戦争映画っていいよね‼︎
それでは本編へ‼︎
ーーーーーーーーーーーーーーー
破 第二十五話『誰かが必要としている。その殺しを』
「ladies and gentlemen
How long are you going to sip tea behind us?」
日本語訳『素晴らしき淑女と紳士達よ、いつまで私たちの後ろで紅茶を啜るつもりだ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
1914年 帝都・ロンドン とある館
イタ王「へへごめん。」
そういうイタ王の顔には反省の気色など乗っていなかった。 イギリスはため息をし、手でさっさと整列するよう促した。
イタ王「あっ!女の子だ〜‼︎チュチュ〜‼︎」
アイルランド「、、、。」
イタ王がアイルランドを見つけ投げキッスを始めると、アイルランドは眉をひそめ目の間に山のような形を作る程、嫌そうな顔した。
イタ王が整列してから間も無くして、点呼が始まった。入隊初日のように大きな声で、己の名をいう。心なしか全員の声がいつにも増して声が大きいように感じた。新人イタ王という存在がいるからだろうか?
全員の点呼が終わると、すぐ移動になった。
いつもの山岳地帯。彼らは山道を登っていくと、広い高原へ辿りついた。 短い草が生い茂る草原に的が設置されていた。____長距離射撃訓練。
生徒達が高鳴りと不安が込み上げてきたその時やっと実銃が支給された。
ボルト式の狙撃銃。
フランスは銃口から引き金にかけて銃を見渡した。ボルトがついた装填口に実包を入れあの的を撃ち抜く。授業で習った事が鮮明に蘇る。
イギリスは全員に渡し終えた後、これから実技としての狙撃訓練を始めると答えた。
大英「授業で叩き込んだと思うが、スコープ個々としての性能にも多少ズレがある。自分のスコープには慣れたか?」
入隊後すぐにスコープが支給された理由をフランス達は思い出した。
散々、訓練や実技授業でスコープの中を見てきた。
『100m先、肉眼では顔が見える。スコープを使うと目眉のT字が見える。しかしスコープ個々の性能もズレがあり、バラバラ。距離と見え方を叩き込め。』
そうイギリスが言っていたのを思い出す。
大丈夫、標準を合わせられる、距離を掴める。撃ち抜ける。そう胸に刻み彼らは一列に並ばされた。フランスがスコープを実銃に授業通り素早く取り付け、自分の目線に合わせる。スコープの中を覗くと景色が一変した。
初日、スコープが初めて渡された時、周りを見れば精々木々の大きさがわかるくらいだったのが今や、肉眼では見えない部分が見え、距離、空間、が手に取るように見える。事前に的が直径36cmと予告されなくてもおよその大きさが掴める。隣で構えているカナダは感嘆を漏らしていた。
間も無くして一発の単弾の実包が一人ずつ配られた。
横についたボルトを引き、実倉に親指で弾を込める。どこか授業通りに動かなければというほころびを感じながらボルトを戻す。再びスコープの中の世界へと入ってゆく。
約180m先、およそ直径36cmの的があり、その中心に図星が記されている。フランスは距離の誤差と空間を修正して照準を合わせた。
スコープのT字はしかと図星に揃っている。意識が銃口へと集中し、周りの音が全て消し去った。風の揺れる音や布が擦れる音が段々フェードアウトしていき、気絶に近い感覚へと絞り込まれる。フランスはゆっくりと息を吐き、引き金を絞った。
____発射。
撃った後、予想よりも少し大きい反動をくらい、ボルトを引いて薬莢するのに手こずった。早く自分が撃った弾はどうなったのか見たいと焦り、的の方を見た。弾は図星とまではいかないが端がゆち抜かれていた。 後ろからイギリスが双眼鏡で確かめて『命中』と淡白と告げた。
フランスは深く息を吐いた。直後、安堵と魂が体に染み込んだ。狙撃の時は限りなく無に近づくのだ。
その後も次々と生徒達は狙撃をした。だがその結果にフランスは驚いた。
イタ王、オーストラリア、アイルランド、フランス、カナダ、インド。といった感じで実力が分けられたのだ。オーストラリアは狩猟をやった事があると聞いていたから納得するが、初日にしてイタ王は175m先の図星の中心を撃ち抜いたのだ。本人はデレデレしていて、平然としているがかなりぶっ飛んでいるとフランスは思った。
それに比べてカナダ、アイルランド、フランスの実力差はそこまで無く、インドが何とかついてくるくらいだった。
それから射撃訓練は頻繁に行われた。
日に日に持つ銃は変わり、時に拳銃で60m向こうにある的にも当てられるように指示された。
時と状況により近接戦闘が行われる為、実包が入っていない拳術の所持は基本的に常時にするようにイギリスから発表があった。
