「ねぇ、教科書見せてくんない?」
その何気ない一言から、君は俺に話しかけてくるようになった。でもそれは一方的に、で。
「yanくん!一緒に帰ろ!」
「…無理」
俺は逆に、彼女を遠ざけるように避けていた。
自分でも、他の人から見ても、十分に分かりやすかったと思う。彼女と話す時は大体「無理」とか「だるい」とかネガティブな発言ばっかりだし、すぐに終わらせたい気持ちを、行動にわざと出していた。これだけ嫌な態度を取られたら、普通は話したくなんてない…のに
「yanくん!勉強教えてくんない!?中間の範囲が全く分かんなくてさ〜」
「…」
「…ちょっと、yanくん聞いてる?」
「……は?」
なんで…?なんでまだ俺に絡んでくるわけ?あんだけ嫌な態度取ってたのに。わざと早めて歩いていた足を止める。俺の隣に立つ彼女は、期待する眼差しで俺を見上げてきている。その姿に、いつもしつこいぐらいに話しかけている姿に、すでに腹が立っていたのか、
「お前まじでしつこい、俺が迷惑がってんのいい加減気づけよ」
「…え?」
「もう喋りかけんな」
なんて、口に出した時にはもう遅かった。廊下を歩いていた何人かは俺のこと見てきたし、俺自身この空間に居づらくなってしまって、彼女の反応も見ずに走って家まで逃げてしまった。
ガチャ、と玄関のドアを開き、一番に自分の部屋へ向かう。鞄を投げやりに床に置き、そのままベッドに倒れ込む。
「……はぁ」
やっぱり言い過ぎたか?と今になって反省する。彼女の反応は見ていないけど、自分でもだいぶ言ってやったつもりだ。でも、これぐらいしないと彼女に、俺が迷惑してること伝わんないし。
「……寝よ」
頭の中でぐるぐると考えてみたが、最終的には、もうどうでも良くなってしまって考えるのをやめた。時刻はとっくに24時を回っている。そろそろ寝なければ。明日からは彼女は話しかけてこないだろうか?そんな不安を抱いて机のライトを消した。
次の日
電車に揺られ、自転車を漕いで、学校へ行く。玄関で靴を変え、階段を登って教室へ向かう。ここまでは全ていつもの日常。
でも教室に着くといつも「おはよう」と声を掛けてくる彼女は、楽しく友達と談笑している。「やった!」と思ったのと同時に、なぜかそれを寂しく思う自分がいる。
……いやいや、なんでちょっと寂しがってんの。たくさんゲームできるし、のんびり学校生活を送れる。……全部俺が、望んでたことじゃん。
そんなことを考えているとあっという間に放課後になっていた。etさんの方をチラリと見ると彼女もこちらを見ていたらしく、目がパッチリと合う。
心臓が大きく跳ねる。
彼女は何かを言いたそうにしていたが、俺はその反応を無視するように、鞄を掴み、スタスタと早足でその場を離れた。
「待って!」
聞き慣れた声。俺は思わず足を止めた。
「…今まで、ごめん。私、迷惑だったなんて知らなくてずっとyanくんに話しかけてた。」
…さすがに受け止めてくれているのか、俺の言葉。いつもより気弱に話す彼女に、なんだか申し訳なくなって、ゆっくりと振り返る。
「…でも!お願い!一回だけでいいから!勉強教えてくんない!?」
パチンッと両手を合わせてお願いする素振りを見せてくる。
「……は?」
前言撤回。やっぱこの人うざい。彼女に少しでも申し訳なく思った自分が馬鹿だと思えてきた。
「うざっ」と彼女に言い残すと、すばやく玄関へ向かう。それでもetさんは「一回だけでいいから勉強教えて」と耳にタコができるほど俺を誘ってきたので、
「一回だけなら」と言ってしまった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
意外な事にも、etさんとの勉強会は楽しいと思えた。俺自身、勉強を教えるのはそんなに得意じゃないけどetさんは、
「あー!そーいうこと!?」「なるほど!」
なんて、嬉しい相槌を打ってくれる。
…それに、etさんの前だと、素の自分で居られる。…いや、彼女にはいつもそっけない態度だったし、それが1番楽だったからか。だから今も
「そんなの頭使えばすぐわかるだろ」
…なんて、突き放すような言い方をする。 でも、etさんは
「は?分かんないから聞いてんでしょ」
って笑いながら俺の方を見てくる。ふにゃり、と笑顔を見せてくるetさんが、いつもは「うざい」と少しイラッとするのに、今日は、その笑顔が
…可愛い
と、思ってしまった。
コメント
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すごく面白いです! 主さん天才ですね(๑•̀ㅁ•́ฅ✨ 続き楽しみです(*´艸`)