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放課後。
茜色に染まった帰り道をいつも通りに歩いていた。
特に変わった事のない1日。
部活をして、少し笑って、帰るだけ。
今日もそのはずだった。
曲がり角を抜けた所で、見慣れない後ろ姿が目に入る。
同じくらいの背丈。
少し長めの襟足。紫色で、毛先に向かって少し色が薄くなっている髪。
普通の男の子なのに、なぜか、その存在だけが少し浮いて見えた。
ak「…誰だろう」
気づけば声をかけていた。
ak「ねぇ、こんな所で何してるの?」
振り向いたその子は少し驚いた顔をしてから、ふっと笑った。
?「別に。帰る途中だけど?」
ak「いや、それは俺もだけど…」
なんだコイツ。
少し変わった子だなと思った。
ak「名前は?」
軽く聞いた、その時。
彼は少しだけ黙って、それからこう言った。
?「…それは、まだ秘密」
ak「…は?」
?「名前はね、簡単に教えちゃいけないの」
意味が分からない。
でも、なぜかそれ以上は聞けなかった。
それからなぜか毎日、同じ時間に同じ場所で会うようになった。
連絡先も知らない。
約束もしてない。
それなのに、気づけば君は、そこにいる。
ak「ねぇ、本当に何者なの?」
?「ただの通りすがりだよ」
ak「毎日通りすがらないでよ 」
クスッと笑う彼。
そして彼はいつも、俺に“名前の代わり”をつけてくる。
?「今日は“うるさい太陽”かな〜」
ak「それ褒めてる、?」
?「半分くらいはね」
そんなやり取りが、当たり前になっていった。
ある日の帰り道。
ak「ねぇ、今日の俺は?」
いつものように聞く。
少しだけ考えてから彼は言った。
?「今日は_“安心する音”かな」
ak「…音? 」
?「そう。うるさすぎないし、静かすぎな い。ちょうどいいの」
風が通り抜ける。
その言葉を聞いた瞬間、なぜか胸の奥が少しだけ温かくなった。
ak「…それ褒めてる?」
?「凄く褒めてるよ」
少し前を歩いていく背中。
その距離がやけに遠く感じた。
____離したくない。
そんな感情が、初めてはっきりした。
違和感に気づいたのは、それから数日後の事だった。
名前は教えない。
連絡先もない。
それなのに__必ず会える。
ak「……おかしくない、?」
独り言の様にボソッっと、呟く。
今日はいつもの場所に先に着いていた。
時間はいつもと同じ。
それなのに、あの子はまだ来ていない。
ak「来ない日とかあるのかよ…」
初めての事だった。
なんとなく落ち着かなくて、スマホを何度も見てしまう。
連絡を出来るわけでもないのに。
____なんでこんなに気になるんだ。
少し遅れて足音がした。
振り向くと、いつも通りの彼が立っていた。
?「ごめん、ちょっと遅れた」
ak「…珍しいな」
?「そう?」
いつもと変わらない笑顔。
でも___
ak「…ねぇ」
?「ん?どうした?」
ak「俺らってさ、なんで毎日会えてんの?」
少しだけ沈黙が流れ、風の音だけが残る。
?「……さぁ?」
軽く返されたその言葉。
でも、その“間”が引っかかった。
ak「さぁ?ってなんだよ」
?「偶然じゃない?」
ak「毎日同じ時間、同じ場所で?」
彼は少しだけ目を逸らした。
その仕草を見た瞬間、確信した。
____何か隠してる。
ak「…なんかあるだろ」
少しだけ踏み込む。
彼は黙ったまま、少しだけ困ったように笑った。
?「…考えすぎだよ」
ak「そう?」
?「うん。気にしなくていいって」
軽く言うその言葉。
でも、その声はほんの少しだけ弱かった。
その日の帰り道。
俺はふと気づく。
____周りの人間が、誰も彼を見ていない。
すれ違っても避ける様子もない。
ぶつかりそうになっても、誰も反応しない。
ak「ねぇ」
?「ん?」
ak「今、あの人とぶつかりそうだったけど」
?「そう?」
振り返る事もなく、ただ歩く。
ak「……見えてない、?」
小さく呟く。
その言葉に、彼の足が一瞬だけ止まった。
ほんの一瞬。
でも、確かに止まった。
?「…気のせいじゃない?」
振り返らないまま、そう言う。
その背中が、少しだけ遠く感じた。
次の日。
俺はわざと時間をずらしてみた。
それでも____
?「今日は遅いね」
先に、そこにいた。
更に別の日。
今度は違う道を通ってみる。
それでも____
曲がり角の先で、待っている。
ak「…なんなんだよ、お前」
思わず口にする。
彼は、少しだけ寂しそうに笑った。
?「…知りたい?」
その一言で、空気が変わった気がした。
その日、彼はいつもより少しだけ静かだった。
ak「ねぇ、」
振り返って見たその姿は、少しだけ透けて見えた。
ak「…えッ、?」
?「そろそろ、時間みたい」
ak「何の?」
?「俺、もうすぐで消えるんだ」
軽く言わないで欲しい、そんなこと。
頭が追いつかない。
?「俺はね、誰かにちゃんと認識されないと、消えてしまう存在なんだ」
ak「……は、?」
?「でも、名前は知られたらダメなんだ」
ak「なんで、」
?「その人に縛られてしまうから」
静かな声だった。
?「だから、今まで言わなかった」
少しの沈黙。
風が吹く。
その輪郭が、少しずつ薄れていく。
?「…最後に1回だけ、名前教えようか?」
その一言で、全て理解した。
名前を聞けば、繋ぎ止める事ができるかもしれない。
でも__それは、今の関係じゃなくなる。
俺は、少しだけ目を伏せて
そして、顔を上げた。
ak「…いらない」
?「え、?」
ak「名前なんて、いらない」
彼は驚いた顔をしていた。
ak「お前はお前だろ。名前がなくても分かる」
風が止む。
消えかけていた存在が、少しだけ戻る。
?「…それ、ズルい」
ak「今更でしょ」
少し笑う。
彼は目を細めて、1歩、近づいた。
?「…本当に、君は」
そして、小さく言った。
?「“名前を付けたくないくらい大事な人”だね 」
その瞬間。
彼の存在が、完全に戻った。
?「…あれ、?」
ak「ほら」
?「なんでッ、?」
ak「分からない。でも、これでいいでしょ?」
少しの沈黙が流れる。
そして、彼は笑顔で
?「…うん!」
茜色に染まる帰り道。
並んで歩く、2人の姿は、もう消えない。
ak「ねぇ」
?「なぁに?」
ak「明日もいるよね?」
少しの沈黙がながれ、
?「…もちろん!当たり前でしょ!」
その一言で、全てが満たされた気がした。
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