テラーノベル
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そのレストランの皿は、どれも眩しいほどに白かった。
「ねえ、これ見て。ひどくない?」
向かい側に座る彼女が、スマートフォンの画面を突きつけてくる。そこには、どこかの誰かが犯した「不謹慎」や「不道徳」に対する、数万件の石打ちの記録が流れていた。
僕は、運ばれてきたばかりのローストビーフを眺める。完璧な火入れ、完璧なソースの配置。そして、それを支える真っ白な皿。
「そうだね、間違ってるね」
僕は、彼女が欲しがっている言葉を、冷蔵庫から出したばかりのバターのような無機質さで差し出した。彼女は満足そうに、自らの「正しさ」という名のナイフを研ぎ澄ませ、一切れを切り出す。
歴史を繰り返すというのはこの事だろう。
画面の向こうで誰かが炙られ、誰かが安全圏から石を投げ、肉を喰う。
このテーブルの上では、すべてが道徳的だ。僕たちはルールを守り、マナーを尊び、画面の向こう側の「悪」を軽蔑することで、自分たちの清潔さを確認し合う。
だが、ふと思う。
この白すぎる皿の裏側には、洗いきれなかった汚れや、製造過程でついた小さな傷が隠れているのではないか。そして、僕たちが口に運んでいるこの肉は、かつて生きていたものの「死」そのものではないか。
「どうしたの? 食べないの?」
彼女の声は、どこまでも澄んでいる。その瞳には、一点の曇りもない正義が、
愚かさが宿っていた。
僕はフォークを手に取った。
「いや、あまりに綺麗すぎて、汚すのがもったいないと思ってね」
僕は、誰かが残した跡のような真っ赤なソースを白い皿の上に引きずり、ゆっくりと、その「正しさ」の真ん中に、消えない染みを刻みつけた。
食器に、肉に、道徳に、全てに感謝を
『ご馳走様でした』
コメント
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おもんなかったらすんません