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K(僕): 「天宮さんともっと仲良くなりたいんだけど…」
みき: 「よっぽど好きなんだね。」
K(僕): 「何かしようとすると、皆に揶揄われるし、変なことをすると嫌われちゃうと思うとね…」
みき: 「いいよ、また協力するよ。」
現在の俺: 「「僕」にしては珍しく、異性として意識しないで接しなくていいみきは相談しやすかったし、またみきがいろいろ力になってくれるから頼りやすかったんだなぁ。」
もともと一目惚れで好きになったし、両想いになったときだって天宮さんのことが充分に好きであったが、手編みのセーターをもらった僕は天宮さんのことが自分でも怖いほどに大好きになっていた。
そんなに好きでも、いや好きだから学校では相変わらず恥ずかしくて話することさえままならずにいた。
それでも皆がいなければ普通に話せる、と思っていた。
K(僕): 「朝、天宮さんの家までランニングしようかな?」
朝偶然でも会えたら話せるかも、って思っていた。
現在の俺: 「やめた方がいいんじゃない?」
K(僕): 「健康にもいいんじゃない?」
現在の俺: 「運動音痴だからやめた方がいいって。」
K(僕): 「もしかしたら天宮さんに偶然会えちゃうかもしれないし。」
現在の俺: 「何言っても、決めたら無駄だと知っているけど…」
朝六時に起きて、天宮さんの家まで走った。
冬の朝なので起床時はさすがに寒く、朝が弱い僕であったけど、期待が、僕の心を動かしていた。
僕の家から天宮さんの家までは中学校に行くより少し遠かった。
短距離はまだ良かったが、中長距離は苦手であったので普通ではとても考えられなかったが、完全に目的があったから頑張れた。
母: 「お兄ちゃん、今日もマラソンしてきたの?」
K(僕): 「うん。 体力つけるためにね。」
現在の俺: (さすがに天宮さんの家まで走っているなんて言えなかったなぁ。)
往復三十分ちょっとかかったが、毎朝起きて走った。
しかし、三日くらい走っても漫画みたいに劇的に会うなんてことはなく、現実は厳しかった。
四日目の朝には熱を出し、慣れないことをしたツケがまわって、風邪引いて二日間、学校を休まざるを得なかった。
それからしばらくして、三学期に一度だけ、天宮さんがまた教科書を忘れた事があった。
三学期も隣の席だったから、当然の展開になった。
さっちゃん: 「あ、昨日、塾で使ったから、教科書忘れちゃった。」
K(僕): 「じゃあ、一緒に見る?」
さすがに2回目だから、「比較的」スムーズに言えた。
現在の俺: 「(振り返ってみると、定演、セーターや、勉強にしろ、教科書にしろ、さっちゃんからのモーション、多かったんだなあ。 俺も忘れたふりでもして、俺も一緒に教科書見ればよかった・・・。)」
前回は俺の片思いで、一人でドキドキしていた。
天宮さんのほうを見ると、天宮さんも僕のほうを見て、二人でゆっくり静かに周りを見ながら机を合わせた。
やっぱり今回も僕はドキドキした。
ハル: 「昨日塾で数学なんてあったかな?」
ハルと天宮さんは同じ塾に通っていた。
さっちゃん: 「あったよ。」
みき: 「わざと忘れた?」
さっちゃん: 「ほんとに忘れたの。」
塚越: 「本当?」
博: 「ハルはないって言ったじゃん。」
ハル: 「ゴメンゴメン、昨日数学あった。」
さっちゃん: 「もう。」
松井先生: 「授業するぞ。」
K(僕): 「はい、教科書。」
くっつけた机のまん中に教科書をおいて、二人で教科書を見ることにした。
さっちゃん: 「ありがとう。」
授業が始まるといつもの真剣モードになった。
天宮さんはじっと斜め右においてある教科書を凝視していた。
K(僕): 「もっと教科書、天宮さんのほうでもいいよ。」
さっちゃん: 「見えるから大丈夫だよ。 あまりこっちだと、見えないよ。」
K(僕): 「いいよ、いいよ。」
松井先生: 「この問題を前にでてきて解いてもらうか。 K、どうだ?」
天宮さんと話をしていたために目立ったのか、僕があてられた。
さっちゃん: 「あ…」
K(僕): 「え?」
松井先生: 「教科書を忘れたのか?」
天宮さんとくっつけていた机とさっちゃん側の机にある教科書を見ながら松井先生は言った。
K(僕): 「あ、えーと・・・」
松井先生: 「どうした?」
松井先生は教壇から降りて僕たちの近くまで歩いてきた。
さっちゃん: 「私が・・・」
天宮さんは小声で言った。
松井先生: 「あ、そういうことか。」
