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『エルダス・ファミリー』は『血塗られた戦旗』警戒のための戦力を少し残して、全戦力の八割に当たる三百人の構成員を動員。『暁』への攻撃を企図していた。
「狙いは『暁』本拠地、通称農園だ。そこに居る奴は皆殺し、そこにあるものは好きなだけ奪え、早い者勝ちだ」
『エルダス・ファミリー』本拠地会議室で逆立った金髪の男が居並ぶ屈強な男達へ指示を飛ばす。
「なら先鋒は俺にやらせろ、親父。なぁに、あんな奴らすぐに踏み潰してやるさ」
顔中に刺青だらけでスキンヘッドの大男が口を開く。『エルダス・ファミリー』幹部のバンダレスであり、武闘派揃いの組織でもナンバーワンの暴れん坊として恐れられている。
「おい、バンダレス。そりゃ無いだろ?手柄を独り占めしようってつもりだろうが、そうはいかねぇぞ」
口を挟むのは茶の短髪に隻眼の男、マクガラス。『エルダス・ファミリー』で汚れ仕事を一手に受け持っている幹部であり、拷問が好きで残忍な男として知られている。
「黙れマクガラス。てめえの出番なんざ無ぇよ。引っ込んでろ」
「そうはいかねぇ。『暁』のボスは小娘だって話じゃねぇか。どんな声で鳴くか楽しみなんだ」
マクガラスは隻眼を愉快そうに歪める。
「変態野郎が、てめえに渡したら楽しみが無くなるじゃねぇか」
「壊すことしか知らねぇバンダレスには勿体無ぇって言ってんだ。壊すにしても、じっくりとやらねぇとなぁ!」
「お前達二人に任せるのは不安しかないな」
いがみ合う二人に言葉を放ったのは、テンガロンハットを被った如何にもガンマンと言う風体の男。名はキッド。『エルダス・ファミリー』幹部であり、早撃ちキッドと呼ばれる実力者である。
「ああ!?しゃしゃり出てくんな!キッド!」
「てめえ文句があんのか!?」
バンダレス、マクガラスの二人は立ち上がりながら怒りを露にする。
「相手が新参だと言っても、クリューゲのバカが失敗して返り討ちにあったのを忘れたのか?」
「そりゃあ、あの陰湿なクリューゲがバカだっただけだろ。うちの看板に泥を塗りやがって!」
「ああ、もう一度殺してやりてぇよ。あのバカのせいでどれだけ迷惑したか」
「それに、『暁』にはベルモンドが居る。あいつの腕は確かだ。それは俺達自身がよく知ってる筈だろ。舐めて良い相手じゃない」
「なんだ、キッド。てめえ、ビビってんのか?」
バンダレスが小馬鹿にしたような挑発を行う。
「ああ、ビビってるさ。久しぶりに背中がチリチリするような、お互い命を懸けた戦いが出来そうな相手だからな」
それをキッドは涼しげに受け流す。
「随分と『暁』を買ってるみたいだな、キッド」
マクガラスが隻眼を歪めたまま言葉を投げる。
「まぁ、最近戦ってきた奴らより骨があると見てる。『血塗られた戦旗』相手にするよりは楽だろうが、舐めてると痛い目を見そうだ。それに、忘れるなよ?俺達には『血塗られた戦旗』って本命が居るんだ。下手に犠牲を出したらそっちに響く」
キッドの言葉に二人も少しばかり落ち着く。
「そりゃあ……まあなぁ」
「『血塗られた戦旗』の奴らが本命だもんなぁ。あいつら相手に勝つなら、兵隊をあんまり減らしたくは無いな」
バンダレス、マクガラスの二人がため息混じりに漏らす。
現に総動員して三百人かき集めたがそれでも『血塗られた戦旗』を相手にする場合犠牲は余り出したくはない。それが『エルダス・ファミリー』の本音なのである。
と、ここでボスであるエルダスが口を開く。
