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「いるまぁ……」
「うぉ、何」
時刻は午後2時を回ったところ。
突然リビングのドアが開いたかと思うと、ふらふらした足取りのらんがこちらへ歩いて来て、ソファでスマホを見ていた俺にそのまま抱きつく。
「…なに?」
「作業終わった……」
「…おう。お疲れ様」
内心、なんだそれだけかよ、と呆れつつも労いの言葉をかけてやる。
余程のタスクをこなしてきたのか、俺の腕の中にいるらんは少し目を離しているうちに寝そうだ。
ぽやぽやしてんな〜となんとなく抱き着かれた流れで背中をトントンしてると、不意にらんがぼすっと俺の胸に顔を埋めた。
「うおっ、なんだよ」
「…ねぇいるま、今日どっか行った?」
「……服屋とかちょっと」
「ねぇ女性の店員さんと話した?この匂い何?誰の?女だよね?女の香水?いや、男?触られた?何?なんでこんな他人の匂いつけてんの?いるま?ねえいるま?」
「あー…はいはいわかったから落ち着け。
これ多分あれだ。試着した時の匂い。」
「試着…」
「そ。たまたま探してるサイズ1個しかなくて、別の奴が試着した直後に俺が着たからだろ。結局その服買ってねぇし、触られたとかでもなんでもない」
「…そっか。良かった。」
俺の言葉に安心したのか、やがてらんは規則正しい寝息を立て始めた。
俺はらんにバレないよう、というか寝ているはずだからバレていないだろう、と口元に手を当ててから、背中をもう一度トントンし始めた。
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「…よし」
作業を一段落つけて伸びをする。
朝から部屋にこもりっぱなしでタスクをやり続けていた俺は、少し心配になってリビングへと赴く。
案の定そこにはいるまが居て、スマホをじっと見つめている。
何をそんなに真剣に調べているのかと気づかれない程度に背後から覗くと、検索窓には“彼氏 浮気 見つけ方”の文字。
俺は小さくため息をついてわざとらしく音を立てながらリビングのドアを開け、いるまのもとへ向かう。
突然抱きつかれた彼の顔は少し怪訝そうで、でもどこか嬉しそうで。
なんとなく顔を埋めた俺は、その服からいるまとはちがう匂いがすることに気づく。……しかも結構強めに。
…こんな分かりやすいことしなくていいのに。
「ねぇ女性の店員さんと話した?この匂い何?誰の?女だよね?女の香水?いや、男?触られた?何?なんでこんな他人の匂いつけてんの?いるま?ねえいるま?」
「あー…はいはいわかったから落ち着け」
呆れたようにそう言ういるまの顔を盗み見る。
…わー嬉しそ。やった、気づいてくれた…って顔してる。
いつもと違う香水多めにつけて、本当に自分の事が好きならいつもと別の匂いだと気づくよね?って確かめたかったのかな。
今日ずっと構ってやれなかったし不安にさせちゃったのかな。
でも…“もし気づかれなかったら”って不安だったからキツめにつけてんのかな、わかりやすいように。
大丈夫だよ、ちゃんと気づくから。安心して。ちゃんといるましか見てないから。いるまが好きだから。
…っていつも言ってるはずなんだけど。
ちゃんと確かめないと安心できないからな〜…いるまは。俺がメンヘラを演じて、いるまが仕掛けてくる作戦を全部見抜いてあげないと。
俺は寝たフリをしているまに身を委ねる。
しばらく背中をとんとんする手が止んでいる。すると図上から「…よかった、すき…」という小さな声が降ってきた。
そして再び、口元を塞いでいたであろう手は俺の背中へ戻ってくる。
自分が本当に愛されてるか確かめないと安心できないなんて、
ほんと、メンヘラはどっちだよ。
…まぁ、いるまがこんなに俺に依存してヘラっちゃうくらいにまで調教したのは、
俺だけど。
コメント
2件
初コメ失礼します! この共依存(?)感好きすぎます😭✨️ フォロー失礼します🙇♀️