先生のその発言で、教室中のクラスメートの視線が僕たちに注がれた。
岸本: 「先生、邪魔しちゃだめじゃん。」
岸本の一言で笑いが生まれた。
松井先生: 「岸本、静かに。 じゃあ、別の人に…」
すでにほかの教科担任にも僕たちの関係は知られていたので、それ以上、突っ込まれることはなかった。
岸本: 「ずるいなぁ。」
K(僕): 「大丈夫です。 やります。」
僕は天宮さんの机側に近づいた。
K(僕): 「ごめん。 教科書ちょっと見せて。 どの問題だっけ?」
さっちゃん: 「これだよ。」
天宮さんの机にあった教科書の問題を見せてもらって急いで黒板に行き、問題を解いて自分の席に戻った。
K(僕): 「もう、岸本のせいで集中できなくなる。」
ぼそっとぼやいた。
さっちゃん: 「ふふ・・」
天宮さんと話することと比べれば、問題を当てられること自体は大した緊張はなかったが、みんなの前で茶化されると、やっぱり動揺するものだった。
K(僕): 「急に当てられると焦るね。」
さっちゃん: 「教科書、真ん中に置くね。」
天宮さんも小声でそういうと、真ん中に教科書を戻そうとした。
K(僕): 「大丈夫。」
天宮さんを静止した。
さっちゃん: 「またあてられるかもよ。」
3月が近くなり、日差しはだんだんと春めいた。
いつもより好きな人が近くいるから、なおさら心の中は春だった。
しばらくして先生が公式の説明をしだした。
松井先生: 「この問題で使用した公式、大切だから覚えておくように。」
天宮さんは筆箱からラインマーカーを取り出し、教科書の公式にアンダーラインを引いた。
さっちゃん: 「ごめん、私のと思ってラインひいちゃった。」
天宮さんは手を合わせて詫びてきた。
K(僕): 「大丈夫、どんどん引いてもいいよ。」
さっちゃん: 「え?」
K(僕): 「うそ。」
さっちゃん: 「もう・・・」
松井先生: 「こら、二人でこそこそ話しているんじゃない。 ちゃんと聞いていないと、100点とれないぞ。」
K(僕): 「はい、すみません。」
さっちゃん: 「怒られちゃったね。」
岸本: 「そうそう、仲良くしすぎだ。」
クラス内にまた笑いが起こった。
K(僕): 「・・・」
さっちゃん: 「・・・」
松井先生: 「では今日はここまで。」
数学の授業は終わり、松井先生は職員室に戻っていった。
ハル: 「怒られてやんの。」
さっちゃん: 「ごめんね。」
K(僕): 「天宮さんのせいじゃないじゃん。」
みき: 「天宮さん、だって・・・。」
塚越: 「庇い合い、美しいねぇ。」
博: 「ここの周りだけ暑いよね。」
みき: 「ほんと、目のやり場に困るんですけど・・」
授業が終わると、この始末だった。
その後のテストで、きいいていなかったその問題が出て、結局その問題が解けなかった。
ある日の音楽の授業では、合唱練習があった。
窓から差し込む陽の光はクラスの半分くらいまで入り込んでおり、僕たちの班は窓側にいたために冬でも晴れた日はまぶしかった。
僕の左隣、窓側にはいつも通り天宮さんが座っていた。
K(僕): 「(合唱めんどくさいんだよね・・ 音楽好きの天宮さんの前では言えないけど…)」
毎年合唱コンクールがこの時期にあったため、音楽の授業中も合唱練習があった。
その他の先生: 「まず全体で通して歌ってみようか?」
さっちゃん: 「♪ ♪ ♪」
普段は小声で、おとなしいってイメージだったが、隣で合唱練習が始まると、ソプラノの天宮さんは澄んだ高い声でしっかり歌い始めた。
K(僕): 「え?」
退屈だった音楽の授業に衝撃が走った。
思わず天宮さんを二度見した。
いつもはパートごとに別れて歌っていたので、ソプラノの天宮さんは遠くにいたのだが、授業ということもあって僕たちは隣りにいたため、初めて天宮さんの声を身近に聞いたのだった。
いつもは照れ屋で小声でもあったので歌を歌う時も、勝手にそうなんだろうなって予想していたので、ちょっと意外で天宮さんの顔を覗き込んだ。
天宮さんは照れた感じて、ニコッとしながらも、「なあに?」って顔しながらも微笑みながら歌い続けていた。
さっちゃん: 「♪ ♪ ♪
」
普段も高めの声だが、歌声は高く、引きこまれるような声だった。
さっちゃん: 「どうしたの?」
K(僕): 「歌の時は意外と大きな声なんだなぁって。 声も高くて…」
さっちゃん: 「授業だもん。 歌うの好きだしね。」
K(僕): 「(かわいらしい声なんだよなぁ)」
現在の俺: 「本当に音楽の授業、とくに合唱はさっちゃんは生き生きしていたことを覚えている。」
