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ーまた、この結末かー
毎日の変わらぬ風景、なにも変わらないそんな日々が続いていく、はずだった、、、
「入鹿賀!入鹿賀! 入鹿賀佐倉!」
目を覚ますと公民の永山先生がこちらを見ていた。
「舐めてるのか?いつも俺の授業で寝ているな!廊下にでも立ってろ!!」
そんな怒りっぽい先生が俺は大嫌いだった。
「先生?体罰ですか~?」
そうにやりと笑いながら発言するのは俺の幼なじみである事柄恭介だ。よく「ことがら」と呼ばれがちだか「ことがや」と読む。彼はいわゆるクラスの陽キャであり勉強は飛び抜けて得意なわけではないが運動ができ顔も整っているのでよくモテる。そんな彼が羨ましい、がそんなことは置いておき。
俺は永山先生に怒られた入鹿賀佐倉だ。よく名字がわからないと言われるがその通りだと思う。実際に恭介が「佐倉」と呼んでくれなければ名字だと勘違いされたままだっただろう。
遠くで永山先生が怒っている声が聞こえる。その中で俺は再び眠りについた。
「佐倉!もっと肩の力抜いてよね!」
ここ、は、、夜の公園、夢か。
「、、、抜けねぇよ、もう傷つきたくないんだ。」
俺は絞り出すような声でそう言っていた。夢だからなのか、昔に似た光景を見た気がする。意図して話したわけでなく勝手に口が動くのだ、仕方ない、流れに身を任せてこの物語を見てみようじゃないか。
「なんか悩んでるの?話し聞くよ?」
あぁ、この話し方、桃宮だな。これは夢ではなかったようだ。こいつは桃宮春樹、俺の初恋の相手であり失恋の相手だ。こんな話し方だからと桃宮はよく男に迫られていた。顔も男とは思えないぐらいには綺麗な方だった。
俺は話しかける桃宮をよそにブランコをこぎながらタメ息をついていた。
「俺にはわかんないって言うの!?俺めちゃくちゃ佐倉のこと考えてるからわかるんだよ!」
「お前は、なにも知らないから言えるんだ、、、。」
気がつくと俺と桃宮は小一時間程言い合いをしていた。お互い黙り込み、虫の声が俺たちの間を取り持つようになき続ける。
「佐倉!」
急に呼ばれ何事かと桃宮の方を見ると桃宮が揺れていた。
「なにしてるんだ、、。」
そう声を発したときには目の前にいた桃宮は姿を消し恭介が俺の肩を揺すっていた。
「起きたか?もう放課後だぞ?いい加減帰んないと怒られんじゃないの?」
あぁ、可愛い。俺は今、恭介に恋している。そんなことは3年前からわかっていた。中学生時代からの片思い。五度目の人生としては十分楽しんでいる。そう思いながら俺は昔を思い出していた。
「桃宮に恋したのは85年前だったな、、」
ー85年前ー
「佐倉!帰ろ!」
毎日のように俺の教室に響き渡る桃宮の声。甘いようで可愛い声。俺は周りの目も気にせず桃宮の腕の中に飛び込んでいった。今思うと距離感がとても近くお互い友達以上の存在と認識していたのだろう。ちなみに、俺はこのときから陰キャだった。というわけではない。クラスでは一群にいた方だと思っている。勉強もそこそこでき運動神経もまぁまぁよかった。だからと言ってモテていたわけではなかったが充実した学校生活を送っていた。
俺は桃宮と下校しながら毎日のようにクイズを出し合うのが日課だった。勿論高度な問題を出し合っていたわけではないが俺たちの問題を解けるのはクラスにも学年にも一人もいなかった。ただ一人面白いを共有できる大切な存在だった。
と、こんなことを振り返っているとやはり独占欲強めの恭介には腹が立ったみたいだ。
「なぁ佐倉!今誰のこと考えてた?俺じゃないよな、、?俺ら親友だろ?お前は俺のことを考えて、俺はお前のことを考えてじゃねぇのかよ!」
こんなところも愛おしいところではあるが、桃宮はこんなこと言わない。そう思いながら軽くあしらっていた。
俺が帰る気配もないからなのか恭介は帰る仕草をしていた。
「置いていくぞ!」
さすがの俺もわかる。男だろうと顔が整っていると夜は襲われやすい。さすがに恭介をこんな時間に一人で帰すわけにはいかない。仕方なく恭介に続き俺も教室を出て帰った。
恭介を家に送り届け俺は脳裏から離れなくなった桃宮の笑顔をかき消すかのように恭介のことを考えていた。だかやはり人間は欲望に勝てないようだ。気がつくと桃宮のことを考えていた。桃宮にまた会いたい、そう思いながらも俺は辺りを見回しいつものように小柄なおじいさんを探した。あの時、その人に会っていなければ俺は苦しい思いをしなくてすんだのに。そう、あれは桃宮と言い合いをした後の事だった。
「もう佐倉なんて知らない!一人で帰って!」
そう言う桃宮の目は涙で濡れていた。俺は一人で帰してはいけない、そうわかりながらも気まずさで声をかけられなかった。その日の帰り、桃宮は失踪した。連れ去られたのだろう。もしあの時一緒に帰っていればと何度悔やんだことだろう。
桃宮が失踪して一ヶ月が経った頃、俺は桃宮が失踪した公園の近くを歩いていた。家までもう少しというところで小柄なおじいさんが倒れていた。いつもなら声をかけない、だが桃宮なら声をかける、そう思うといても経ってもいられなくなり走って駆け寄った。
おじいさんはちょっとした脱水症状だったらしい。俺の飲みかけのペットボトルの水を飲むとだいぶ顔色がよくなった。
「どこの方かわかりませんが助けてくださりありがとうございます。」
かすれた声でおじいさんは話す。どうやら俺の偽善は役に立ったらしい。お礼にと飴を貰った。おじいさんによると”不老不死の飴”らしいがそれを信じるわけなどない。だが桃宮の失踪により正気ではなかった俺は食べてしまった。これがきっかけだったのだろう。俺は年を取らなくなっていた。言葉のとおり永遠に高校生だったのだ。このことに気がついたときの俺はまだ幼かったのだろう、と言っても30歳だが。あまり深く考えず長生きできるからいいやという軽い考えだけだった。だが、俺が想像していたよりも過酷な人生を送ることになるとは夢にも思わなかった。