手を休むことなく、残った杏仁豆腐もどんどん口に入れていった。
「あの子、なんで、あんなに食べられるのかしら……」
柱の陰でこっそり見ていた店員は、ぼそっと呟く。
あのスピードで杏仁豆腐を食べられれるのは、ある意味、異次元だ。
「さあな……」
その光景には、料理人でさえも驚くほどだった。
食べ始めてから、わずか10秒で2つの杏仁豆腐は俪杏の中へ入っていった。
「ごちそうさまっ!!」
俪杏は、そのまま中華料理店を出ようとした。
「ちょっと待った!! お会計をっ!!」
「あっ、そうでしたっ」
急ぐ店員に俪杏はてへっとする。
「えーと、お会計は、銅幣4枚ですね」
これと……これと……。
「はいっ!!」
俪杏は銅幣4枚を店員に渡す。
店員はそれを確認し、茶色く小さな袋に入れた。
「ありがとうございました!」
俪杏はスキップをしながら家へと向かう。
「杏仁豆腐、美味しかったなあーっ!!」
あれっ? でも、何か忘れてるような……。
俪杏は、ゆっくりと足を止める。
はっ!!
「そうだっ! 買い物を頼まれてたんだったっ!!」
気づいた頃には、もう家の前まで来ていた。
ああ、振り出しに戻ってしまったんだ。
……仕方ないね。
俪杏は再び、徳州扒鶏を買いに出かけたのだった。
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