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『エルダス・ファミリー』幹部キッドの動きはラメルが張り巡らせた網に引っ掛かり、それは『暁』の知るところとなった。
『エルダス・ファミリー』との戦いに備えて『暁』は情報収集に余念がない。
「簡単に言えば、『エルダス・ファミリー』の幹部で厄介な奴らは三人だ。バンダレス、マクガラス、そしてキッドだ」
ベルモンドは幹部連を集めて知る限りの情報を話した。
顔中刺青のバンダレスは突撃隊長として最前線を張っているが、思慮が足りない面を。
隻眼のマクガラスは残忍で卑劣な男だが窮地に弱いこと。
そして。
「今回ラメルの旦那が報せてきた奴はキッド。早撃ちキッドの通り名で呼ばれてる奴でな、今のファミリーで一番冷静な奴だ。だからこそ、一番に潰せるのは正直有難い」
「早撃ちキッド、聞いたことがありますね」
カテリナが口にする。
「シスター、どんな人なんですか?」
シャーリィが質問する。
「ガンマンを気取っているバカですよ。確かに早撃ちの腕は確かだと聞いていますがね」
「ああ、あいつが弾を外すところは見たことがないな。と言っても、五年前の話だ。最近は分からねぇな」
「それなら心当たりがあるので、ベルは気にしないでください。新しい情報を手に入れてみますよ」
満面の笑みを浮かべるシャーリィ。一同はその瞬間地下室を思い浮かべた。
「やり過ぎないように、俺が見とくよ」
ルイスがシャーリィに同行する旨を伝える。
「それでは、本題に入りましょう。奴等はダンジョン調査のために此方へ潜り込む算段なのだとか?」
セレスティンが議題を戻す。
「ああ、昨日冒険者ギルドから正式に要請があった。こいつを断るのは避けた方がいい」
「冒険者を敵に回したら取引に影響が出てしまうので、受け入れる旨返事を出しました。彼らは数日以内に農園へ来ますね」
シャーリィが答えて一同を見回す。
「どうするのですか?シャーリィ。来た瞬間殺りますか?」
「それだとうちの評判が最悪なことになりますよ?シスター。彼らにはダンジョンの調査を行ってもらうつもりです」
「良いのか?奴等が好き勝手に動くかも知れねぇぞ?お嬢」
「問題はありません。ダンジョンで死んでいただきますので」
さらりと抹殺を決断するシャーリィ。
「ダンジョン内部で仕留めるのですな?お嬢様」
セレスティンが確認するように問いかける。
「ダンジョンに入った人が亡くなるなんて珍しいことではありませんからね。それに、ダンジョン内部はマスターが自由に作り替えることが出来ます。今日中に相談してみるつもりですよ」
「マスターって、ワイトキングの事か。大丈夫なのか?シャーリィ」
「心配は無用ですよ、ルイ。」
「ではシャーリィ、殺すのは確定したと考えていいのですね?」
「はい、シスター」
「なら作戦は貴女に任せます。キッドは私が殺ります」
「おっ、シスターが殺るのか」
ベルモンドが意外そうにカテリナを見る。
「たまには働きを見せないといけませんからね」
「スタンピードで十分に暴れただろ」
「魔物相手ではなく人間相手ですよ。良いですか?シャーリィ」
「もちろんです。では会議を一時中断。私は地下室へ向かいます。ルイ、行きますよ」
「あいよ。皆は休んでてくれ」
~教会地下室~
「ごきげんよう、グリーズさん。今日はお話を伺いに来ましたよ?」
ワンピースを着て満面の笑みを浮かべながら、薄暗い部屋を進む。
「やめろ……もうやめてくれ……」
そこには傷だらけで、それでも手当てをされて生かされている男が居た。彼はグリーズ。先の戦いでシャーリィを狙撃した『エルダス・ファミリー』の狙撃手である。
「お尋ねしたいのは、あなた方の幹部であるキッドについての情報なんですが」
「やめろ…やめてくれ…」
うわ言のように繰り返すグリーズ。
「はて?質問に対してお答え頂けないと。素晴らしい忠誠心です。その事に敬意を表して、私も誠心誠意お話しさせていただきますね」
益々笑みを深くするシャーリィ。
「待てよ、シャーリィ。俺に任せてくれないか?」
ルイスがシャーリィを止める。
「ルイが?別に構いませんが」
許可を得たルイスはグリーズに近付く。
「なあ、アンタはシャーリィを撃った。今すぐに殺してやりてぇが、それは止めとく。キッドの情報を吐け。今は痛い思いをしたくねぇだろ?」
「……痛いことしないか?」
グリーズが顔を上げる。
「今はな。黙ったままだとシャーリィが何をするか分からねぇぞ?俺は止めねぇからな?」
「……分かった」
グリーズの話では、キッドはリボルバーの2丁拳銃スタイルで戦うが、命中精度は最近落ちてきたとのこと。これは最新式のリボルバーの扱いにまだ慣れていない証拠であった。
また自分が仕込んだ小飼達を率いており、集団戦の心得もあるのだとか。
「なるほどな、貴重な情報だ。弱点とか無いのか?」
「キッドは銃の扱いに慣れきってるから、俺が知る限りステゴロはさっぱりだった筈だ」
「近接戦に弱いか。そりゃいい知らせだな」
「だが早撃ちの腕は確かだぞ。頭に風穴開けられねぇように気を付けるんだな」
「そうするわ。シャーリィ、情報は引き出せたぞ」
「御苦労様です、ルイ。ではグリーズさん、お楽しみといきましょうか?」
「おい待て!話したじゃねぇか!約束が違う!」
「俺はなにもしねぇよ。約束したしな。シャーリィがなにもしねぇとは言ってねぇだろ」
「さあさあ、今日はノコギリを試してみましょう。左足はもう壊死してしまったので、斬ってしまいましょうね」
満面の笑みでノコギリ片手に近付くシャーリィ。
地下室にグリーズの悲鳴が響き渡った。
「あんまり派手にやらせるなよ、ルイ。後戻り出来なくなるぞ」
先に地下室を出たルイスをベルモンドが迎える。
「分かってるよ、ベルさん。手遅れだとは思うけど、外道の道にはいかせねぇつもりだ。今はまだ相手はシャーリィに手を出した奴等だけだからな」
「ならいいんだが。お嬢のあの趣味だけは何とかしねぇといつか問題になるからな」
「隙を見てグリーズの奴は俺が殺っとく。シャーリィは怒るだろうけど、その辺は責任もって何とかするからさ」
「そうしてくれ。お嬢のお遊びにはシスターも良い顔をして無いからな」
「ああ。シャーリィが新しいおもちゃを手に入れる前に俺達で始末しよう、ベルさん」
「それが難しいんだが、今回はシスターがキッドを殺る。抜かりはないさ」
「だな。先に戻るよ、面白い話を聞けたからな」
「あとで俺にも教えてくれよ、ルイ」
シャーリィがお楽しみの最中、情報を得た『暁』は幹部キッドを迎え撃つため備えを始める。それはダンジョンを利用した抹殺計画だった。