テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
洋館は、深夜になると驚くほど静かだった。
廊下の時計が時を刻む音だけが、静寂の中に響いている。
ふうはやは眠れなかった。
ベッドの上で目を閉じても、昼間の港の光景が頭から離れない。
コンテナの陰。
飛び出していくりもこん。
銃声。
そして――
rm「目の前で助けられる人がいるなら、俺は助けます。」
その言葉だけが、何度も胸の奥で繰り返されていた。
fu「……らしくない。」
小さくつぶやく。
任務が終われば忘れる。
それが今までの自分だった。
なのに今日は違う。
眠れない。
理由が分からなかった。
⸻
気分を変えようと部屋を出る。
廊下を歩き、中庭へ続く扉を開けた。
夜風が頬をなでる。
月明かりが庭を白く照らしていた。
fu「……あれ?」
ベンチに誰か座っている。
近づくと、りもこんだった。
rm「あ。」
りもこんも気づいて立ち上がる。
rm「ふうはやさん。眠れないんですか?」
fu「……お前もか。」
rm「はい。」
少し照れくさそうに笑う。
rm「今日のこと、いろいろ考えちゃって。」
二人は並んでベンチに座る。
虫の鳴き声だけが聞こえる。
しばらく誰も話さなかった。
不思議と、その沈黙は苦しくない。
⸻
rm「一つ聞いてもいいですか?」
りもこんが静かに口を開く。
fu「何だ。」
rm「ふうはやさんって……。」
少し迷う。
rm「昔から、今みたいだったんですか?」
その瞬間。
ふうはやの表情が、ほんの少しだけ曇る。
ハム✨投稿2ヶ月 1週間執事化
7,950
#たまちゃん
くりーむ
232
fu「……。」
長い沈黙。
答えは返ってこない。
りもこんは慌てて首を振った。
rm「あっ、ごめんなさい!
rm「嫌なら全然――」
fu「違う。」
ふうはやがぽつりと口を開いた。
fu「思い出そうとしただけだ。」
rm「え?」
fu「昔のことは……あまり覚えていない。」
りもこんは目を見開く。
rm「覚えてない?」
fu「ああ。断片的にしか。」
風が吹く。
木々が静かに揺れた。
fu「覚えているのは。」
ふうはやは夜空を見上げる。
fu「笑っていた誰か。泣いていた誰か。」
fu「それから……」
そこで言葉が止まる。
頭の奥に、鋭い痛みが走った。
暗い部屋。
誰かの怒鳴り声。
赤い色。
伸ばした手。
――届かなかった。
fu「っ……。」
ふうはやは無意識に額を押さえる。
rm「ふうはやさん!大丈夫ですか!?」
fu「……平気だ。」
そう言う声は、少しかすれていた。
りもこんはそれ以上聞かなかった。
聞けなかった。
代わりに、自分のポケットから小さな飴を取り出す。
rm「はい。」
ふうはやは飴を見つめる。
fu「……何だ。」
rm「眠れない時、俺よく舐めるんです。」
rm「ちょっとだけ落ち着くので。」
ふうはやは少し戸惑いながら受け取る。
包装紙をゆっくり開く。
口に入れる。
ほんのり甘い。
それだけなのに、胸の奥の痛みが少しだけ和らいだ気がした。
fu「……甘い。」
rm「でしょ?」
りもこんが笑う。
rm「俺、この味好きなんですよ。」
ふうはやは小さくうなずく。
fu「……悪くない。」
その一言に、りもこんは嬉しそうに笑った。
⸻
二人が部屋へ戻ったあと。
暗い廊下の角。
そこに、一人の影が立っていた。
ボスだった。
静かに中庭を見つめている。
誰にも気づかれないまま。
誰にも声をかけないまま。
ただ、二人が座っていたベンチへ視線を向ける。
ベンチの上には、飴の包み紙が一枚だけ残されていた。
ボスはそれを拾い上げる。
指先でくるりと回し、静かに笑う。
bs「……小さな贈り物ほど、人の記憶には残る。」
包み紙を胸ポケットへしまう。
その瞳は穏やかだった。
けれど、その穏やかさの奥で、何かを静かに計算しているようにも見えた。
コメント
1件
ああ、この第9話、すごく良かったです。深夜の洋館の静けさ、沈黙すらも苦しくない距離感――ふたりの空気感がとても繊細に描かれていて引き込まれました。特にふうはやさんの「覚えていない」という告白、あの瞬間の胸の痛みがこちらにも伝わってきました。そんな中でりもこん君が差し出した飴、あの小さな優しさがじんわり沁みますね。ラストのボスの存在感も絶妙で、余韻の残るエピソードでした。次が気になります。