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小型ローターの低いモーター音をかき消す、橋本の声。
『やぁっあっ…んあっ♡……』
「陽さん、ココは?」
『や…め…っんん♡』
「ああ、本当にもう。かわいいんだから!」
『ん…っも…やめろって!』
眉間に深い皺を寄せながら、躰をくねらせてこんなふうに橋本が喘ぐことを、宮本は脳内で妄想した。それなのに実際の姿は、予想をはるかに超えるものとなってしまった。
「陽さん、えっと…感じてるのはわかるんですけど」
「雅輝ぃいっ、もっ、いい加減にっ、しろって!」
いつも見惚れる、渋いイケメン具合がまったくないその面持ちに、宮本のテンションがだだ下がりしていく。
「ぎゃはははっ! なんの罰ゲームだよ、こりゃ!!」
聞いたことのない橋本の笑い声が、室内に響き渡った。
(俺としては感じさせようとして、敏感なところに押し当てているのに、陽さんってばこんなに大笑いするなんて、どういうことだよ!?)
疑問を解消しようと、手にしているローターを難しい顔で眺めてから、自分の胸に押し当ててみた。
「ひゃっ!」
微妙すぎるローターの動きを直に感じて、宮本はすぐに肌から離したのだが――。
「雅輝、どうしたんだよ」
すぐに異変を察知した橋本が、したり笑いをしながら起き上がり、宮本の手からローターを奪取した。その素早かったこと。なにが起きたのか理解できなかった宮本は、ぽかんとしたまま橋本を見つめる。
「どうしたと言われても……」
しどろもどろに答える宮本を、橋本は力任せに押し倒して組み敷くと、強奪した例のローターを顔の前に掲げた。
「このローターの動きが笑いになっちまった俺と違って、雅輝はどんな反応を見せてくれるんだろうな?」
「陽さん、ちょっと待ってくださいっ」
「ウヒヒな展開を思い描いていたんだろ? 今俺の頭の中でも、同じことが流れてる」
印象的な瞳を細めつつ、宮本の首筋にローターをそっと押し当てた。
「くううぅっ!」
「あーあ。大事なところからイヤらしい感じで、先走りが溢れ出てきたじゃねぇか。そんなに感じるのか」
「やっ、動かし方がっ、絶妙す、ぎるっ」
「だよなー。好きな男を感じさせようと一生懸命に頭を使って、おまえの感じるところを刺激してるんだ。そうなるに決まってるだろ」
ニヤニヤがとまらない橋本は、感じる部分を狙い澄ます。その様子を目の当たりにして、宮本が慌てて胸元を隠した。両手を使って胸元を隠すその姿に、橋本は真顔になる。
「そうか……これがそんなに嫌なのか」
「嫌に決まってるじゃないですか。陽さんを感じさせるために、わざわざ持ってきたというのに!」
橋本は喚き散らした宮本の言葉を聞くなり、頬を緩ませて笑いかけた。
「よ、陽さん?」
「俺は感謝してる。こうやって雅輝を感じさせることができるなんて、思いもしなかった」
「やめてくださいよ、本当に」
宮本はうんと眉根を寄せながら文句を言いつつ、肩を竦めてこれ以上責められないように、躰を小さくする。
「普段俺ばっかり感じさせられて、ひーひー言わされてるんだ。たまにはいいだろ」
「よくないですって。それに俺は陽さんに、きちんと感じさせられてますから」
「俺だって男なんだ。好きなヤツをとことん感じさせたいって、思っちゃ駄目なのか?」
「うっ、それは――」
いつものようにやりこめてから、橋本は責める部分をしっかり見極めながらタイミングを計る。やるなら油断している今だろうと思っても、責めたいところが多すぎて、なかなか手が出せなかった。
「ヤバい。久しぶりすぎて、狙いが定まらないなんて」
ローター片手に、視線を右往左往させる。そんな橋本を、困惑を露わにした眼差しで宮本は見つめた。
「久しぶりって、なんですか。その嬉しそうな口ぶりは……」
「だってそうだろ。こんな機会めったにないし」
「俺だって……」
「なんだよ?」
「もっともっと陽さんを感じさせようと思って、楽しみにしてたのに」
初心な乙女のように胸元を隠しながら、他にもブツブツ文句を言い続ける宮本の唇を、橋本は迷うことなく塞いだ。片手に持ってるローターを手放して、大きな躰をぎゅっと抱きしめる。
「んっ、ぁあっ」
「雅輝、感じてくれ。俺のこの唇や手や俺の全部を使って、しっかり感じさせてやるから……」
「陽さんの声や言葉だけでも、充分に感じてますよ」
「ホントかよ?」
「本当です。直接触れて、確かめてみてください」
言いながら橋本の顔を、両手で包み込んだ宮本。その顔は見るからに幸せそうで、橋本の心まで幸せになる気がした。
「雅輝、愛してる」
何度も告げている言葉なのに、いつも以上に心が満たされているためか、囁きに甘やかさがプラスされる。
「陽さん、俺も愛してる」
力強く抱きしめている躰が、呟きと同時に反転させられた。この日はふたり揃って、愛を交わしあったのだった。
愛でたし愛でたし♡
次回は【この想いは蜜よりも甘く】のふたりとコラボするクリスマスのお話の予定です。
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