テラーノベル
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制服の袖をまくる生徒も増えて、夏がすぐ近くまで来ていることを知らせる。
俺の足の怪我はすっかりと良くなっていた。
窓の隙間から爽やかな風が吹き抜け、心地良い。
だが、そんな爽やかさとは裏腹に廊下の空気はどんよりとしていた。
廊下に集まった生徒が見ているのは張り出されたテスト範囲。
もうすぐ期末テストだ。
俺も掲示板の所へ行く。人混みの後ろから背伸びして体を左右に動かし、何とか確認しようとする。
すると、誰かと肩がぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい………。」
「いやこっちこそ、、って吉田くん?」
「佐野くん!」
思いがけず佐野くんに出会い、ぱっと心が明るくなる。
「もうすぐ期末テストだね。吉田くんは勉強得意?」
「まあ苦手ではないかなって感じ。ある程度勉強して、そこそこの点取れればいいかなって思ってる 笑」
「くすっ…俺と同じだ。」
そんな風に佐野くんと談笑していると、みんながざわつき始める。
何があったのかと周りを見ると、テスト範囲を確認し終わった生徒達が渋い顔をしていた。
佐野くんと目を合わせて、急いで一緒に貼り紙を見に行く。
そこには、想像を超えるテスト範囲が張り出されていた。
思わず二人とも言葉を失い、お互いの顔を見合う。
「吉田くん…………、これマズくない?」
「うん……。適当にとか言ってる場合じゃないかも……どうしよう、、。」
「俺もしっかり勉強しないとヤバい気がしてきた。」
「いやそうだよね!?俺頑張れるかなぁ……。」
「…………あの、さ。吉田くんさえ良ければ、一緒に期末テストまで勉強する?」
佐野くんからの突然のお誘いに少し目が泳ぐ。期末テストまで後10日。
その間ずっと佐野くんと勉強。
つまり佐野くんに沢山会える。
その事を想像すると、なんだか胸が高なった。
「っうん!佐野くんさえ良ければ……。1人じゃ心折れそうだし…。」
「よし。じゃあ決定。今日から放課後、図書室で勉強会ね?」
「分かった。一緒に頑張ろうね。」
「おうよ。」
勉強なんて、別に好きではないのに。何でこんなに楽しみで仕方ないんだろう。
佐野くんと解散した後、授業中も休み時間も早く放課後にならないかなと何度も心の中で呟いた。
そして、最後の号令がかかりクラスメイト達が教室から次々と出ていく。
俺も図書室へと急いだ。
図書室の扉を静かに開けると、そこにはもう佐野くんの姿が。
「佐野くんごめん、待った?」
佐野くんの隣に座り、荷物を置きながら話しかける。
「ううん。さっき来たとこ。」
「そっか、良かった。」
「そういえば吉田くんさ、このプリントって貰った?」
そう言って佐野くんが広げたのは、歴史のプリント。
「あ、うん。貰ったよ。なんか噂だと、ここから結構出るらしいね。」
「俺もそれ聞いた!割と重要そうだし、これからやっちゃう?」
「いいと思う。それじゃ、始めよっか。」
筆箱からシャーペンを取り出し、プリントの氏名欄に名前を記入する。
名前を書き終わり、問題に入ろうとしたところで視線を感じた。
「……ん?どうしたの佐野くん。俺のプリントばっか見て。」
「いや、吉田くんの名前って特徴的だよなぁと思って。」
「あー、まあ確かにそうかも。あんまり同じ名前の人会ったことない。」
『仁』に『人』で『じんと』。
思いやりのある人になりなさい、という気持ちを込めて付けてくれたそうだ。
「漢字もかっこいいし、響きもなんか良い。俺、かなり好き。」
「ありがとう。俺も気に入ってるんだよね。」
「そうだ。嫌じゃなかったらさ、これから吉田くんのこと名前で呼んでもいい?」
「ぅえっ!?/////」
「苗字呼びって少し距離感あるなって思ってたんだよね。……ダメ、かな?」
少し距離を詰められて胸が妙に落ち着かない。
俺、なんでこんなに動揺しているんだろう。
呼び方が変わるだけ。別に、特別な意味なんてないはずなのに。
顔が熱くなるのを誤魔化すように、俺は視線を落とす。
戸惑ってはいる。それでも嫌ではない。
「い……いい、よ?////」
「やった。それじゃ、これから名前で呼ぶね?仁人。」
「は、えっ…え!?呼び捨て!?」
「ダメだった?」
これ佐野くん、俺が断れないの気付いてるのにわざと聞いてきてるな。
からかわれているはずなのに、不思議と嫌な気分はしない。
むしろこの時間が楽しいなんて。
「ダメじゃない……///」
「やったね。よし、じゃあ仁人。俺のことも名前で呼んでみて?」
「は!?お、俺も!?」
「そう。仁人だけ苗字呼びなんてズルいじゃん。」
呼び方にズルいも何も無いだろと思ったが、少しずつ距離を詰めてきて、全く逃げ場がない。
「ほら、呼んでみて。」
「っ……////」
たった三文字なのに、声を発するのを躊躇してしまう。
なんで名前を呼ぶだけで、こんなに恥ずかしいんだ……。
「ぁ…は、はや、と…………くん?///」
「くんなんて付けなくていいよ。」
「は!?無理無理!そんな急に呼び捨てとか俺にはハードル高すぎ……。」
「もー、分かったから笑 じゃあこれからは『勇斗くん』って呼んでね?仁人。」
ニコッと笑った勇斗くんの笑顔がまるで太陽みたいで、目が眩む。
「分かった、呼ぶから……ほら!勉強する!手を動かす!何のために集まったの俺ら?」
「ふふっ……はーい。」
俺はぎこちなくペンを持ち直して、プリントに向き合う。
勇斗くんも問題に目を通し始めた。
ダメだ……。全然集中できない。
勇斗くんに気付かれないよう、横目で勇斗くんの横顔を見る。
勇斗くんって本当に顔整ってるよなぁ。
それにいつも優しくて。ちょっかい出して来ることもあるけど、それも彼のコミュニケーションの1つなんだろう。
勇斗くん、いっぱい友達いるもんね。
今回の勉強会には、たまたま俺の事誘ってくれたけど、いくらでも誘う人いるんだろうな。
俺以外の人にも、こんな優しいんだろうか。こんな風にからかったりするんだろうか。
それって……なんか凄く嫌だ…。
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