テラーノベル
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リョナです。太宰がかわいそうです。私の性癖です。ドSちゅやさいこォオオオオ
窓のない、沈黙だけが支配する地下室。そこは中原中也が作り上げた、太宰治という怪物を「標本」にするための聖域だった。 両足を付け根から失った太宰は、今や中也の腕という「重力」なしでは、一寸の移動すらままならない。砂色のコートも、探偵社の名誉も、かつての傲慢な知性も、すべてはこの閉ざされた部屋の隅に捨て去られていた。
「……なぁ、太宰。お前、今日は一段と軽いな」
中也が、膝の上に太宰を乗せて、その細い背中を大きな手でなぞる。太宰は子供のように中也の首に腕を回し、その胸板に顔を埋めていた。脚を失い、逃げる術を物理的に断たれたことで、太宰の精神は驚くほど中也に依存し、その執着はもはや生理的な本能へと変質していた。
「……中也が、私を……甘やかすからだよ……」
掠れた、甘い声。太宰がそう言って、中也の首筋に鼻を寄せた、その時だった。
「――おっと」
中也が、不意に腕の力を抜いた。 さっきまで太宰を支えていた強固な重力の檻が、唐突に消失する。
「え、……っ、ちゅう、や……!?」
太宰は慌てて、細い腕を中也の肩に食い込ませようとした。だが、脚を失ったことで体幹を支える術を欠いた身体は、無慈悲にずり落ちていく。太宰は必死に中也のシャツを掴んだが、その細い指先は虚しく滑り、重力に従って床へと叩きつけられた。
――鈍い音。 「……あ、……ぁ、……っ」
冷たいタイルの上に、上半身だけの太宰が転がる。包帯で覆われた「かつて脚があった場所」が床に当たり、鈍い痛みが走る。太宰は混乱し、涙の浮かんだ瞳で中也を見上げた。中也は助けようともせず、ただ床に転がった太宰を、壊れたお気に入りの玩具を慈しむような、酷く穏やかな目で見下ろしていた。
「……はは、無様だな。お前、本当に俺がいねぇと何もできねぇんだな」
中也はそう吐き捨てると、ゆっくりと数メートル離れた場所へ歩いていく。太宰からすれば、それは果てしない距離に見えた。
「中也……中也、行かないで! 置いていかないで、お願い……っ!!」
太宰は泣き叫び、床に爪を立てた。 前へ。中也のいる場所へ。 太宰は細い腕を必死に動かし、重い胴体を床に擦り付けながら這い進む。ずり、ずり、と皮膚がタイルと摩擦する音が、静かな部屋に無気味に響く。 涙で視界がぐちゃぐちゃになりながらも、太宰はただひたすらに、自分を捨てた「唯一の重力」を追いかけた。
ようやく、あと数センチ。 中也の黒い靴の先に、太宰の震える指先が触れようとした、その瞬間――。
「……おっと、まだ遠いぜ」
中也は無情にも、再び数歩、後ろへ下がった。 太宰の指先が、虚空を掴む。
「……ぁ、……っ、あ……!!」
繰り返される絶望。太宰は再び這い出す。腕はすでに限界を迎え、震えが止まらない。 中也はそれを数回繰り返した。太宰が届きそうになるたびに、残酷なほど軽やかな足取りで、その希望を奪い去る。
ついに、太宰の肺が悲鳴を上げた。 「はっ、……ひ、……ぁ、……っ!! はぁ、……っ!!」
過呼吸。酸素を求めて喉が引き攣り、言葉にならない喘鳴が漏れる。太宰の顔は涙と鼻水、そして恐怖に歪み、かつての美貌は見る影もなく崩れていた。視界は白濁し、心臓が爆発しそうなほどの動悸が襲う。それでも、太宰は止まらなかった。
死ぬ。中也に触れられなければ、私は今ここで、酸欠の魚のように死んでしまう。 太宰は過呼吸でガタガタと全身を痙攣させながら、血の滲む爪を床に立てて、這いずり続けた。
「ひ、……ぅ、……あ、……ちゅ……や……ぁ……!!」
必死の、命懸けの「前進」。 ついに、太宰の指先が、中也の足首に触れた。 今度は中也は逃げなかった。
「……よく頑張ったな、太宰」
中也の声が、天上から降り注ぐ福音のように聞こえた。 中也は跪き、顔をぐちゃぐちゃにして喘ぐ太宰を、一気に抱き上げた。
「――っ、……は、……ぁ……!!」
中也の腕が、太宰の背中と腰に回る。 その瞬間、太宰は激しく中也の服を掴み、その胸に狂ったように顔を押し付けた。失われていた酸素が、中也の体温と共に流れ込んでくる。
「……ごめん……なさい、……もう、……離さないで……どこにも、……行かないで……っ、……っ!!」
太宰は中也の首筋に歯を立てるようにして縋り付き、過呼吸の余韻で震えながら、嗚咽を漏らし続けた。 中也は太宰をあやすように、優しく、けれど絶対に逃げられない力強さで抱きしめ直す。
「分かったよ。……お前がこうして俺を追いかけてくる限り、俺がこの腕を離すことはねぇ。……お前は俺の重力の中で、一生溺れてろ」
中也の腕の中で、太宰はようやく「生」を実感した。 自ら脚を断たれ、自ら這いずり、自ら選んだ地獄。 太宰は満足げに、自分を支配する男の腕の中で、安らかな、毒のようなまどろみへと沈んでいった。
コメント
3件
初コメかな?失礼!ドS中也、、、、いい。