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雛西風花(ひなにしふうか)、16歳。16年間生きてきたこの身で、かなりショックな出来事が今起こった。
わたしは自分の教室で授業を受けていてふと、チョークが切れたので持ってきてほしい、と先生に言われた。
わたしはチョークをがある用具庫まで行った。
かなりわたしのいるA校舎から遠いので、わたしは小走りで向かっていった。
渡り廊下を走り抜け、B校舎、C校舎とどんどん通っていく。
ここまで走ると着くのがこの学校の端っこにある体育館。
ここの少し奥に用具庫がある。
相変わらず遠いなと思いながら、横にある体育館特有の外にあるトイレを横切った。
その時。
女子トイレの辺りからいい香りがする…。
なんなら少し声も聞こえた気が…。
普通体育館のトイレは野ざらしな上、清掃が屋内ほど行き届いていないので、いい香りがするというのは考えにくいんだけど…。
やっぱり、声が聞こえる…。
「はぁ…はぁ…」
どうやら息を切らしているのか、随分と過呼吸だった。
誰かいる。
そう思ったわたしはチョークそっちのけで用具庫に脚立を取りに行った。
そしてお行儀が悪いが、それを使って個室を覗いてみた。
「きれい…」
中には青髪ロングの女性が上品に可愛らしく座っていた。
思わず小さい声が漏れてしまうほど。
けど様子がおかしい。
脚を大きく開いていて、その真ん中には…
「あ…」
わたしは全て察した。
大きく開いた脚、とろけた顔、行き場を失った右手。
これはもう間違いない。
えー、初めて見た…人のひとりえっち…
わたしも女の子なのでちょっとはした事ぐらいあるけど、人のを見ると自分と同じことをしているはずなのにドキドキする…。
しかもこんなところで…
でもわたしはそんなことよりその人の顔に夢中になっていた。
とろけた顔は憎たらしいほど色っぽく、緑色の澄んだ瞳は少し潤んでいる。
美しい…
顔を見てうっとりしていると、その美しい瞳と目があってしまった。
「!!」
わたしは急ぎかがんで顔を隠した。
まずい、バレた。
顔を隠したはいいものの、どうしたものか…
わたしは急いで脚立を片付け、トイレの個室のドアの前に立った。
見てしまった。どうしよう、何か言おうか。
3分ほど悩んで、やっと結論が出た。
ノックしよう。
一度思いついたことについてはそれ以上考えないほうがいい。自分の考えを曲げると、その後もどんどん曲がっていく。
コンコン、とドアを叩いた。
「あの…入ってますか…?」
「は、はいって…ます…」
頼りない声が返ってきた。
それからちょっとして、先程の美しい女性が俯いたまま出てきた。
「ど、どうぞ…」
さっきの人だ!
表情はよくわからないけど、すれ違う時に柔らかなフローラルな香りがした。
香りも見た目も、花みたいに美しい人…。
うっとりして忘れていた。
声をかけなければ。
「あ、ちょっと待って!」
声をかけたが、
(…あれ?)
わたしが出した声は彼女の背中にぶつかっただけで、こっちを向いてくれない。それどころかあっちがキョロキョロしている。
…何してるんだろう。
しばらく辺りを見渡した後、ゆっくり振り返って彼女は言った。
「わ、わたし?」
「は、はい…」
マジか。
この様子だと最初は自分に声をかけられたと思っていなかったんだろう。
(安心してください。この周りには誰もいませんよ。)
とわたしは心の中で呟く。
そして彼女はゆっくり顔を上げた。
そこに見えたのはどこまでも緑色に澄んでいる、どこへいても見透かされてしまうような透明さを持った瞳だった。
だがわたしと目が合った瞬間、彼女は
「!!!!」
と目を見開いて死神にでも追われているかのように全速力で走り逃げていった。
「えっ、ちょ!?…待って!」
わたしは遅れてそのあとを追う。
彼女が通った道にはうっすらフローラルの香りがするからわかる。
わたしはその香りの跡を辿っていった。
さほど遠くはなかった。
B校舎とC校舎の渡り廊下。
体力があまりないのか彼女は息を切らしてその場に立っている。
「はぁ…はぁ…」
「ちょっと待ってください!なんで急に…」
ビクッとする彼女。
「な、なんで追ってくるの…」
質問を質問で返された。どうやら答えてくれる気配はなさそうだ。
「なんでって…」
わたしは彼女が何か言いたげな顔をしているのを無視して言葉を発した。
「シてました…よね?」
「あ、あぅ…」
それを言われた途端、彼女は情けない声を出して、骨がなくなったようにふにゃふにゃと地面にへたり込んだ。
(あー…これは思ったよりダメージ与えちゃったかな…?)
やっちゃったかもしれない。
彼女は俯いたままだ。
やばい、ここはどうにかして彼女にこれ以上ダメージを与えないようにしないと…
そこでわたしは彼女が聞いたらぜーったいに安心するような言葉を閃いた。
「大丈夫ですよ、わたし誰にも言いませんから」
彼女の顔が少しこちらの方に上がる。
瞳が見えた。
美しい。
よく見ると少し潤んでいて、いかにも救いの女神でも見たかのような眼をしている。そうだよわたしが救いの女神だ。
わたしはこの美しい瞳をもっと感じていたくなって、いらないことまで言ってしまう。
「でも、条件があります」
彼女の顔が再び下降する。
ロボットみたいで面白い。
「条件って…?」
彼女がこちらに目も合わせずに聞いてくる。
そういや何も考えてなかった。
わたしはとりあえずこう言うことにした。
「これから考えます。なので今日放課後お時間ありましたら、C校舎の第二会議室で待ち合わせましょう」
「……」
彼女は黙ったまま頷いた。そりゃそうか。自分の高校生活が終わりかけているところなのだから。
てか、名前訊いてなかった。
「あと名前聞いておきたいんですけど、いいですか?」
「わたし、雛西風花、一年生です」
彼女はまたゆっくり顔を上げて言う。
「椎名瀬戸…二年」
あ、先輩だったか。まぁ一年の中では見たことないしそりゃそうか。
ほう、椎名先輩。可愛い名前だこと…
「じゃあ先輩、放課後ちゃんと来てくださいね」
「…うん…」
先輩はめんどくさいことになった、と言う顔をしている。
そんな顔するなら言ってあげてもいいのに。
わたしは心の中でにやけながら言う。
結局そのあと先輩とは別れて、わたしは急いでチョークを教室へ持っていった。
まぁ教室に戻った時に待っていたのは、生徒たちがみんな自習している光景と、目の前にいた教師から受けた
「風香さん、遅い!」
という叱責だったんだけど。
わたしは自分の席につきながら考える。
(椎名先輩…いい香りしたな…)
先輩のフローラルな香りはいつまで経っても私の中に残り続けた。
追記
風香じゃなくて風花です!間違えてすみませんでした!
コメント
1件
わああ読んだ読んだ!!😭💕 風香ちゃんの「条件あります」からの椎名先輩の「……」の流れ、最高にエモい…! 青髪ロング×フローラルな香りってだけで尊すぎるのに、お互いの初対面がまさかのアレでしかも逃げる先輩を追いかける風香ちゃん、完全にヒロインじゃん!!✨ 香りの跡を辿る描写とか、もう恋の始まり予感しかしなくて胸が熱くなったよ…! 放課後の待ち合わせ、どうなるのこれ!?続きが待ちきれない!!🔥