そして射撃訓練が始まってからしばらく経つと、的の形が人型になった。
フランスは一瞬うっ、、、と躊躇ったがそれも数をこなす内にヘットショットを撃てるようになった。
それから数日後も射撃訓練は続いていった。ある日、いつもの射撃訓練場に3台ほどのトラックが止まっていたのをフランスは発見した。オーストラリアによると、オーストラリア大陸から来た農家が羊が数匹連れてきたそうだ。何となく勘づいた。 遂に命を奪う射撃もするのだと。
フランスは罪悪感と緊張の中に妙な興奮も交えながら、射撃を待った。周りを見渡すと、宗教が関係していてインドだけは不在な事に気がついた。
オーストラリア「すみません。あの羊達は撃つはうった後どうなりますか?」
大英「、、、すぐに調理場に運ばれて、食肉として解体する。」
オーストラリア「、、、わかりました。」
広い高原に鞭で叩かれた羊達は一斉に駆け巡った。
大英「オーストラリア‼︎撃て‼︎」
イギリスから命令が降ると、 現地民のオーストラリアは難なく、走り回る羊にヘットショットを喰らわせた。羊は鳴き声も上げることなく、その場に倒れ伏せた。
反響する銃声に羊達は驚いたのか、さっきよりも暴れ回って、標準が掴みにくい。
イギリスは間も無くして、フランスに撃てと命令した。
気候によっても射撃の距離は変わるし、周りには小山しかないので距離が掴みにくい。でも羊の個体差はそう変わらない、一番奥にいる羊と、手前にいる羊を利用して、距離を測る。撃つと決めた中間にいる羊に照準を合わし、一撃を放った。
動く羊にヘットショットを喰らわせることはできず、腹を打たれた羊は数十秒暴れ回って死んだ。撃ち終えた後、鼻を掠める血の匂いに命を奪ったという事実に気付かされる。ヘットショットを喰らわせられず、苦しみながら死んだ羊にフランスは心が痛んだ。
その後も、アイルランド、カナダは二、三発外しながらも羊を撃つ事に成功した。最後になったイタ王は狙撃銃を構えた。フランスは後ろに下がりながらイタ王の顔を覗き込んだ。イタ王はいつも走り込みも、授業も呑気に寝たり、だらしない性格だと思う。けれど実戦。特に射撃になると、別人のように姿が変わる。スコープの中を除き、落ち着いた顔が少し固まって笑いを抑えているようにも見えた。草原で生き残った二匹は仲間の死に戸惑っていて、四方八方に暴れ回っている。するとイギリスから発射命令が降った。
その命令から数秒経つ。 イタ王は中々打とうとしない。
迷っているのか、緊張しているのか、動物が撃てないのか、、、?そう考えていると、
イタ王が少しだけ口角を上げた気がした。
次の瞬間、イタ王が放った玉は羊の頭を撃ち抜き、後ろにいた羊にも被弾した。バタン、と倒れた音が遠く離れたこの場所でも聞こえた気がした。
____一石二鳥。
一発でイタ王は二匹を仕留めたのだ。その衝撃的な射撃により羊の足音もフランス達の言葉も失った。あたりは静寂に包まれ、ただ銃声がどこまでも反響していた。
イタ王は深呼吸をして薬莢を済ませた。
その後、自分達で撃ち殺した羊達を自らの手で解体して食肉にした。フランスは食のありがたみを感じながら、いや無理矢理にでも感じさせるように肉を切っていった。
すると横からオーストラリアから「大丈夫?」と声をかけられた。それで気がついた、無意識に包丁を握る自分の手が震えていた。何に怯えているのか、恐れているのか。
何の罪もない羊を腕を試すために撃ち殺した。そして捌いて食べる。意識が目の前にある冷たい感触がする肉片と化した生に引き込まれそうになる。息絶えた羊の声すらも聞こえるような。
フランスは声を震わせ、
フランス「、、、、、、だっ、、、大丈夫じゃない、、、かも。こんなの俺らは敵を殺すのであって、動物を殺すのは、、、、。」
オーストラリア「、、、、、、。フランスは、、、何の為に敵を撃つの?」
フランス「!、、、、、、人々を苦しみから救う為。」
最近わかった自分が戦う意味。それをそのまま本心で返した。
オーストラリア「、、、苦しみから救う為。撃つ。それは救いを求める“誰か”の為に敵を撃つ。それと同じ、肉を食べるということは“誰か”が殺して解体したから。(インドとかに悪いけど)肉が必要とされ、これは必要とされている殺しだ。」
フランス「、、、、、、!、、、うん。」
フランスは小さく頷いた。
日常的に必要とされている肉を撃つ”誰か“がいる。それならば必要とされている敵殺しも誰かが殺す。
誰かの為に、誰かが誰かを撃つ。
そう考えた時、フランスの中で何かが動いた。
誰かが自分に敵殺しを必要としている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
深夜。
