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ここるん
野鐘(ノベル)
そこはまるで、星一つない真夜中の夜。少女が召喚した不思議なドアの先には、真っ暗な夜に一人ポツンと歩く蒼汰の後ろ姿が見えた。
「蒼汰!!!!」
響いたその声は、蒼汰まで届いた。蒼汰は驚いた顔で、悠斗と仁の方を見た。
「蒼汰君!!!!」
「ゆ、悠斗と仁!?なんでここに⋯⋯」
「銀髪の彼女のこと知ってんだろ。死んではねぇけど連れてきてもらったんだよ。おい蒼汰⋯⋯なんで勝手に自殺なんてしたんだよ!!」
「っ⋯⋯決まってるだろ!俺達で過ごした時間の記憶がなくなった、悠斗と仁は⋯⋯記憶があった頃の無邪気に花が咲いたような笑顔ではなかった。俺には、無理に笑おうとしてる二人の表情がたまらなく苦しかった⋯⋯」
その顔はまるで栄養がなくて辛そうなのに、無理に花を咲かそうとしているような花だった。
「そんなの⋯⋯蒼汰のメリットがねぇじゃねぇか!」
「ある!なかったらそんなことしない。⋯⋯俺は、二人が元気に生きていられれば、それだけでめちゃくちゃ幸せなんだ……一人で何もなかった俺に、たくさんの大切なものを初めてくれたのは、二人だった。生きる意味だって教えてくれた。もらいすぎた、だから少しでも恩返しがしたいと思ったんだ!!だから⋯⋯自殺した」
少しの間沈黙が続いた。言いたいことはたくさんあるはずなのに喉の奥で言葉が詰まって出てこない。
「蒼汰⋯⋯一人にして、ごめんな。でも、一人で背負う必要なんてないだろ!!⋯⋯なんで相談しなかったッ、なんで一人で背負ったんだよ!!」
「ごめん⋯⋯俺がなんとかしなきゃって思って。それに二人の記憶がなかったあの世界は、俺の生きる意味が見えなかったんだ。そこで俺気づいたんだよ。長生きすることが幸せじゃないって。生きているときに大切な人と喜びを共有したり、認めあったり、楽しい思い出を作るから生きることが幸せなんだって。それがなければ俺は⋯⋯」
「⋯⋯ふっ、なんだ、蒼汰君分かってるじゃん」
「⋯⋯え?」
「生きているときに大切な人と過ごすのがいいんだろう?だから僕達が嬉しいのは、幸せなのは、楽しい思い出や記憶なんかより、蒼汰君、悠斗君、僕の三人でいることだ。そもそも大切な人がいなきゃ思い出なんて作れない。蒼汰君や悠斗君もそうなんじゃないの?」
「ははっ⋯⋯仁の言う通りだぜ。だから蒼汰、一人で自殺なんてするな、一人で抱え込むな。俺らが笑えないだろ?思い出なんてまた増やしていけばいい!」
ニヤリと口角を上げてさっきとは一変して太陽のような笑顔になった。久しぶりにみた。
「確かに。ははっ⋯⋯俺、なんで気づけなかったんだろうな。」
言い返せなかった。俺はただ二人に笑っていてほしかっただけだ。なのに、いちばん大切なことに気づけなかった。俺はバカだなぁ。
「うおっ⋯⋯どうした蒼汰。んな泣くなって⋯⋯」
「うるせぇ、悠斗と仁だって目うるうるなってんぞ」
「ははっ、ほんとだぁ」
この感じ、懐かしい。暖かい。こんなにいい大切な人がいるなんて、俺はなんて幸せ者だろう。
「でも、もうお別れなんだな」
「――そうだな⋯⋯」
それを密かに見ていた銀髪の謎の少女は考え込んだ。そもそも霊になったのは生者だったころ、大切な人を守れなかった未練からだ。だからこの三人を幸せにしないと成仏すらできない。でも世界を改変する能力を三回以上使ってしまえば生まれ変わることはできない。この三人は幸せなんだろうか。これがベストの答えなのだろうか。
「あの⋯⋯皆さんは、今幸せですか?これがベストの答えですか?」
「あぁ、幸せだと思う。まあでも、できれば三人で生きたかった。こうなったのは俺のせいだけどな」
「――その願い、叶えましょうか?」
「え!?できるのか⋯⋯?さっき、できないって⋯⋯」
「貴方がたが望む一番の答えになっていない、ということは私は目的を達成していない、未練が残ったままだという事。これじゃ成仏すらできないのでね」
「でもそうしたら生まれ変わることができないんでしょう?貴方の意見も尊重しないと」
