※すいません、急展開&今回長めになってしまいました!
智Side
「おいっ!祐希っ、」
「あっ、智君おはよう!」
「おはよーじゃねぇよ、ちょっと来て‥」
更衣室に入ってきた祐希の元に近寄り話をしようとするが、ここは場が悪い。
向こうで藍もこちらを伺ってるし‥。
仕方ない。祐希の腕を掴みながら、更衣室からはやや遠い自販機の所まで誘導する。利用する人が少ないその場所は人目を避けるのにうってつけだった。
ここなら良いだろう。藍もついてきてはいないようだし‥。
「智君、どうしたの?」
「いや‥さっきさ‥藍から話しかけられたんだよ。昨日の事。俺と祐希が会って何してたのかって?」
「へー、藍が?‥それで?智君なんて言ったの?」
「急に聞かれたから‥お前ん家泊まったって言っちゃった‥」
「智君大胆!笑」
「いやっ、本当はお前が言うように”部屋に遊びに行った”って言うつもりだったんだけど、咄嗟に聞かれたから。もう言い直すのも手遅れかと思って‥」
「まぁ、いいよ。大丈夫。それで?藍はどんな反応してた?」
「俺が泊まったなんて言ったから、すげー泣きそうな顔してたよ‥」
「そっか‥」
そう‥慌てたように話す俺の言葉を聞きながら‥藍の瞳は潤んでいた。思い出すだけでも胸が痛む。
「なぁ、やっぱり嘘つくのやめようぜ。お前の提案に乗ってしまったけど、あんなに藍が傷付くの見てらんねぇし‥昨日は泊まるどころか家にも行ってないのに‥」
「いまさらやめるわけにはいかないよ、智君もそれを承知で手伝ってくれてるんじゃないの?」
「藍に嫉妬させて気持ちを向かせたいってことだろ?でもあの反応見てたら、もう十分お前の事好きだと思うけど。意味なくね?」
「いや‥俺はもっと藍の気持ちが欲しい。それには藍の気持ちを俺で埋め尽くさないといけない。もっともっと‥アイツの心の中を満たしたい。俺だけで。」
「すげー独占欲‥いや、執着がもう‥お前ってそんなんだったっけ?」
「‥今までの自分はドライだと思ってたかな。割り切れる部分も多かったし。でも、藍に対しては違う。独り占めしたいって思ったのは藍が初めてだよ。誰にも渡したくない‥」
だから、藍も同じようになればいいと‥祐希は微笑みながら呟いていた‥
俺のところまで堕ちてくるようにと‥
屈託なく笑う顔は以前と変わらないはずなのに、
真相を知った今となってはやや恐怖に近いものを感じる。
愛と狂気は紙一重なのかもしれない。
藍は耐えられるだろうか‥
だが、そう心配する気持ちと同時に、
羨望する気持ちも少なからず芽生え始める。
こんなに激しく愛されるのはどんな感じなのだろうか‥
自分だけを求められるというのは‥
俺の恋人‥小川は、実に飄々としていて何を考えているのか分かりにくい。それでも、二人っきりになれば甘えてくるし。愛情は確かに感じる。
だが、祐希のような激情を感じる事はない。
あくまでも穏やかでふわりと包みこまれるような居心地の良い存在なのだと思う。
でも、それでいいと思っていた。
そんな関係が一番なんだと‥。
だが、祐希と藍を見てふと思う。
俺もあんな風に愛されてみたいんだと‥
荒々しい感情に揺さぶられてみたい。
そんな思いが ふと、
心の中をよぎる‥が‥
見ないふりをする。
気づかないふりをする。
あってはならないことだから。
気付いてしまったら‥元には戻れなくなってしまうだろう。
今までの4人には‥
「それじゃあ、智君、戻ろうか?」
「えっ、あっ‥‥‥‥‥‥いやっ、待って、祐希!」
踵を返し戻ろうとする祐希を‥何故か引き止めてしまう。
「ん?どうしたの?」
「いや‥あのさ‥また‥なんかあったら俺に言えよ。俺‥お前のためなら力になるから‥」
「くすっ、嘘はやめようって言ってなかったっけ?笑。でも、ありがとう、智君。」
アーモンドアイを不思議そうに大きく見開き、くすくすっと祐希が笑う。
それだけで‥
心臓の鼓動がやけにうるさいことに気付く。
俺はおかしくなってしまったんだろうか‥
足早に戻っていく祐希の背中を見ながら、
もう少し一緒に居たかったと思うなんて‥
どうかしている‥
藍Side
「藍?昨日は寝れたか?大丈夫?」
ウォーミングアップをしていると、太志さんがひょこっと俺の顔を覗き込み、ふふふ‥と笑う。が、心配そうな瞳は隠しきれていない。
大丈夫ですと笑い返すと、やはり話題は祐希さんについてだ。
「祐希か智君には聞いたの?昨日の事‥。聞きにくかったら俺から聞こうか?」
「えっ‥あっ、あのう、祐希さんとはまだ話してないんすけど‥智さんとは更衣室で喋りましたよ」
「そか。それで?智君なんて?」
‥一瞬、言葉に詰まる。智さんが祐希さんの家に泊まっていた事を‥
