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魔導ゲートを抜けたおれたちは次のゲートへ差し掛かる。子供の頃はゲートを見たことは無く、外への道は常に開かれた状態にあった。少なくとも魔導兵が反乱を起こすまでは、誰でも自由に行き来が出来た。それが今や、固く閉ざされた上に人間が住めないほど滅んでしまっている。
国の中心の居住区を囲むように、緑豊かな森に守られた国でもあった。幼き記憶ではあるが、魔力で動く機械じかけの魔導兵はとても頼もしく思えていた。だからこそ今見えている光景は信じがたいものだ。反乱したとはいえ公国の敵と共存して人間を排除するなど、正直考えられない。
それもこの先に進んで行けば分かるとは思うが。
「アック、アック! 緑がたくさん見えて来たのだ~! ウニャ~」
「森の中のゲートか。森ということは獣が多く出て来るかもしれないな」
「何だか似ているのだ」
「ん? 似ている?」
シーニャは敵との戦いが連続して嬉しくなっているかと思っていたが、
「ウニャ。シーニャがいた森に似てるのだ。居心地がいいのだ」
「……ふむ」
シーニャと出会った森も結構深い森だった。そこと似ているからこそ感じるものがあるのだろうか。
つまり、それだけ年月が経ってしまったということになる。
「それにしても不思議です~。さっきまでは雪の中に街があったのに、ここは自然の森の中に迷い込んで来たみたいです! ここがアック様の国なんですか?」
「まだおれの国でも無いが、故郷には違いないな」
「ヒューノストは完全に雪の中の環境下にありましたわ。でも、アックさまの故郷だけが全く違う場所にあるようで……これは興味深いですわね」
寒さとは無縁の国だったのは覚えている。暮らしていた頃は単に魔力の恩恵かとも思っていた。だが、目の前に広がっている森林がこうも現存していると生き残りがいると思いたくなる。
しかしルーヴによれば人間の生き残りは無いということらしい。それはあくまでゲートの手前しか近寄れなかったに過ぎない彼らの話によるものだ。ここまで森が広がっていて暖かささえ感じるとなれば、獣人が棲んでいても何ら不思議はない。
そんな可能性を信じようとしていると、
「イスティさま、複数の気配があるなの!」
フィーサがどこからか感じる気配を察知する。荒れ果てたでもない道とゲートの周りは、ものの見事に深い森。空を見上げても、雪模様では無くもやがかった曇りの空だ。さっきまで魔物が押し寄せて来た光景と違うこともあり、気配を敏感に感じることは無かった。
ただならぬ気配を感じられるのはフィーサのスキルによるところのようだ。
「ウニャ? シーニャ、あんまり感じないのだ」
「気配を?」
「ウウニャ……怖くないのだ。何だかシーニャと気配が似てるのだ、ウニャ」
森の中で生きていたシーニャが敵の気配に感じないわけがない。しかしそうなると、可能性として考えられるのは魔物では無いということになる。
「アックさま! 火矢が降って来ますわ!!」
「火矢!? こんな森の中でか?」
「ひぃえぇぇぇぇ!? どうすればいいんですか~?」
「ルティ、落ち着けっ!」
気配は感じられなかったが、ミルシェの言葉どおり八方から大量の火矢が飛んでくる。
だが、そんな程度で怖がる必要は無い。ミルシェの防御魔法が効いていることもあり、火矢は見えない壁で弾かれまくりだからだ。ただ火矢となると、自分たちが良くても森に飛び火する恐れがある。
「あわわわわ!! アック様、森が焼けちゃいますよ~! ほらほら、火が……あれれ?」
「――む? 本物の火じゃないのか……?」
ルティの心配をよそに、防御壁で弾かれた火矢は木々に飛び火することなく消えた。これは一体どういうことなのか。
「キサマたち、人間か? 見せかけの火矢に臆するどころか全て弾くとは、何者だ!?」
姿は見えないが、木々に紛れて隠れているのか声だけが響いている。まさかの生き残りがいたのだろうか。
「おれは故郷であるイデアベルクに戻った人間だ! 何者か知りたければ、隠れるのをやめて出てきたらどうだ!」
おれの叫びの直後、木々の揺らぎに乗じた複数の声がざわつき始める。
そして、
「殺気を早々にかき消し、魔物を呼び寄せるのをやめろ! 今から姿を見せる。攻撃態勢に移ったら、今度は本物の火矢を浴びせるぞ!!」
女の声?
まさか本当に生き残りがいたのか?
本物の火矢でも問題は無いが、彼女たちを制し攻撃態勢を解くことにした。太い大木の陰から一人の女がゆっくりと歩いて来る。
その姿はどう見ても、
「我が名は誇り高きエルフ、サンフィア・エイシェンなるぞ! キサマがイデアベルクの生き残りだと言うのか?」
「エ、エルフ……!? 何故エルフがここにいるんだ」