「もういいんです。自分の一番やりたいことは人を救うためだと気づきました。なので最後に願い、叶えます。ただし、ベストの答えを選んでください」
「そんないいんですか⋯⋯本当にありがとうございます」
「――あの、ちょっと質問あるんだけどいいかな?三人の記憶を消す選択をしたとき、どうしてだか蒼汰君だけ少しだけ記憶が残ってたんでしょ?てことは、お願いをした当事者だけ記憶を完全に消すことができないってことであってる?」
「はい、そういうことになります」
「なら簡単だね。〝三人で〟お願いをして当事者になれば残る記憶が三等分されるんじゃない?」
「確かにそうだな!一人で思い出して一人で背負うんじゃなくて、三人でわける。記憶も、痛みも、全部。な!蒼汰!」
⋯⋯〝正しいこと〟をやってるつもりだった。でも違ったんだな。三人でいるなら、三人で決めなきゃいけなかった。二人の優しさはわかっていたのに、信頼していたのに。二人を傷つけてしまった。
「そうだな。二人とも、頼らなくてごめん。ありがとな」
悠斗と仁は俺の目を真っ直ぐ見て微笑んだ。この二人はこんなに俺を信頼してくれていたんだな。
「俺の方こそ感謝したいんだよ。最初は俺が事故で死んだはずなのに、助けてくれてありがとな。それじゃあ、帰ろうぜ!」
優しく微笑んだ少女は手を伸ばして紫の光を抱えようとしたとき、
「あ、まって、貴方の名前は⋯⋯」
「ワタシの名前⋯⋯?――紫《ゆかり》です。糸瀬 紫《いとせ ゆかり》」
「⋯⋯本当にありがとうございます、紫さん」
「ふっ、こちらこそです。ワタシもこれで成仏できる。幸せになってください」
その後、三人で少女に願った。暗い夜空のような空間が光で包まれた。
「またな、蒼汰、仁。記憶は消えても思い出はあったものとしてぜってぇ残ってるぜ!」
「そうだね。また会おう。思いだせるかはわからないけど、今まで感じたことは心のどこかできっと残ってるよ」
「⋯⋯二人とも、本当にありがとな。感謝してもしきれねぇ。めちゃくちゃ、楽しかった⋯⋯!!」
俺は毎回周りの人に助けられている。これから大きな花が咲くから大丈夫。思い出だって忘れても、消えてしまったように見えても、きっと、心のどこかで小さく花のように咲いている。だって、花は何度だって咲くのだから――
***
少し肌寒い中、桜の花弁とともに暖かな春の風が頬をなでた。俺は高校を卒業した。何もなかった高校生活だったけど、なんだか温かいぬくもりがあった。何もなかったはずなのになぜか高校を卒業してしまうのが少し寂しく感じた。
新年度、俺は一人暮らしをするために自分の部屋をきれいに掃除すると同時に荷造りをしていた。
「もう、大学生になるのか。早いな」
棚に入っていた漫画を見つけてついページをめくり、子供の頃の写真や絵を見つけるたび懐かしい気持ちになっていた。それらを丁寧に段ボールに詰めていた。
「ん?なんだろこれ⋯⋯」
棚の隙間からひらりと、一封の茶封筒が出てきた。テープで止められているところを丁寧に裂いて開けてみた。そこには一枚の紙に自分の直筆の文字があった。
「未来の俺へ、
これを読んでるってことは、たぶん大事なことを忘れてる。
でも、それでいい。
もし、なんとなく寂しいとか、理由もなく苦しいとか、
そういう気持ちがあったら、それはちゃんと意味がある。
お前は一人じゃなかった。
ちゃんと、笑ってた時間があった。
だから、大丈夫だ。
また、きっと出会える。
その時は――ちゃんと笑えよ。
高一の俺より」
書いた覚えはない。でも確かにここにある。
「⋯⋯ふっ、なんだこれ」
静かな部屋で少しの間沈黙が続く。胸の奥がじんわり熱くなる。遠くで聞き覚えのある、笑い声と優しい声がする。何があったかは覚えていないけど、どこかで誰かと笑っていた気がした。
振り返っても誰もいない。
「――懐かしいな」
胸の奥にふわりと何かが咲いた。あたたかくて、少しだけ騒がしい、そんな気がした。
――微笑みとともに差し込む日光に照らされた涙が頬を伝った。
それをぐっと袖で拭い、立ち上がった。