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胸の奥がズキズキと痛んだ。
……でもこれで良かったんだ。
創は弾かれた指が痛むのか、ポケットに手を突っ込んでため息をついた。
「いないんだ。じゃあやっぱり、男なら誰でも良かったってこと?」
「そんなわけないだろ。何でそういう方に考えんだ」
自分が救いようのない鈍感だってことは認める。
知らないところで、様々な思惑が行き交っていたことも……自分が歯がゆいけど、申し訳ない気持ちもある。
彼に好意を寄せられていたこと、それに気付かなかったこと。
彼に恋愛を邪魔されていたこと。
自分の為に霧山と結婚しようとしていたこと。
その一つ一つに対する想いが、爆発しそうだ。
これは口で言って伝わるのか、意味があるのか。分からないが、黙ってるのは逆効果だ。……言おう。
例えこれが、俺達の関係を隔てるものになったとしても。
「創。悪いけど、はっきり言う。お前は俺の従兄弟で、親友で……恋愛でいう好きって気持ちは一切持ってない。俺の為に霧山と結婚するなら、それもやめてほしい。お前らの一生を背負うなんて俺にはできないから……!」
これもかなりの告白。……だと思った。
分かってもらえるかどうかは後回しだ。まずは自分の気持ちを誤魔化さず、ちゃんと伝える。
創の場合は、伝えなかったせいでこんな事になったんだから。
「……」
彼は暫く何も言わなかったけど、やがて可笑しそうに口元を手で隠して笑った。
「はははっ。そこまで言われるとは思わなかったよ。……優柔不断のお前に」
揶揄されても反論できない。確かに、自分がどれだけ意気地無しかは……最も長い付き合いの彼が一番知っている。
自分は“選択”から逃げ続けた人間だ。同じ同性愛者でも、未来の選択をした彼とは覚悟の重さが違う。
創は踵を返して手を振った。
「……お前の気持ちは、分かった。でもこれからどうするかは、俺と玲那の勝手だ。そうだろ?」
「創……」
「はぁ。もういいや。……疲れたしな」
彼は思い出したように俺の家の鍵を投げ渡した。何の未練もなさそうに、エレベーターの方へ戻っていく。
「お前の望み通り、全部諦めるよ。じゃあな」
ヤケになった感じでも、悲しんでる感じでもない。とても淡々とした、事務的な声。これが演技だとしたら、本当にすごいと思った。
意図的でないにしても、自分が彼を苦しめていたことは確かだ。
でも彼はまだ大事なことを隠してる気がする。
それがなにか考えていたけど、無理やり思考を遮って涼を見た。
ひたすら押し黙って、一切会話に入ろうとしなかった彼を。