天宮さんの新たな一面を見た音楽の授業であったが、部活の吹奏楽部にも変化があった。
三年生は部活から引退し、吹奏楽部も天宮さん達、2年生がメインになっていた。
部員が減り、吹奏楽の編成でも困っていたようだ。
さっちゃん: 「Kって私のこと、どう思っているのかな?」
小石さん: 「何を突然に言うの? どういう意味?」
さっちゃん: 「普段は時々話はするけど、普通はデートしたり、一緒に遊びに行ったりするよね。 休みの日にどこかに誘われるわけでもないし、一緒に帰るわけでもないから、なんとなくつきあっている感じがあまりしなくて。」
川野さん: 「もともと恥ずかしがり屋だからじゃないの?」
小石さん: 「そうだよ、本人の口から聞いたんだから。 さっちゃんのこと好きなのは絶対間違いないよ。」
さっちゃん: 「好きって言われたことないし…」
川野さん: 「えー? うそ。 まあ、言えるタイプでもないか…」
小石さん: 「ほんとに何やっているんだろうね。 それは不安になるよね。」
さっちゃん: 「小石さんの彼は言ってくれる?」
小石さん: 「それ、私にふるの?」
川野さん: 「私も聞きたい。」
小石さん: 「まあ、何回かは・・・ね。」
小石さんは照れて答えたのに対して、天宮さんの顔は曇った。
さっちゃん: 「普通、そうだよね。」
小石さん: 「照れ屋にしても、それはひどいよね。 この際、吹奏楽に誘っちゃう? そうすれば話す機会も増えるし、一緒に帰ることもできるよね。」
川野さん: 「ちょうど3年生が抜けてから部活のメンバー減って、困っていたもんね。」
さっちゃん: 「やってくれるかな?」
川野さん: 「さっちゃんの頼みなら大丈夫じゃない?」
小石さん: 「そうよ。 頼んでみよう。」
小石さん: 「ねえねえ、吹奏楽部に入って、手伝ってよ。」
小石さんから急なお願いをされた。
楽譜くらいなら読めるから、キーボードくらいなら弾けるが、クラリネット、フルート、サックスのなるとかなりの不安はあった。
さっちゃん: 「吹奏楽に入って、少しの期間でいいから手伝ってほしいな。」
K(僕): 「そんな簡単にできるのかな?」
小石さん: 「大丈夫、できるよ。 ねえ、さっちゃん。 大好きなさっちゃんの頼みだよ。 断れるの?」
K(僕): 「二人とも経験者だから、簡単に言えるけど・・・。 まあ、でも、天宮さんの頼みなら。」
さっちゃん: 「吹奏楽に入ってくれる?」
K(僕): 「うん。」
天宮さんの頼みなら、やるしかないと腹をくくった。
さっそく、帰宅後に母親に言った。
K(僕): 「吹奏楽に入ろうと思う。」
母: 「吹奏楽は練習に大変な部活でしょ。 夏休みも毎日練習しているし、南高に行けなくなるよ。」
K(僕): 「でも天宮さんたちがメンバーが足りなくて困っているから、少しの期間でもいいって言うし。」
母: 「あなたじゃなくてもいいでしょ。 それに少しだけやってできる部活じゃないよ。」
現在の俺: 「(言っていることは至極まともだけど、自分が親でもそういうかもしれないが、やっぱり今でも昔の僕に味方したくなる。)」
K(僕): 「それでも天宮さんが困っているなら助けてあげたい。」
母: 「あなたは来年受験なのよ。 南高に行けなければ、お医者さんにもなれないよ。」
K(僕): 「南高に行かなくても、総選から医者を目指せばいい。」
その当時総合選抜制度、いわゆる総選があり、西高や南高以外にも、第1高校、東高など計5校がそれに該当し、普通科高校は生徒の住所に応じて、5つの高校に振り分けられた。
ただ住所からあまり遠いところは除外され、天宮さんと僕の住所だと、1位が西高、2位が第1高校、3位が東高であった。
南高は総合選抜としてのコースと特進科としてのコースがあり、総合選抜高としての南高は天宮さんと僕の家からは遠方のため行くことはできなかった。
また総合選抜高同士の受験はできず、西高と南高は併願は出来なかった。
だからもし僕が南高に行ったら天宮さんと一緒の同じ高校になるということは絶対に不可能であった。
またたとえ、総合選抜高校受験しても、2位の第1高校に入学することもあったので、天宮さんとバラバラになる可能性もあったから総選を選んでも一緒の高校になれる保証もなかった。
母: 「天宮さん、天宮さんって言ってばっかり・・・。 いい加減にしなさい。 結婚相手でもないでしょ。 大人になればもっといい人と出会えるから。」
K(僕): 「天宮さんと将来、結婚してもいいと思っている。」
