「仕事相手が見えたからもう帰って!」
「夏希の仕事相手なら挨拶しておくよ」
「バカな事を言わないでよ。なんで将嗣が挨拶すんのよ! 早く帰って!」
「美優ちゃんが離してくれないんだよ」
将嗣に言われて美優を見ると、その小さな手は、将嗣の人指し指をギュッと握っている。
「美優、ばっちいから離しなさいね」
「ヒデー!」
玄関先で、ギャーギャー騒ぎたて、将嗣を追い返そうと私は必死だ。
すると、朝倉先生が慌てた様子で、こちらにやって来る。
「谷野さん、大丈夫?」
あああぁあああ!!(心の叫び)
朝倉先生は、私を庇うように将嗣との間に割って入って、二人は睨み合う状態になってしまった。
なんと、バツの悪い。どうしよう。
でも、この事態を収束させられるのは、自分なのだ。
さあ、覚悟を決めろ。
「朝倉先生、ご心配頂きありがとうございます。昔の友人が、アポなしで来てしまったので、今、帰って頂く所だったんです」
将嗣へ か・え・れ・と強い視線を送る。
すると、私の思惑とは反対に将嗣は朝倉先生に話し掛けた。
「夏希の仕事相手の方ですね。夏希がいつもお世話になっております。私、美優の父親の園原将嗣と申します」
ぎゃああぁーーー! やめてー!!(心の叫び)
いつも穏やかな朝倉先生の瞳がきつくなり、眉山がピクリと上がる。
「美優ちゃんの父親? 今さら、何を言っているんですか? 谷野さんが、一人で苦しんでいる時に手も差し伸べない人が……」
朝倉先生の言葉に将嗣は、グッと言葉を詰まらせた。
「今日は、これから打ち合わせがあるの。帰ってくれる?」
だから か・え・れ・と目で訴える。
「わかった。また、来るよ。これ、好きだろう? 夏希に買ってきたんだから食べてくれよ」と、袋を押し付けられる。
「美優ちゃん、またね。今度、パパと遊ぼうね」
もう、これ以上余計な事を朝倉先生に言わないで欲しい。
やっと、察したのか将嗣は「連絡する、またな」と言って帰っていった。
朝倉先生と二人(美優もいるから正確には三人)
この後、仕事をしなければならないのに、この気まずい空気をどうしてくれよう。
くそぅ! 将嗣のヤツめ~!
美味しいケーキぐらいじゃ、ごまかされないぞ!!
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