テラーノベル
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その夜、森は月明かりに包まれていた。
カナとユウは、あの日と同じ場所――最初に出会った森の奥へと歩いていた。
ユウの足取りはゆっくりだった。
彼の体から光の粒が少しずつ抜け落ちて、まるで星屑の道ができていた。
「カナ。もしも僕が消えても、この空を見上げていて」
「うん……」
「君の夜が、暗くて不安な時、思い出して。
この世界のどこかに、一度だけ君のために輝いた星があったってことを」
ユウは立ち止まり、そっとカナの胸元に手を添えた。
彼の指先から、小さな光がカナの中に溶けていった。
「これは“星の記憶”。
僕のすべてを、君の心に預ける。誰にも見えなくても、きっとずっと一緒にいられる」
「……さよならなんて言わないよ」
「うん。“おやすみ”で、いい」
ユウは目を閉じた。
そして静かに、風とともに舞い上がるように、無数の光となって夜空へと還っていった。
空には、新しい星が一つ、淡く輝いていた。
他の星よりもずっと小さく、けれど確かに息づいていた。
その日から、カナは毎晩空を見上げてこうつぶやく。
「おやすみ、ユウ。また明日も、見ててね」
星は何も語らず、ただそっとまたたいていた。
──一瞬の輝きが、永遠の夜を照らすこともある。
たとえ見えなくても、確かにそこにある光のように。
コメント
1件
神作𝙏𝙝𝙖𝙣𝙠 𝙮𝙤𝙪¨̮︎✿👍👍👍