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「…で、あいつマジ下手じゃね。ほんまうぜーや。チームの邪魔だってんの。」
「それな。こないだなんてあきらかなチャンスボールとき焦ってめっちゃ空振ってたで」
「え、まじ?やべーなあいつ。」
「真似するからみて?こう足バタバタさせてー、えい!って」
「アハハ!似てる似てる(笑)きめー」
「はよ辞めろよな、あのクソ陰キャ」
扉の向こうから、他人を卑下することでしか優越感を浸れず、共感を得られない低能共の会話が聞こえてくる。話にでてくる陰キャは十中八九、俺だろう。部活のメンツと仲良くなろうとしなかったのは悪かったが、そこまでいうことでもあるまい。陽キャどものくだらない雑談が一区切りしたところで扉を開ける。この校舎はずいぶん古くもちろん建付けも悪いから開けるのに時間がかかる。
「ほんでほんで…」
しまった。しゃべりはじめてしまった。早くはいらないと。
「あいつがさ、み、あ」
俺の姿をみたとたん言葉を詰まらせた。
「お、おう。もう来たのか。はは。」
苗字すら覚えてもらえていないのか。まあしゃあないか。あきらかな動揺とどこか蔑む様な目。それだけで俺の悪口をいっていた証拠は十分だというのに、おれにはそれを確信させる力がある。
「黒か」
「あ?なんかいったか?」
「いえ、なにも」
陽キャ三人衆のこころは真っ黒。これはうそをついているときの色だ。この色のせいで、いやでも推測が確信に変わる。
「本当かい?」
「はい。本気です。やめます。」
「そうか、君が決めたことなら仕方がない。これからもがんばってくれ」
「はい、ありがとうございます。失礼します。」
部活をやめた。いてもどうしようもないし。これでいいんだ。いいんだ。
アニメやゲームなどのフィクションの世界では特殊能力を持つものが多くいる。そんなキャラクターをみて、自分も特別な力がほしいと思うものも多くいるだろう。でも現実はそんな甘くない。俺にも特別な力が宿っている。それは、見た人の心の色がわかるというものだ。目に入った人間の心臓あたりの部分にぼんやりと色が浮かび上がっている。この力が発現したのは、中学生のころ。何の前触れもなく、突然見えるようになった。初めはどの色がどんな感情を表しているのかわからなかったが、人々の行動を見ていくうちになんとなくわかるようになった。赤は怒り、青は悲しみといったようによくある感情表現の色が多い。色の濃さや揺らぎ方、濁り方なんかでも、細かく違ってくる。こんな力でもほしいなんておもうやつもいるかもしれない。いるんだったらさっさと明け渡したいところだが。
キーンコーンカーンコーン
ホームルームの時間。朝の憂鬱な感じが教室全体に漂っている。高校生になって2ヶ月、友達0の最悪のスタートを切った。きっと俺はこのまま3年間を流れ星のように一瞬で終えるのだろう。何もなく昨日と同じ今日を。
先生が教壇に立つ。今日はヤケに笑顔だ。何か良いことでもあったのだろうか。
「はい。今日のホームルームを始める前に1つお知らせがあります。」
少し辺りがざわつき始める。
「このクラスに、転校生が来ることになりました。」
ざわつきが歓声に変わる。まるで動物園のように騒がしい。
「先生ー!女の子っすかー!?」
「みんなちょっと待って。今から紹介するから。ほら入って。」
扉から入ってきたのは、可愛らしい女の子。女子も男子も歓声が最高潮に達する。みんなが彼女に見惚れる。ただし、俺だけがみんなと違った。それもそのはず。だって、彼女は、
「心が、ない?」
今思えばこの日が全てのはじまりだった。
止まっていたはずの時計の針が今、動き出した。