テラーノベル
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戻らないと知っているから/NEmimi
もう戻らないと、分かっている。
それでも私は、今日も同じ場所に立っていた。
駅前の小さな広場。
季節外れの白いチューリップが、誰にも気づかれずに揺れている。
あなたがいなくなってから、どれくらい経ったのだろう。
数えようとしたことはある。
でも、途中でやめた。
数えたところで、
あなたが戻ってくるわけじゃないから。
連絡は来ない。
約束も、理由も、説明もない。
それでも私は、
「もしかしたら」を捨てきれずにいた。
「もう諦めなよ」
そう言われるたび、私は笑ってごまかした。
分かってる、と。
自分が一番、分かってる。
あなたはもう、
私のところには戻らない。
この世界には–––戻らない。
彼岸花が咲いていた。
鮮やかな赤が、やけに現実味を帯びて見える。
「――あきらめ。」
その言葉が、胸の奥に沈んでいく。
私は気づいてしまった。
自分が待っていたのは、あなたじゃない。
待っていたのは、
あなたを愛していた頃の自分だった。
必死で、
幸せで、
何も疑っていなかった、あの時間。
諦めることは、
あなたを忘れることじゃない。
あの時間を、
なかったことにすることでもない。
私はゆっくりと、その場を離れた。
振り返らない。
白いチューリップは、
まだそこに咲いていた。
失われた愛は、戻らない。
でも、愛していた事実まで消えるわけじゃない。
諦める。
それは、終わりじゃない。
立ち止まるのを、
やめるという選択だ。
彼岸花の赤が、
少しずつ遠ざかっていった。
失われた愛は、もう戻らない。
それでも、それを抱えて生きることはできる。
あきらめとは、忘れることじゃない。
ただ、立ち止まらないと決めることだ。
私は歩き出す。
過去を抱えたまま、未来へ。
彼岸花の花言葉は あきらめ
白いチューリップの花言葉は 失われた愛
コメント
2件
すごく物語に引き込まれました。感動です。