フィリピン、炎のような夕日が海の水平線に沈みゆく中、戦いの幕が切って落とされる。
神楽一刀斎の体に宿る異能は、もはや常識を超越していた。その速度は秒速1000kmに達し、どんな敵も捕えることができる。だが、その力を持ちながらも、篠田の中で渦巻く葛藤は決して消えなかった。
「冥王、俺が倒す。」篠田の声が低く響いた。彼の視線は、フィリピンの大地に広がる冥王会の本拠地を見据えている。冥王のクローンは既に倒されているが、冥王本体がまだ残っている。冥王は、篠田が抱える力のすべてを知っていた。神楽一刀斎の異能、それが何よりも恐ろしい存在であった。
神楽一刀斎の力が暴れ始めた瞬間、篠田の体が一気に駆け出す。そのスピードは目にも留まらぬ速さで、地面を蹴り上げては、空気を引き裂きながら一瞬で目の前に現れた。
冥王がその動きを感じ取ったのは、ほんの一瞬だった。だが、冥王もまた異能の使い手。彼の目の前に現れた瞬間、冥王の手が動き、空間そのものが歪みだした。
「速さだけでは勝てない。」冥王の冷徹な声が響き、篠田の目の前に黒い波動が広がった。
その波動は「虚無の手」――冥王の異能であり、霊体も物体も無に返す力だ。それが篠田を包み込むように迫ってきた。
神楽一刀斎の反応速度は秒速1000km。それは冥王の攻撃が物理的な速さで来るわけではなく、空間を歪める力に対しても、神楽一刀斎の意識は反応する。篠田はわずかに腰を屈め、さらにスピードを増した。
「来い!」篠田は全身に神楽一刀斎の異能を集中させ、虚無の手を貫通しようとする。だが、その力が篠田の足元に届くと、彼の体は一瞬で消失したかのように消え去った。
冥王は冷笑を浮かべる。彼の力は、時間と空間を操るものであり、どれだけ速く動こうがその存在自体を無に返すことができる。篠田はその力に屈し、しばし姿を消したように見えた。
だが、冥王が油断したその瞬間、篠田が再び現れる。今度は、冥王の目の前から一瞬で後ろへと移動していた。
「速さだけじゃない、冥王。」篠田の声が冥王の背後から響く。冥王の目が鋭くなると、篠田はすでにその手に伝説の刀「神楽一刀斎」を握りしめていた。
その刃が冥王に向けて放たれる瞬間、空間が一瞬にして切り裂かれた。神楽一刀斎の刃が冥王の体に触れたその瞬間、冥王は空間の歪みの中で一瞬だけ動きを止めた。
「……何だ?」冥王は目を見開く。その刃が、冥王の身体を物理的に傷つけることはない。それでも、冥王の内なる力が一時的に乱れた。
篠田はその瞬間を逃さず、次の瞬間には冥王の正面に回り込み、再び神楽一刀斎の刃を冥王の心臓に向けて放つ。冥王はそれを察知し、全力で回避しようとするが、間に合わなかった。
神楽一刀斎の刃が冥王の体を貫いたその瞬間、篠田は叫んだ。
「これで終わりだ!」
冥王はその力を使い切り、空間の歪みが一瞬消える。冥王の体が静かに崩れ落ち、最終的にその命を落とすのだった。
篠田は倒れた冥王を見下ろし、深いため息をついた。神楽一刀斎の異能を引き出し、冥王を倒すことができたのは、ただ一つ――篠田の心の強さと、神楽一刀斎の力の融合によるものだった。
「勝ったか……。」篠田は静かに呟くと、再び目を閉じた。その体の中で、神楽一刀斎の力が静まることを願いながら。
冥王は、もはやこの世に存在しない。