テラーノベル
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「んまっ、……んまぁい……っ」
乾杯したあと、私たちは鉄板の上でジュージューいっている料理をシェアし、お好み焼きは一人一枚しっかり食べる。
お酒を飲みながら美味しい料理に舌鼓を打ち、ゆっくり語らいたいところだけれど、人気店なので行列はまだまだ続いている。
カウンター席のみのこぢんまりとしたお店なので、長居をしては申し訳ないと思い、ペロッと食べたあとは「ごちそうさまでした」を言ってお店を出た。
「はー……! 食べた! いい村でした」
「魔王アカリンなら『ハシゴする』って言いかねないと思ってたけどな」
尊さんはクスクス笑い、ネタを引きずる。
「すこやかに一晩寝たあと、ハラペコタンクがゼロに戻るので、今度は別の場所を攻めに行くんですよ」
私も適当にそれっぽい事を言い、クスクス笑う。
慣れない街にいるのに、尊さんと一緒だからかまったく不安じゃないし、緊張もしていない。
けれど明日の事を思うと、旅行先で満腹になって幸せ一杯……という気分ではない。
「……明日、どうなるんでしょうね」
ゆっくりと路面電車のある通りへ向かいながら、私は尊さんの手を握って尋ねる。
「どうなるも、正々堂々、向き合って想いの丈をぶつけるしかない」
「……頑張ってくださいね。遠くから応援してます」
「ん?」
尊さんがいきなり立ち止まったので、私は手をクンッと引っ張られて「うわお」とバランスを崩す。
「なんですか。急ブレーキ危険!」
文句を言うと、尊さんはしげしげと私を見つめてくる。
「遠くって?」
「え? 二人で会うんでしょう? お邪魔でしょうし、どこか別の所で時間潰ししてますよ」
「俺と宮本の話、気にならないわけ?」
「気になりますよ! 今最もホットな話題ですよ!」
「ラジオのDJか」
尊さんはフハッと息を吐くように笑ったあと、またゆっくり歩き出す。
「宮本は多分、いいって言うから、同席しろよ。朱里にも聞く権利はあると思うし」
「……そ、そりゃあ気になりますけど、宮本さんと私、初対面ですよ? しかも元カノと今カノ! その二人が顔を合わせた上で過去の話って……、気まずくないです?」
「でも朱里は、俺が宮本と二人になるの嫌だろ? 向こうの旦那さんも同じだと思う」
そう言われ、私はハッとする。
「『今さら寄りを戻すなんてあり得ない』って、朱里も宮本の旦那さんも信じてると思うけど、気になるもんは気になるし、『過去に清算つけてこい!』って送りだす気持ちでいるいっぽうで、『過去の恋人に会って少しでも気持ちが揺らいだらどうしよう』って不安にならないか? ……逆の立場で、俺が朱里を元彼と二人で話させるなら、気になって仕方がない」
「……昭人と会った時、変装してついてきましたもんね」
「……あいつの事はさておき、今のは架空の元彼の話だよ」
尊さんは溜め息混じりに笑い、繋いだ手を前後に揺らす。
「……尊さんの言う通りですけど……」
ボソッと呟くと、彼は「よし!」と言うと立ち止まり、スマホを出した。
「ちょっと宮本に確認とる」
「えっ?」
私が驚いて固まっている間、尊さんは以前の躊躇いはどこかへ、トトト……と宮本さんにメッセージを送っている。
……多分、酔いの勢いもあるのかな。この人、そう簡単には酔わないけど。
トンッとタップして送信したあと、尊さんはまた私の手を握ってブラブラ歩き出す。
「向こうの旦那さんは子連れで、真面目な話に同席するのに向いてない。でも二人きりは彼も嫌がると思う。その点、朱里がいれば俺たちも向こうも安心できるんじゃないか? 宮本だって元彼と二人きりで会って、旦那さんに嫌な想いをさせるのは避けたいだろうし」
「緩衝材?」
「そういう事。……おっ」
その時、尊さんのポケットの中でスマホが震え、彼は「悪い」と立ち止まってメッセージを確認する。
「ん、大丈夫だってさ。宮本もいま言ってたみたいな気まずさを多少なりとも抱いていたから、朱里がいると助かるって」
「それなら良かったです」
安心した私は、ニコッと笑って胸を撫で下ろす。
そのあと、顔の知らない宮本さんが、家族と一緒にこの辺を通っている姿を想像し、溜め息をつく。
「……宮本さん、どんな人かな」
コメント
1件
朱里ちゃんが同席…🤔ウンウン!その方が良いね…😊👍 前向きな話し合いが出来る、よき再会となりますように…🙏🍀