イギリスは自室の机に広げられている地図に頭を悩ませていた。デスライトに照らされながらただひたすらと、次なる策略を脳みそを絞り出して考える。
教育訓練が順調に進む中、世界状況は変わり始めていたのだ。
11月血生臭い妙な暑さが残る時期。
東部前線では塹壕が英海峡まで迫ってきていた。英海軍は北海、バルト海に於いてドイツ艦隊と交戦。そしてイギリス軍とフランス軍は新たな戦線を作る事になる。
オスマン帝国が中央同盟国として参戦したのだ。これにより地中海がドイツなどの手に渡ってしまうと、イギリス領のスエズ運河も危機的な状況に陥る。もしオスマン帝国が黒海を封鎖しロシアに侵攻するとなると、東南部の戦線が中央同盟の有利な戦線になる。すぐさま協商同盟国はオスマン帝国に宣戦布告した。
更に良いことは続かない。財政難を抱えているイギリスは容易に戦争に投資できなくなってきている。
大英「まず、俺の降伏はありえない。、、、またドイツに毛皮を売る生活に逆戻りは避けたい。」
地理的立ち位置でも島国のイギリスは主に船で資材を補給している。制海権が奪われれば植民地との接続ができなくなり、財政難の悪化の恐れがある。
広大な土地を統治するのは困難なものだ。
大英「、、、やはり教育訓練は切り上げか。前線でマトモに出れる兵士が少な過ぎる、、、。」
イギリスは机に頭を打ちつけ、腹を括った。
「、、、よし、、、、最終試験と参ろうか。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日。
いつもお通り一列に並び、点呼が行われた。今回もすぐに走り込みか、体術訓練かと思っていると、どちらともないらしい。イギリスが再び、壇上に上がり話し始めた。
大英「、、、訓練は切り上げとなった。これからここに居る六人で、模擬戦をしてもらう。合格したら卒業だ。、、、今までよくやってこれたな。」
イギリスの口角が少しだけ上がったような気がした。フランスは記憶を探る辺り、始めてイギリスが褒めて事に驚きながらも、気を引き締めた。
ここで合格しなければ今までやってきた事が殆ど水の泡だ。
話が終わると、すぐにいつもの山へと向かった。使い慣れた、拳銃と狙撃銃を持って。
現場に着くと、二人一組で合計三チームで対戦する事になった。
チーム編成が発表さられると、フランスは妙な感じがした。
Aチーム:フランス、アイルランド
Bチーム:カナダ、インド
Cチーム:イタ王、オーストラリア
Cチームはオーストラリアが射撃以外の成績が低いことから、総合性のあるイタ王と組のはある意味、良いのかもしれない。自分達のAチームも総合力が高いことからあっているとして、気になるのはBチーム。カナダ、インドはこの小隊では成績が低い部類に属すると思っていた。
だからこの二人が組むことはあり得ないと思っていたのだ。
大英「、、、、この編成について不安か?」
フランス「‼︎、、、いや、、、、、」
大英「そうか、、、。」
そういうと、イギリスは一瞬靴元を見て、カナダの方を向いて言った。
大英「今まで“監視役”。ご苦労様。」
その場にいたフランス達は目を広げた。、、、どういう意味だ?カナダは何事もなかったように、口角を上げた。
カナダ「オッ、、、もういいのか?」
カナダのいつもの優しい穏やかな顔はどこへいったのだろう?と思うほどいつもと全く違う姿をあらわにした。フランスはカナダから再度、イギリスに顔を向けるが、下を向いていて答えてくれそうにない。後ろでカナダがフッと笑った声がした。
カナダ「僕は君達を監視していたんだよ。精鋭の暗殺者を作り上げるくらいのおかしな教育訓練だ。もし、反逆者がここでの学びで教官、、、愛する教官を殺されたらどうする?」
この教育訓練に集められた多くにものはイギリス植民地。少なからずアイツに恨みを持った人達。思えば、拳銃が常時所持ならば実包さえ入れれば、いつでも殺せる。仕込まれた暗殺技術で。
それをカナダはことごとく阻止したのか、いつもの優しい顔で殺意を緩和させていたのか。
更にはイギリスはカナダの溺愛心を逆手にとり、監視役に就かせた____。
前の授業で習った暗殺者の読み合い。フランスはこれが心理戦なんだとこの驚きでようやく理解した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
破 第二十五話『誰かが必要としている。その殺しを』 完
長くなりましたね。それではまた誰かが求める戦場で。
コメント
4件
確かにカナダの今までの行動とか発言を見直したら、国だからってのもあるかもしれないけど人の懐に入り込もうとしてる感じがする
「ハウルの動く城」から見て、第二章の『愛と憂』に移るの良すぎる。深淵を鮮烈に描き出していてとても素晴らしいです!