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ライラ からぴち・シクフォニ♡
20
「ん?」
いつき君が、まだ何かを言いたげに俺を見つめていた。けれど、目が合うと慌てて首を横に振る。
嘘じゃないけど、本題はそっちじゃないんだろうな。
いつき君は分かりやすい。動揺するとすぐに視線がキョロキョロと泳ぎだす。……きっと、本人が俺に知られたら恥ずかしいようなことなんだろう。それをあえて口にしないいつき君は、本当に信頼できる。
「……俺さ。いつき君のそういうところ好きだよ」
「えっ、なにが?」
また目が泳いでいる。嘘をつけない不器用さが、たまらなく愛おしい。
「ゆうたの時も、しゅうとのことも。……自分が不利になったり、俺と喧嘩になるかもしれないのに、ちゃんと隠し通そうとするじゃん。きっと、俺の知らないところで俺のことも守ってくれてるんだろ?」
「……いっちゃん」
「まぁ、分かりやすすぎるのもどうかと思うけどな」
いつき君の柔らかい髪に手を置いて、ゆっくりと撫でる。……そういえば、俺からこうして頭を撫でるのは初めてかもしれない。
「……俺、もう一生いっちゃんの犬でいたい」
「犬、ねぇ。そんなふうに思えるわけないだろ」
ふふっと笑って、今度はその頬に触れる。
ただの犬だと思っていたら、こんなに胸が締め付けられるような感情にはならない。
「……バイト、行きたくなくなっちゃった」
「離れてる時間があるから、二人の時間を大事にできるんだろ?」
「……いっちゃん、悟りすぎ。俺はまだまだだなぁ」
いつき君が、いつものようにふにゃりと笑った。
俺だって本当はずっと一緒にいたい。けれど、いつき君の時間を独り占めするのは違う気がする。
離れている間に「会いたい」とか「愛おしい」とか、相手を想い焦がれる時間こそが大切なんだ。
「……しゃあねぇなぁ」
愛しさが溢れて、いつき君を強引に引き寄せ、力いっぱい抱きしめた。
ゆうたとしゅうとはまだ教室で話し合いの最中だろう。少しくらい、ここで羽目を外してもいいはずだ。
「ん……っ」
驚いて目を見開くいつき君の唇に、触れるだけの淡いキスを落とす。
「……これで、頑張れる?」
「ううん。全然足りない」
いつきくんの顔が近づき、そっと唇が重なる。
触れるだけのキスとは違う、深い熱を帯びた感触に、ここがまだ学校だということを一瞬忘れてしまった。
「んっ……」
逃げられないように後頭部に回された手が、優しくて、でも強引で。
意識がとろけてしまいそうなほどの熱が、じわじわと体中に広がっていく。
しゅうとが言っていたキスの仕方は、合っているようで、どこか違っている。
いつき君のキスは、その時の熱量で形を変える。正解なんて、俺たち二人だけの間にしかないんだ。
「……ここ校門やで? こんな場所で普通イチャつくか?」
「……こんなとこでお手本見れるとは思ってなかったぁ」
背後から突き刺さる、呆れ果てた声。
振り返れば、そこには顔を引き攣らせたしゅうとと、恥ずかしそうに顔を隠すゆうたがいた。
「うわっ、いたの!?」
「……マジかよ」
飛び上がって距離を取るいつき君と、天を仰いで頭を抱える俺。
おそるおそるしゅうとの方を見ると、あいつ、口角を吊り上げてニヤニヤしながらこっちを見てやがる。……あー、これ、完全に確信した顔だ。
「どうしよう、見てるこっちが恥ずかしい……」
「なんでゆうたが赤くなってんねん」
「や、だってさ。あんな完璧なお手本、間近で見れると思ってなかったし……」
「お手本?」と俺が聞き返すより早く、しゅうとが「やっぱりそうやったんか」と深く頷いた。
「何がだよ」
「ゆうたといつき君の、あの『空白の2時間』の謎が解けたわ!」
「おー。名探偵コ◯ンだ」
茶化してみたが、しゅうとは気を悪くするどころか、どこか誇らしげにゆうたといつき君を手招きして呼び寄せる。当の二人は、めちゃくちゃ戸惑い切っているけど。
「あの3人でデートした日。俺が帰った後、誕生日プレゼントの相談だけで2時間はかかりすぎやと思いませんか? いっちゃん」
お、さらっと言ったな。しゅうとの口から出た、あまりにも自然な「いっちゃん」呼び。
「おぉ……それはそうかも」
「なんやかんやで、気になってますよね? いっちゃん」
「……うん、気になってるぅ~」
二回目。しゅうとの奴、自分でも「呼べた!」って手応えを感じているのか、心なしか頬が緩んでいる。……クソ、なんなんだこいつ。可愛すぎてもうすでにファンになってるわ。
「いっちゃんは優しいから、あの時、2人を問い詰めへんかった。でも、そういう小さなわだかまりって、積み重なると最後は爆発してまうもんやと思うねん」
しゅうとの表情が、ふっと真剣なものに変わった。
「黙っておくことが優しさなのもわかる。けど、もし言えることなら、ここで本当のことを教えてほしい。……俺とゆうたが、これからもちゃんと付き合っていくために、必要なことやと思うから」
さらりと混ぜ込まれた交際宣言。
しゅうとにとって、いつき君のキスの癖を知ることは、単なる興味本位じゃなかったんだ。好きな人が、好きだった人から何を教わったのか。それを正しく理解したかったんだな。
「……ゆうた、いいの?」
「……うん。しゅうとがそう言うなら」
いつき君とゆうたが視線を交わし、覚悟を決めたように頷き合う。
なんだ、この妙な緊張感。これから何が語られるんだ?
「……あの日は、プレゼントを渡すタイミングをいつき君に相談したんだ。それで、もし上手くいって告白できたらいいなって話になって」
「……うん。それで、もしOKもらえて、いい感じの雰囲気になったら……その、『上手なキス』ってどうすればいいのって話になって……」
「え、まさか実践したの?!」
思わず口を挟むと、いつき君が「そんなわけないでしょ!?」と顔を真っ赤にして食い気味に否定した。
「俺、いっちゃん以外とそんなことしたくないよ! 指一本触れさせてないからね!?」
「……わかってるって。ごめんごめん」
重たくなりかけた空気をぶち壊そうとしたら、いつき君に本気で怒られてしまった。
けれど、必死に貞操を訴えるその姿が愛おしくて、俺の口元は緩みっぱなしだった。
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