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めちゃくちゃに甘やかして、可愛がりたかった。


元カノに嫉妬して泣くとか……可愛すぎだろ。


何度も抱いているのに、相変わらず声を恥ずかしがる表情にそそられる。恥ずかしいなんて考えられなくなるくらい、感じさせたい。俺が与える快楽以外を感じられなくなるくらい、溺れさせたい。

「馨……」

閉じていた瞼がゆっくりと開く。潤んだ瞳が俺を映す。

より奥深くの蜜を求めてゆっくりと進むと、また瞼が閉じた。目尻に涙が溢れる。

「あ……」

涙を唇で拭う。俺の肩にしがみつく馨の手が微かに震えていた。

「痛いか……?」

馨が首を振る。

「気持ちいい?」

小さく頷く。

酔った馨は大胆で激しくて興奮したが、しらふで恥じらう姿もまた興奮する。


どんな馨でも可愛いってことか。


「馨……?」

最奥で留まり、馨を呼ぶ。また、ゆっくりと瞼が開く。

「後ろから、させて」

「え?」

「痛かったらすぐやめるから」

馨は目をパチパチさせた。

酔ってしたセックスを憶えていないのだから、この会話も憶えていないのだろう。

一度、馨の膣内なかから出て、彼女の腰を掴んで回転させる。

「え? やだっ!」

慌てて起き上がろうとする馨の腰を両手でしっかりと掴む。

「元彼は痛くても、俺は気持ちいかもしれないだろ?」

セックスの最中に他の男のことを口にするなんてあり得ないけれど、そう言えば馨が受け入れると思った。

「けど——」

「ゆっくりするから」

四つん這いになった馨と、膝で立つ俺の高さはちょうど良く、スムーズに挿入《はい》った。

「んっ——」

正常位とは違う向きで締め付けられ、思わず声を漏らしてしまった。

ゆっくりと奥へ進む。

「あっ……」

「痛いか?」

馨が首を振る。

癖のある髪が宙を舞う。

指を絡ませたい、と思った。


馨の感じている顔が見たい。

けれど、このまま真っ白い背中を眺めていたい。


自分がどうしたいのかわからない。

ただ、この快感を手放せない。

無意識に速度を上げて腰を振り、指の痕が残るほど強く彼女の腰を掴んでいた。


キスしたい。

揺れる胸が見たい。

けれど、このまま昇りつめたい。


右手を腰から臍に滑らせて、ぷっくりと勃ち上がった膨らみを撫でる。

「やっ——!」

言葉とは裏腹に、身体は正直。喰いちぎる勢いで俺を締め付ける。

気持ちいいなんてもんじゃない。

「あっ……。ああ……」

馨の反応が変わった。

後ろから突かれながら、膨らみを弄られるのが気に入ったよう。俺のリズムに合わせて、馨も腰を振る。

「ひゃ——!」

ぱんっぱんっ、と身体がぶつかる乾いた音と、溢れる雫が掻き混ぜられる水音が響く。馨の手はシーツをきつく握り、甲に筋が浮き出ていた。

「や……。やぁ……」

親指と人差し指で膨らみを摘まむと、馨の身体がビクンっと跳ねた。膣内《なか》が収縮して、俺を離そうとしない。


ヤバ——!!


もう少し耐えられると思っていたが、想像以上の締め付けに、俺は馨の背中に倒れ込むようにして果てた。

二人の浅く早い呼吸が寝室に響く。

ガクンッと馨が腕を折り、顔を枕に押し付けた。

「大丈夫か?」

背中に口づけ、脚の間の指を軽く動かすと、また身体が跳ねた。

「ダ……メ——」

腰を掴んでいた左手を伸ばし、硬いままの乳首に触れる。もう一度、身体が跳ねた。

「ホントに……ダメ!」

俺の手から逃げようとする馨を抱き締める。

「痛くなかったか?」

頭が軽く下がる。

「じゃあ、良かった?」

少しの間を置いて、再び頭が下がる。

「そっか……」

嬉しかった。

大人気なく、元カレに勝ったような満足感。

「雄大……さんは……?」

「最高」と言って、汗ばむうなじにキスをする。

「……バカ……」

「月曜じゃなきゃ、もう一回すんだけどなぁ」

「月曜です」

「わかってるよ」

仕方なしに温かな膣内なかに別れを告げる。

「一緒にシャワー浴びようぜ?」

「やだ」と、即答。

「なんで」

「シャワーくらい一人で——」

拒絶の言葉を、唇で塞ぐ。

「全身洗ってやるよ」

「やだ!」

「ほら、冷える前に——」

「うざい!!」

ズドンッ! と、十メートル上から落ちてきた看板が頭を直撃したような衝撃。

「——って言いますよ?」

「もう、言ってんじゃねーか」

「入ってきたら、本気で言います」

素肌に上着だけを着て、俺に脱がされた下着を抱えて、馨は寝室を出て行った。

「シャワーぐらい、いいだろ」

俺は呟いて、下着だけを身に付けて寝室を出た。

冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを出し、グラスに注ぐ。

火照った身体が、喉からじわじわと冷めていく。

ヴーヴーっとスマホのバイブ音が聞こえて、その出どころを探した。リビングのテーブルに置かれた、馨のスマホ。

覗くつもりはなかった。ロックが掛かっているだろうし、さすがにそこまで独占欲の塊じゃない。

ただ、着信なら知らせようと思っただけだ。

ボタンを押すと、ポップアップでメッセージの受信だとわかった。

『昊輝

金曜の夜、会えないか?』


昊輝……?


直感で、『昊輝』が財布の元彼だとわかった。

『馨は恋人の高津さんと結婚するつもりでした』

平内の言葉を思い出す。


今でも連絡を取ってるのか——。


馨のスマホを、バスルームに放り込んでやりたい衝動を抑え、寝室に戻った。

自分のスマホを手に取り、アドレス帳を開く。

五十音順に並ぶ名前をスクロールしていくと、最初に出てきた元カノは玲。その後も何人か置きに元カノの名前が登場する。

自慢じゃないが円満な別れ方をしてきた。だから、ごくたまに連絡が来て、飲みに行ったりする女もいる。一夜限りと納得済みでセックスすることもあった。


馨を責められないよな。


思ってもないことを、思ってみる。


仕事とはいえ、玲とはこれからも顔を合わすんだし。


自分に言い聞かせる。


馨は浮気するような女じゃない。


元カノのアドレスを、一件ずつ消去していく。


けど——。


金曜の夜、別れ際に玲にキスされたことを思い出した。酔ってのことだろうが、不意を突かれた。

同じように馨が元彼にキスされないとは限らない。

馨が俺じゃない男とキスをする姿を想像し、スマホを持つ手に力がこもる。

ふっとスマホから視線を逸らした先に、馨がくれたネクタイの箱。

スマホをサイドテーブルに置き、箱を手に取った。ネクタイを取り出す。

馨が俺を縛ったネクタイとよく似ている。

あれが玲からのプレゼントだと知ったのは、これを買う前だろうか、後だろうか。知っていたら似たようなものは選ばないだろう。

『他の女から貰ったのなんてしないで』

そう言って涙ぐむ馨の姿が脳裏に浮かぶ。

クローゼットの扉を開け、電気を点ける。ハンガーに掛けられたネクタイを力任せに引っ張り、床に落とした。冠婚葬祭用のネクタイは残した。

床の十数本のネクタイを丸めて抱え、寝室のごみ箱に入れようとして、やめた。ベッドの上にネクタイを広げる。


まずい……。


共犯者〜報酬はお前〜

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