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富貴さんと久々にリモート打ち合わせだ。今日は、他に俺と顔合わせしておきたい人も参加するとのこと。
15分くらい早くリモート会議画面を開けといたら、富貴さんがだいぶ早く入ってきた。
「あ、富貴さん、こんにちは」
〈こんにちは、和泉くんなら早く来るかなと思って。江井さんは時間ぴったりに来る人だから、久々にちょっと話したくて〉
「あ、そうなの? 元気?」
富貴さん、前会った時妊娠してたけど、インスタでもThreadsでも子どもの話全然してないんだよなあ、そういうスタンスなのかなあ。まあ、そういうスタンスならこっちから触れないほうが無難かな。
〈まあ、仕事は順調。和泉くんは? まだルームシェア中?〉
「うん、引っ越したけどまだルームシェアしてる。同居人のおかげで元気」
〈同居人さんと仲いいのねえ〉
「確かに、喧嘩らしい喧嘩はしたことないかな。今日来る江井さんってどんな人?」
〈ブルーコスの化粧品原料に詳しい人。取引で関わってくれてる人なのよ〉
「ん?」
ブルーコスとは、医薬品原体や化粧品原料を扱っている会社であり……俺の前職で、新卒だった俺に一通りの業務を教えてから転職した課長の転職先である。課長の名前は、江井さん。
「え、その江井さん、俺知ってるかも」
〈あ、そうなの? 同じ会社にいたのは知ってるけど〉
「その、俺が新卒で入った後、俺にひと通り仕事教えてくれて、その後ブルーコスに転職した課長が江井さん」
〈え!? そうなの!? クソ部長のところに和泉くんほっぽった人!?〉
いや、確かに部長はクソだったが。
「ほっぽかれたとは思わないよ、半年でみっちり仕事叩き込んでくれたし。俺が江井さんと同じ立場なら、絶対転職してるし」
〈ならいいけど……〉
その後、時間になって江井さんが来て、予想通り、課長だった江井さんだった。お互い挨拶しあい、俺は俺でなんとかやっていることを伝えると江井さんはホッとしていた。
〈いや、和泉くんには本当に悪いことを……〉
「いや、転職が絶対正解ですよ。私は新卒で何も実績なかったから転職に行けなかっただけで、江井さんの立場なら転職一択でしょう」
三人とも知り合いということで、仕事の打ち合わせはスムーズに終わり、それはよかったのだが。
夕飯で千歳と話してる時、富貴さんのことを話題に出し、「富貴さん、子供のこと全然話題に出さないんだよね、なんでだろ」と言ったら、千歳はなんとも言い難い顔をした。
『……お前が会ったのが、まだ腹が目立たないときだろ?』
「そうだね」
『それはさあ……気の毒だけど、流れちゃったんじゃないか?』
「え」
予想もしなかった可能性を指摘されて、俺は言葉を失った。
いや、しかしそう言えば富貴さん、産休も育休も取ってなかったな。社長だから取ってる暇ないとかじゃなくて、流産しちゃったから!?
千歳は難しい顔のまま言った。
『子供って難しいからさあ、欲しくないのにできちゃったり、欲しいのに流れちゃったりするぞ。上島紗絵もさ、八重穂のあとにもう一人仕込まれて、本人も周りも欲しがってたんだけど、流れちゃったし』
「そ、そうか……いや、その可能性は全然考えなかったよ……」
『まあ絶対にそうとは限らないけど。その富貴さんが話題に出さないなら、お前も話題に出さないほうがいいな』
「そうだねえ、そういう可能性もあるのか、教えてくれてありがとう……」
後で調べたら、妊娠の15〜20%は流産になると出てきた。全然ありえない確率じゃない。
富貴さんに「元気?」と聞いた時「仕事は順調」と答えられたのを思い出した。じゃあ、私生活は?
……人にはいろいろある。表に出さなくても、いろいろある。
せめて、不用意なことを聞いて、誰かを傷つけないようにしたいと思った。
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コメント
1件
ああ、このエピソード、すごく沁みた……。富貴さんとの再会シーンから始まって、江井さんとの再会もあって懐かしい空気が流れたかと思ったら、千歳との夕飯で「流産かも」ってサラッと言われたときの主人公の戸惑い、めっちゃ伝わってきた。妊娠の15〜20%が流産って数字、知ってるようでちゃんと意識してなかったわ。「人にはいろいろある」って締めくくるところが、この作品らしい優しさとリアルさで好きだ。不用意な一言で誰かを傷つけたくないって気持ち、すごくわかる。