「確かにキッドの言う通りだ。クリューゲのバカのせいでうちはギリギリだ。これ以上の動員は難しいだろう。出来るだけ少ない犠牲で『暁』を潰したい」
エルダスは居並ぶ幹部連を見渡す。
「バンダレスの突破力は俺も信頼してるが、後先考えるのが苦手だろ?だからやり過ぎる。お前は本命に使いたい。良いな?」
「親父がそう言うなら、仕方ねぇな」
バンダレスは不承ながら従う。
「マクガラス、お前もだ。『暁』の小娘が目当てみたいだが、そればっかりに目がいって余計な犠牲を出すかも知れねぇ。いつもなら良いが、今回は我慢しろ」
「なら小娘の死体をくれ。それならボスの言う通りにするぜ」
「別に構わん」
エルダスはマクガラスの要求を飲む。死体相手に彼が何をするかわかってる幹部連は皆嫌悪感を露にする。
「で、だ。そこまで慎重な意見を出したんだ。キッド、『暁』はお前に任せる。何人か連れていけ」
「任せてくれ、ボス。ただ、そのためには情報が必要だ。懐が厳しいのは分かってるが、情報屋を雇う金位は何とかならないか?」
「悪いが、それは無理な話だ。うちには金貨一枚も残ってない。うちに残されたシノギからかき集めてるが、それも動員につぎ込んだ」
エルダスは苦々しく語る。十六番街を支配してシェルドハーフェンでは上位に食い込む大勢力を誇った『エルダス・ファミリー』が、今では情報屋すら雇えない状態まで落ちぶれたのだ。
「そうか……いや、仕方ないな。『血塗られた戦旗』が動いてるんだ。すぐに動員をかける必要があったのは分かる。ボスの落ち度じゃない」
「悪いな、キッド」
「その代わり、少しだけ時間を貰うぞ?情報屋を雇えなくても、借りた奴らと俺自身で少しでも調べたいからな」
「構わねぇよ。他の奴らは『血塗られた戦旗』に対して備えを固めろ。キッドが『暁』を潰したら、直ぐに反撃する。俺達が落ち目だと勘違いしてる奴らを返り討ちにしてやるぞ!」
「「「おうっ!!!!」」」
居並ぶ幹部連が鼓舞に応じる。『暁』襲撃は幹部のキッドに任せることが決定した。
翌日、早速キッドは小飼の部下達を四方に散らせ自らも酒場などを巡り情報を集めた。
そして、酒場ラッキー・ロウで情報を仕入れることに成功する。
「そいつは本当かい?マスター」
キッドはカウンター席に座り、相変わらず無愛想なマスターに声をかける。
「昨日冒険者みたいな格好をした奴らが話してたから、うそじゃねぇだろうな」
「確認してみる。こいつは情報料だ」
銀貨一枚をカウンターに置いてキッドは足早に酒場を去る。
「『エルダス・ファミリー』の幹部が銀貨一枚か。堕ちたもんだな」
マスターの呟きは店内に空しく響いた。
情報の裏を取るためにキッドはその足でシェルドハーフェンにある冒険者ギルドを訪ねた。
「ええ、確かに先月新規のダンジョンを発見したと正式に報告がありました。ただうちは冒険者に余裕がないためまだ調査は行えていないんです」
受付嬢から『暁』本拠地である農園にダンジョンが出現したことを確かめたキッド。
「そうかい。その調査は冒険者じゃなきゃ駄目なのかい?」
「うちは年中人手不足ですよ?外部に委託しています。もちろん報酬は出しますよ?」
「そいつぁ良い、俺達が受注しても良いかい?」
「今のところ引き受けた方は居ないので、お願いしたいくらいです。ただ、命を失うなど何があっても自己責任ですからね?」
「分かってるさ、手続きを頼む」
こうしてキッドは部下達と一緒に偽名を使ってダンジョン調査の名目で農園侵入を狙う。
「ふっ」
その冒険者ギルドに情報屋のラメルが網を張っていると知らずに。