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22 - 【死後の世界編】第6話 「過ぎた時間、還る魂」

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2025年08月07日

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再会の時から、どれくらいが経っただろう。
この世界には、時間の概念がない。

だけど、良規は感じていた。


­­–­­–­­–­­–­­­­—-『やっと、美咲さんに会えたんだ』­­–­­–­­–­­–­­–­­–­­-


目の前にいる彼女は、かつてのように笑っていた。

けれど、どこか寂しさを纏った笑顔だった。


美咲は言った。

「……話してくれる? 最後、どうやって生きて、どうやって……逝ったのか」

良規は静かに頷いた。

『……たいしたことはなかったよ。ただの、孤独な人生だった』


彼は語り始めた。

再生してからの日々を。


社会復帰は難しかった。

誰とも目が合わない。

人の言葉が耳に入らない。

何をしていても、美咲が頭を離れなかった。


コンビニでレジを打っても、

駅のホームに立っても、

自動販売機で缶コーヒーを買っても……


ふとした瞬間に、美咲の声が聞こえてしまう。

「ちゃんと、生きて」

「忘れないでね」

でも、それがかえって良規には苦しかった。


『……俺、何度も死のうとしたんだ。けど、不思議と死ねなかった。美咲との“約束”が、身体のどこかでブレーキをかけてた。』

だから、ただ生きた。

最低限の仕事をし、最低限の食事をし、最低限の会話だけを交わして。

けれど、ひとつだけ“ちゃんと”したことがあった。


『日記だけは、毎日書いたんだ。生きてるって実感がほしくてさ。それと、“また会えたとき”に美咲に渡そうと思ってたから』

美咲は少し驚いたように目を見開いた。

「……日記、私のために?」

『そう。くだらないことばかり書いてたよ。今日、セミが鳴いた。コーヒーがぬるかった。隣の家の子どもが泣いてた……全部、きみに話したかったこと』

その日記は、良規の亡骸のそばに置かれていた。

誰にも読まれなかったが、それでよかった。


『最期は……眠るようだった。夢の中で、きみが手を伸ばしてくれた。“おかえり”って、言ってくれた』

美咲の目から、静かに涙が流れた。

「……良規くん。ありがとう。ちゃんと、生きてくれて。私のせいで、ぐちゃぐちゃになった人生なのに」

良規は微笑む。

「違うよ、美咲さん。君がいたから、俺は生きてこられた。あの苦しみの中でも、“待ってる人”がいたってだけで、俺は生きてこれたんだ」


その夜、ふたりは長く話した。

言葉にならない言葉。

痛みも、記憶も、涙も、全部、分け合った。


そして、良規は言った。

『今度は……俺が、美咲を解放する番だ』

美咲は、戸惑った。

「私を……?」

『君は、俺を自由にしてくれた。今度は、俺が君を、縛りから解き放ちたい』

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