テラーノベル
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再会の時から、どれくらいが経っただろう。
この世界には、時間の概念がない。
だけど、良規は感じていた。
––––—-『やっと、美咲さんに会えたんだ』––––––-
目の前にいる彼女は、かつてのように笑っていた。
けれど、どこか寂しさを纏った笑顔だった。
美咲は言った。
「……話してくれる? 最後、どうやって生きて、どうやって……逝ったのか」
良規は静かに頷いた。
『……たいしたことはなかったよ。ただの、孤独な人生だった』
彼は語り始めた。
再生してからの日々を。
社会復帰は難しかった。
誰とも目が合わない。
人の言葉が耳に入らない。
何をしていても、美咲が頭を離れなかった。
コンビニでレジを打っても、
駅のホームに立っても、
自動販売機で缶コーヒーを買っても……
ふとした瞬間に、美咲の声が聞こえてしまう。
「ちゃんと、生きて」
「忘れないでね」
でも、それがかえって良規には苦しかった。
『……俺、何度も死のうとしたんだ。けど、不思議と死ねなかった。美咲との“約束”が、身体のどこかでブレーキをかけてた。』
だから、ただ生きた。
最低限の仕事をし、最低限の食事をし、最低限の会話だけを交わして。
けれど、ひとつだけ“ちゃんと”したことがあった。
『日記だけは、毎日書いたんだ。生きてるって実感がほしくてさ。それと、“また会えたとき”に美咲に渡そうと思ってたから』
美咲は少し驚いたように目を見開いた。
「……日記、私のために?」
『そう。くだらないことばかり書いてたよ。今日、セミが鳴いた。コーヒーがぬるかった。隣の家の子どもが泣いてた……全部、きみに話したかったこと』
その日記は、良規の亡骸のそばに置かれていた。
誰にも読まれなかったが、それでよかった。
『最期は……眠るようだった。夢の中で、きみが手を伸ばしてくれた。“おかえり”って、言ってくれた』
美咲の目から、静かに涙が流れた。
「……良規くん。ありがとう。ちゃんと、生きてくれて。私のせいで、ぐちゃぐちゃになった人生なのに」
良規は微笑む。
「違うよ、美咲さん。君がいたから、俺は生きてこられた。あの苦しみの中でも、“待ってる人”がいたってだけで、俺は生きてこれたんだ」
その夜、ふたりは長く話した。
言葉にならない言葉。
痛みも、記憶も、涙も、全部、分け合った。
そして、良規は言った。
『今度は……俺が、美咲を解放する番だ』
美咲は、戸惑った。
「私を……?」
『君は、俺を自由にしてくれた。今度は、俺が君を、縛りから解き放ちたい』
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