言うべきか。
それとも‥‥‥。
「藍?」
「あっ、すんません。いや、智さんに聞いたんやけど、どっかで飯食ってそのまま帰ったらしくて‥俺が心配する様な事は何一つなかったみたいで‥取り越し苦労でしたっ」
「ほらなっ、あの2人だから大丈夫だって言ったろ?良かったな、藍」
‥言えなかった。これ以上心配かけまいと思う気持ちと、まだ信じられない気持ちが拭えなかったからなのか‥
感情はぐちゃぐちゃだった。だが、そんな俺に心底ホッとした表情で微笑む太志さんにはどうしても伝えられなかった。
今打ち明けてしまえば‥きっと感情がコントロール出来なくなる。
話を聞いて安心したのか‥その場から離れる太志さんの後ろを眺めていると、ふと‥ある2人に視線が奪われる。
横に並びストレッチをしている祐希さんと智さん。
今日も祐希さんとは話していない。
祐希さんからも絡んでくることはなく‥その日の練習は終了した‥
「お疲れっす!」
練習後、誰よりも早く更衣室に滑り込み身支度を済ませた俺は祐希さんを待つことにした。話の出来ていない状態は苦痛でしかなく。やはり、ちゃんと向き合って話したいと思う。祐希さんの本当の気持ちも確かめなければ。
後からゾロゾロと更衣室にやってくる人達がいるが、祐希さんの姿はない。
打ち合わせでもしているのだろうか‥
もうほとんどが帰宅したと思われる時刻。ガチャッと更衣室にやってきたのは‥
「あれ?藍?まだ残ってたの?」
「あっ‥お疲れっす‥」
智さんだった。朝の事もあり気まずい雰囲気が漂う。
「お疲れ。帰らないの?」
「いや‥その‥祐希さん待ってるから」
「祐希?ああ‥さっきコーチと話してたよ‥長くなるから今日は帰ったほうがいいんじゃない?約束とかしてないんだろ?」
「してない‥でも、待ってる。どうしても話したいから‥」
「へー‥約束もしてないのに、何の話をすんの?」
少し尖った口調。
なんだろう‥。朝と違って智さんの態度が違う気がする。
俺の気のせいだろうか。
「‥言わへん。智さんには内緒や‥」
思わず口走った言葉に‥すぐに後悔の念が押し寄せる。が‥もう手遅れのようだ。
「ふーん、そっかぁ。朝の仕返しってところかな‥そんなに嫌だった?秘密って言われたの?」
智さんの口調が段々と冷たいものになっていく。
それにつられるように俺の言葉も荒さを増す。
「‥そりゃ、嫌にもなるやろ、秘密って。智さん、俺と祐希さん付き合ってるの知ってるくせに。‥祐希さんが昨日から俺と話してくれんのは、智さんのせいやないの?」
半分、本音で‥半分、八つ当たりだった。
「付き合ってるのは知ってるけど‥だからって全部知りたいっていうのは藍のエゴじゃない?」
「なっ‥」
「それに、祐希が話してくれないのを俺のせいにされてもね‥案外愛されてないんじゃね?」
「!!そんなこと‥なんで智さんに言われなアカンの!?」
先輩という事も忘れ‥つい頭に血が上りカッとなってしまう。
「そんな怒る?図星なんだろ?」
「もうええ!智さんがそんな言う人やって思わんかった!この事は‥」
「なに?祐希に言うつもりなの?それとも小川?
どちらにしても祐希には言うよな‥いつもの手で泣きついて俺が悪いと思わせるんだろ?」
「智さん‥自分が何言ってるかわかってるん?」
「分かってるよ‥少なくとも今、頭に血が上ってるお前よりかは‥ねぇ、藍?」
「‥なんすか?」
「自分だけがさ、祐希に愛されてると思ってない?」
「なんそれ‥そんなん‥」
「当たり前だと思ってるだろ、恋人なんだから当然だと‥」
話している内にジリジリと詰め寄られ‥いつの間にか隅の方まで押しやられてしまう。
智さんの圧力に気圧される。
が、負けるわけにはいかない。
「そっ、そうや、俺が恋人なんやから‥」
「その恋人放っておいて昨日祐希といたのは誰?俺だよね?だとしたら、俺も愛されてるって事じゃね?
ねぇ、藍?」
そこで言葉を区切ると‥智さんが俺を見つめながらアルカイックな笑みを浮かべる。そして‥
「昨夜の祐希は激しかったよ‥」
そう呟き、俺の耳元で一言二言囁くと‥肩をポンと叩き更衣室を去って行ってしまった。
茫然自失となった俺を置いて‥。
コメント
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いやもう毎回毎回最高です😫👍 続きが気になるところで終わるのも最高過ぎます♡
コメント失礼します😊 智さんも祐希さんもだいぶやばい感じになっていて展開が凄いことになっていますね、藍くんはこれからどうしていくのか気になってしまいますね♪ 今回のお話も凄かったです😊これからも頑張ってください👍 応援してます📣