母: 「何を言っているの。 少しは頭を冷やしなさい。」
目立った反抗期もなかった僕なので、あまり怒られることはなかったが、今回は激しい叱られた。
その他の先生: 「篠井先生、生徒のおかあさんから電話です。」
篠井先生: 「はい。」
母: 「息子が吹奏楽部に入るってきかないんです。 天宮さんのお願いみたいですが、息子は南高に行く目標があるのでそれはちょっと・・・」
篠井先生: 「それは存じております。 明日Kに話を聞いてみます。 確かに吹奏楽部だと忙しいので進路に影響するかもしれませんから。」
松井先生: 「篠井先生、どうかしましたか?」
篠井先生: 「うちのクラスの男子が、つきあっている女子がいて、その子は吹奏楽部ですけど、その男子が同じ部活に入って手伝うって言っているらしいです。」
山口先生: 「Kのことですか?」
誠先生: 「そうなると、相手は天宮ですね。 1年の時に担任していましたけど、天宮は芯がしっかりして、いい子ですけどね。」
篠井先生: 「山田先生も誠先生もよくご存じで…」
松井先生: 「うちの学年では知らない人はいないんじゃないですか? この前も教科書を忘れたらしく、二人で仲良く教科書見てましたよ。」
篠井先生: 「つきあっていること自体はとやかく言うつもりはないのですが、Kは南高志望なんで、お母さんが難色を示しているんです。」
誠先生: 「確かに吹奏楽部に入部したら、南高は厳しいかもしれませんね。」
篠井先生: 「Kは生活日誌にもうれしそうにつきあっていることを書いてくるのでよほど好きなんでしょうね。 それでいて成績は落ちることなく、むしろさっちゃんとつきあってからも成績は上がっているんです。」
山口先生: 「一年生のときに医師になりたいと言ってましたけど、正直ちょっと難しいかなって感じで… でも恋愛と将来ですか・・・。 1年生の時のKは、みんなの前に出て何かをするタイプではなかったけれど、今はクラスの副会長をしているんでしたっけ? 」
篠井先生: 「そうなんです。 班長に立候補したり、学級会の副会長をそのさっちゃんと一緒にやっています。」
山口先生: 「交際自体は彼に対してはいい影響を与えているんですね。 そうなると、一概にダメっといいづらいですけど、受験には吹奏楽部はさすがに不利でしょうね。 お母さんの心配もよくわかります。」
篠井先生: 「明日、とりあえず、Kの意見も聞いてみようと思っています。」
翌日、職員室に担任に呼ばれた。
職員室は新館1階にあった。
悪いことをしていなくてもあまりいい感じがしない場所だった。
K(僕): 「失礼します。」
篠井先生: 「ちょっといい?」
K(僕): 「はい。」
篠井先生: 「吹奏楽部に入る気なの?」
K(僕): 「まだ考え中ですが、そうすると思います。」
篠井先生: 「吹奏楽はコンクールもあって、夏休みはほとんどないよ。 勉強はどうするの?」
K(僕): 「その合間にやります。」
篠井先生: 「さっちゃんの頼みだから叶えてあげたい気持ちはわかるけどね。 あなたは南高を目指すのでしょ。」
K(僕): 「それはまだ決まっているわけではありません。」
篠井先生: 「南高はあきらめるの? そんな中途半端な気持ちでは受からないよ。」
K(僕): 「それなら総選でも・・・。」
篠井先生: 「総選からでは医学部はかなり難しいわよ。 南高の方が医学部は行きやすいから、医師を目指すなら南高を受けなさい。」
K(僕): 「そうですか・・・。」
篠井先生: 「よく考えたら? 吹奏楽は忙しいから、勉強時間を維持するのは難しいよ。 恋愛と進路は区別したほうが後悔しないんじゃないかしら。」
現在の俺: 「昨日の今日で呼ばれたこと自体、その当時は不思議に思っていなかったけど、よく考えると家での出来事が学校に漏れていたのかもしれない。」
ほかの2年生の先生たちも僕のほうを見ていた。
1年生の時の担任の山田先生が僕のほうに近寄ってきた。
山口先生: 「高校や大学はその後の人生を左右するから、一時の気持ちで行動しないほうがいいぞ。 気持ちが分からないわけでもないが、入学してきたとき、医者になりたいって言ってたときを思い出すんだ。」
中学2年には理解できるほど大人ではないし、好きな人のほうが大切な時期でもあった。
僕は職員室を後にした。
K(僕): 「親からも先生からも反対されちゃった。」
さっちゃん: 「あ、そう…」
天宮さんは残念そうな顔をしていた。
結局、小石さんからも、天宮さんからもそれ以降、誘われなくなった。