手を繋ぎたい
夕暮れの放課後。
部活もない日、2人はなんとなく一緒に校門を出た。
「……どっか寄ってく?」
そう言ったのは、いるま。
らんは一瞬きょとんとして、すぐ笑った。
「うん。……でも、いるまから言うなんて珍しい」
「……うるせぇよ、たまには俺から言ってやるよ」
「ふふ、うれしー」
並んで歩き出す。
らんの肩が、少しだけ近い。
でも、2人の手のあいだには、あと数センチの空白がある。
(……手、つなぎてぇ)
けど言えなかった。
言ったら、変な空気になるかも。
まだ、付き合ってるって実感もちゃんとできてないし、
急に意識させたら、らんが困るかもしれない。
(てか……俺が緊張してんのかよ……)
いるまは自分の掌を見ないように、無言で歩いた。
すると突然、らんが言った。
「……ねえ、いるま」
「ん?」
「手、つなぎたいって思ってる?」
「っ……は?!」
顔を向けると、らんは少し赤くなりながらも、ニコッと笑っていた。
「言ってくれたらいいのに俺、ぜんぜんいいよ?」
「……っ、言わせんなよ、そういうこと……!」
「俺が言ってもいいけど?」
「……」
沈黙。
その数秒のあと、いるまは、小さく息をついて、ポケットに突っ込んでた手を出した。
「……つなぐか。ほら」
「うんっ!」
らんが嬉しそうに、その手を取る。
指先が触れた瞬間、心臓の音がぐっと跳ねた。
「いるまの手、あったか//……」
「お前のが冷たいだけだろ」
「えー、じゃあ温めて//?」
「……しょーがねぇな」
でも、指をからめるように握った手は、ほどける気配もなく。
誰にも見られていないこの時間が、ずっと続けばいいのにって思ってしまうほど、優しい夕方だった。
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