テラーノベル
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あの雨の日、この人に出会えて本当に救われた。俺とは正反対で明るくて時々うるさいやつ。
普段の自分ならそんなやつ気にしないで適当に返してそれでさよならってしてしまうんだろうけど
その時は何を思ったかその笑顔が眩しくて、咄嗟に思った。好きだ。
…もちろんこの時の好きは恋愛的な意味での好きじゃなくて、人として、いいやつだ、程度の好きだった。
一緒の夏休みを過ごすうちにその笑顔と雰囲気に惹かれて…
本気で好きになったんだ。
「んん…」
カーテンから漏れる朝の光で目を覚ます。隣には静かに寝息をたてているキヨくんの姿。腕は俺の腰に回されたままで、抱き寄せるようにしてぐっすり眠っていた。
その腕からするりと抜けようとしたときだった。
「…どこ行くの」
俺の動きで起きたのか、大きなあくびをして俺の顔を見る。
「あ、おはよ。
ホットミルクでも作ろうかと思って。
キヨくんも飲むでしょ?」
「ああ…そうね、もらうわ。
でもその前に…」
体を起こして俺の頬に手を添える。
ちゅ
「おはよ、レトさん」
寝起きの低い声が耳元で聞こえてくすぐったかった。
俺の顔が赤くなっていた。顔が火照っていくのがわかったから。
「ちょっ…」
「恋人になって初めての朝だね」
今までもこんな距離感で会話していたことなんか何度だってあったのに、“恋人”という肩書きだけでここまで空気感が変わるものなんだと驚く。
(そっか…友達じゃなくなったんだ…)
友達は起き抜けにキスなんてしない。その行為が、俺たちが友達の関係を終わらせた何よりの証拠だった。
「今日休みだけど、なにする?
どこか出掛けようか?」
キヨくんのそんな提案に、俺は首を横に振る。こんなに幸せな空気に包まれているなか、どこか開放的な所に出掛けたいなんて全く思わなかった。むしろ、この2人だけの幸せな時間を堪能したいとさえ思っていた。
「ホットミルク飲んで、二度寝しよ。
またゲームしててもいいし 」
「そんなんでいいの? 」
「いいのいいの。俺…まだキヨくんと離れたくないっていうか…
今は独り占めしたい…だめかな? 」
一瞬驚いた顔をして、すぐ笑顔に戻る。
「だめなわけないでしょ!
いいよ、俺もレトさん独占したいから」
布団のなかでふふふ、と2人で笑い合う。
2人だけの暖かい空間。
カーテンの隙間から見える空は晴れていて、まるで俺の心を映しているみたいだった。
なにも楽しみがなかったあの雨の日の俺の世界は、この眩しい笑顔の男によって一変したのだった。
The End.
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