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「好きだ」
なーんて言われたあの日。俺は口が塞がらなかった。ただ普通に話していて、冗談言い合って笑い始めた時急に、あいつはほろっと零したのだった。
一瞬まずい、と言ったような顔をしたがすぐに真面目な目つきに戻って、俺の手を取る。
ひんやりとした手が、今日はほんの少し震えていた。
「アメリカ、好きだ。」
じんわり、じんわり熱を持って。
自分が顔を赤くしているのが分かった。
のが、数週間前。
答えを保留にしてから、あいつはあの話を掘り返さない。いつも通り、馬鹿な冗談言い合って、昼飯食いに行って、時々酒飲んで。
まるで、好き、なんて言った事がなかったかのように。
超大国であるアメリカは揺れに揺れていた。
(こ、答え言おうにも…なんかタイミング見つかんねえし……)
問題を勃発させたロシアは生真面目に資料を読んでいる。
(あーーークソ!大事な会議なのに…ぜんっぜん集中できねえ……)
仕事に集中できないのは今に始まった事ではないが、ロシアに告白されてからは滑車がかかったように注意散漫だ。
(集中しろ俺!!)
「では……アメリカさんはどう思いますか?」
今日の議長である日本は俺に話を振る。
「あーー、そうだな…やっぱりG7の国が団結してやっていかねえと……」
ロシアに告白されたからなんだ。目が合ったから、少し、微笑んでくるような、あいつに、
(告白、されたからって)
ロシアは、ふと目が合った瞬間。くすっと笑う。
「………………」
「え、えっと、アメリカさん……?」
「はっ、いや、ごめんちょっとぼーっとしてた!!」
「大丈夫ですか……?体調が優れないのでしたら無理なさらず…」
「大丈夫大丈夫!!マジで気にしないで……」
「そ、そうですか…顔色が悪いですが…熱は無いんですね……?」
傍にあったペットボトルを半分飲んで、資料で扇ぐ。
「あっ、兄さんそれ俺の水……」
「ガチで大丈夫!会議進めちゃっていーぞ!!」
「分かりました……ではカナダさんからもぜひ意見を……」
(くそ、くそっ……あいつなんかに振り回されてたまるか……っっ…)
残りのペットボトルの水を飲み干し、アメリカは小さくため息をついた。
隣の席のカナダが自分の水を全部飲まれて切なげな顔をしているのにも気付かずに。
「おや、もうこんな時間…12時になりましたので午前の会議はこれで終わりますね。」
「はーっ、日本が議長で15分オーバーか。かなりマシな方だな!」
「この前は2時間オーバーだったからね。」
「あっ、カナダ昼飯一緒に食いに行かねえ?」
「い、いや僕はちょっと水飲みたいから…自販機に買いに行くよ……」
「ん、そーかよ。」
(昼飯…誰誘おう……)
日本は既に中国やら韓国やら台湾に囲まれている。親父はフランスと口論しているし、ヨーロッパ諸国は仲のいい奴らで既に固まっている。
(小さい国に声掛けても怖がられるだけだしな…)
ふと、会議室のテーブルで鞄に資料をしまっているロシアが目に入る。
(いや、でもあいつはちょっと……)
仕方がない。今日は1人でどこかに食べに行くか。
そんなことを考えていると、肩に誰かが触れた。
「うわっ……?!」
「よーおアメリカ。ぼっち飯か?」
「なんだ、ロシアか…うるせえなあ……つかお前もぼっちだろ……」
「俺は別にぼっちでいーからな。」
「お前も1人なら一緒に食いに行こうぜ。ほら、早く行かねえと昼休みなくなる。」
「はいはい」
(…こいつ、ほんとに俺のこと好きなのかな……)
そんな事を思ってしまうくらいに、こいつはいつも通り。
目が合ったくらいで顔が熱くなる俺とは大違い。余裕そうで、慣れてそうで、興味無さげで。なんというか。
(俺ばっかり、本気にして焦ってるんじゃ、)
「……い、おい。聞いてるか?アメリカ」
「え、あっ、ごめんなんの話だったっけ。」
「なんだよ、俺と一緒にいるってのに他の国のことでも考えてたのか?」
アイスコーヒーを飲むロシアが、頬杖をついて俺と目を合わせる。
どき
心臓がどくっと脈打つ。
「ちげえよ……」
(お前のこと考えてた、とか。言えたらなんか変わるのか?)
