テラーノベル
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高等部5年生。体育祭。あの日、涼架に手を引かれてトラックを駆け抜けた二人が、ついに「借り人」を呼び寄せる側に立つ日がやってきました。
青空の下、全校生徒の視線が集まる中、まずは滉斗の出番です。
ピストルの音と共に猛然とダッシュした滉斗は、一瞬で紙を拾い上げました。お題を見た瞬間、彼の瞳に迷いは微塵もありませんでした。
観客席でもゴール地点でもなく、滉斗が向かったのは「次に走る選手たちが待機しているゾーン」。
「えっ、あっちに行くの?」
「まだ走ってない人を連れていくのか?」
ざわつく周囲を余所に、滉斗は二列後に控えていた元貴の前に立ちました。
「……行くぞ」
「えっ、ひろと? お題、何だったの……わわっ!?」
驚く元貴の言葉が終わる前に、滉斗はその細い体をひょいと持ち上げました。いわゆる「お姫様抱っこ」。悲鳴のような歓声がグラウンドに響き渡る中、滉斗は元貴を抱えたまま、一歩も速度を落とさずにゴールテープを切りました。
審判の先生が、少し圧倒されながらお題を確認します。
そこに書かれていたのは、【大切な人】の文字。
「……こいつ以外、いねーだろ」
涼しい顔で言い放ち、元貴をそっと降ろした滉斗。その耳が少しだけ赤いのは、彼なりの照れ隠しでした。
そのわずか数分後、今度は元貴がスタートラインに立ちます。滉斗の派手なパフォーマンスに顔を真っ赤にしながらも、元貴が拾い上げたお題は、彼の心そのものでした。
お題を見た元貴は、ふわりと微笑みます。
そして迷うことなく、「たった今走り終えた人たちが息を整えているゾーン」へと真っ直ぐに向かいました。
「ひろと……来て。僕と一緒に」
元貴は、まだ少し呼吸の荒い滉斗の手をぎゅっと握りしめました。
先ほどの豪快なお姫様抱っこと対照的に、指と指を絡める力強い「恋人繋ぎ」。二人は一歩一歩、確かな足取りで並んでゴールしました。
広げられたお題には、震えるような、けれど真っ直ぐな筆致でこう書かれていました。
【失いたくない人】
「……僕にとって、ひろとはそれだけなんだ」
元貴の言葉に、全校生徒から温かな拍手が送られました。もはや「夫婦」どころか、運命共同体のような二人の絆に、誰もが深く頷くしかありませんでした。
この様子を、ボランティアスタッフとして学園に来ていた涼架が、カメラを構えながら号泣して見守っていました。
「うわぁぁん! 最高のアンサーだよぉ! 僕が教えた(?)お姫様抱っこ、完璧だったよぉ……!!」
大学生になっても相変わらずな涼架の姿に、元貴と滉斗は顔を見合わせて笑い合いました。
「ひろと、あんなに抱っこしなくても良かったのに」
「……一番速く、確実に運べる方法だと思っただけだ」
「嘘だぁ。見せびらかしたかったんでしょ?」
「…………。……うるさい」
夕暮れの閉会式。二人の手は、退場門をくぐるまでずっと離されることはありませんでした。
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