禪院奨也

奨也が福岡分校での新しい生活を始めて数日後、分校全体がざわつき始めていた。理由は一つ。あの「五条悟」が福岡分校に転勤してくるという噂だ。

奨也は最初、この話を信じていなかった。福岡分校のような地方校に、呪術界最強と謳われる男が来る理由などあるのだろうか。

「なんでまた……。」

奨也は分校の食堂で、ぼそりと呟いた。隣の席でラーメンをすすっていた先輩の山田が、ニヤリと笑う。

「五条悟が来る理由？ 決まってるだろ。彼が気まぐれだからさ。」

「それ、僕たちに何か影響あるんですかね。」

「あるさ。あいつが来たら、分校の雰囲気が一変するぜ。」

そしてその日がやってきた。五条悟が福岡分校に到着する日だ。生徒も教師も、みな正門に集まり、その姿を一目見ようとしていた。

「おーい、分校のみんなー！」

遠くから聞こえてきた軽快な声。派手なサングラスをかけた男が、大きなスーツケースを片手に歩いてくる。五条悟、その人だった。

「……うわ、本当に来た。」

奨也は心の中で呟いた。

「これが噂の五条悟か。なんか、軽い雰囲気だな。」

五条が分校の校長である柴田と握手を交わし、振り返って生徒たちに満面の笑みを向けた。

「みんなー！ 今日から君たちの先生になる五条悟だよ。よろしくねー！」

その軽すぎる挨拶に、生徒たちは唖然とする。しかし、五条の周囲には尋常でないオーラが漂っていた。

奨也はその場で立ち尽くし、五条を観察していた。

「この人が……呪術界最強？」

五条は奨也の視線に気づいたのか、こちらを振り向いてニヤリと笑った。

「おやおや、君、面白そうだねぇ。」

突然声をかけられた奨也は、動揺しながらも答えた。

「……僕に何か用ですか？」

「いや、ただの興味さ。禪院家の分家出身で、ハンドスピナーが媒介だなんて、なかなか個性的じゃない？」

五条の軽口に、奨也は眉をひそめた。

「僕が何を使おうが、関係ありません。」

「そうだね。でも、関係なくても面白いじゃないか。」

五条はそのまま楽しげに笑いながら、校舎の中へと向かっていった。

「奨也君、特訓だよー。」

五条は朝から奨也を呼び出し、いきなり個別訓練を開始した。

「ちょっと待ってください。なぜ僕が……。」

「君、気になる存在だからね。ほら、術式を見せてみてよ。」

奨也は渋々ハンドスピナーを回し始めた。回転とともに術式が発動し、周囲の気温が急激に上昇と下降を繰り返す。

「ほほー、面白い。これ、もっと工夫すれば相当強くなるよ。例えば……。」

五条は一瞬で奨也の近くに移動し、その手を軽く制した。

「術式の流れをこうしてみたら？」

奨也は驚いた。五条のアドバイス通りに術式を操作すると、これまで以上に滑らかで力強い反応が得られたのだ。

「……どうしてこんな簡単に。」

「簡単じゃないさ。君が天才なだけだよ。」

五条の自信満々な笑みに、奨也は唖然としながらも、次第に彼への興味を募らせていった