言おうか迷っている間に、ロシアは俺の分のポテトに手を出し始める。
「そうだ、アメリカ。最近おいしい酒が手に入ったんだ。」
「ほーお、ウォッカ?」
「ああ。お前俺の家に飲みに来ないか。明日は休みだろ、飲み明かそうぜ。」
こいつの言ううまい酒、はハズレがない。
(の、飲みたい……)
「しゃーねえなあ!!行ってやんよ」
「ははは、それでこそ大国アメリカ様だぜ」
俺は後悔することとなる。
酒につられてこいつの家に上がった事を。
チャイムを鳴らす。
小さく扉が開いて、低い声が問う。
「……もちろん、持ってきたんだろうな?」
「はいはい、持ってきたよ。」
今度はなんの映画に影響されたのか、まるで密売人のような素振りをするこいつ。
俺がくすっと笑うとロシアが大きく扉を開いた。
「入ってよし。」
「おじゃましまーす」
コンビニで買ってきたおつまみをテーブルの上にぶちまけると、ロシアはそれを眺めて口角を上げる。
「お、これ好きなんだよなあ……」
「お前が好きそうなやつを買ってきてやったんだぞ。俺ってばやっさしー!」
どんっと瓶が置かれる。
透明の液体が揺れて、青いロゴが映えるそれは、ウォッカ好きの唸る味。
「スウェーデンの究極のウォッカ」
「おおーーー!!!」
「これ飲んでみたかったんだよなー。スウェーデンを脅し……んん、頼んで、貰ったんだ。」
「早く飲もーぜロシア!!!」
ソファーに腰掛けて、ロシアが勿体ぶるようにゆっくり注ぐ。とくとくと心地のいい音がして、カラン。氷が鳴る。
「ははは…そんな顔すんなよ……」
「あ…?」
「物欲しそうだ、」
そんなに飲みたそうにしていただろうかと、おつまみのチーズに手を伸ばすとロシアはグラスを押し付けてきた。
「ほらよ。」
口に含んでみる。喉を通ると、ちりちり熱い感じがして。
(う、ま。)
「んん、いい味だ。」
「いい酒貰ったんだなー」
「ふふん、だろう。俺が選んだんだ。」
酒が美味くて、いいつまみがあって。
話が弾んで。
くらくらしてきて。
つい飲みすぎて。
「ん、」
「……アメリカ。」
「んだよ、ふふ。」
「お前って、馬鹿だよな。」
「あーん……?」
「普通、告ってきたやつの家にのこのこついてくるか……?」
はっ、としてグラスをテーブルに置いた。
熱っぽい視線を絡めてくる、ロシアの方を見る。
「おい…いいってことか…?なあ……」
「……なにが、」
「ガキじゃねえんだ、わかるだろ……」
不意に、引っ張られる。
押し倒されたのはソファーで、大して痛くもない。
ロシアは耳元で低く笑った。
心臓の中を撫でるような低い声だった。
「ん……」
「好きだ……アメリカ。愛してる。」
「…冗談かと、思った」
「え?」
「……お前が、あんまりにもいつも通りにしてるから、」
そんなことを言うと、ロシアはくくっと低く笑う。
「だからお前は、こういう悪いやつに捕まっちまうんだぜ」
首筋をするっと撫でられて肩を震わすと
声が漏れてしまって
「…可愛い声出すんだな」
「うるっさ……」
ロシアは小さく笑った後、
少し触れるだけのキスを落とした