「…今日も来てる」
真剣な表情を半分壁に隠しながら、客席の方を見て、バイト仲間の女の子が声を上げる。
ここは都内の落ち着いたカフェ。
同じロゴの店は日本を飛び出し、海外でも見かけるようになった、人気のカフェチェーンだ。
今の…私に言ったのかなぁ…
話は聞いてあげたいけど、今…抹茶フラペチーノ作ってて、最後の粉がけ作業に集中したいからちょっと無理なんだよね…
「…知ってる!ね〜なんなのあの人?!」
私じゃないバイト仲間が話に加わった。
…ちょっと待ってよ。そんな話はあとにして、待ってるお客さんの注文聞いてよ…
「…出来た」
外野の喧騒にまどわされる事なく、美しい抹茶フラペチーノを完成させた自分を褒めたい…。
「お待たせしました…抹茶フラペチーノのお客さま〜」
こうなったら最高の出来上がりを早くお客様に…振り返って叫ぶと、さっきバイト仲間が噂していた人物がこちらにやってきた。
こげ茶色のスーツにカラーのワイシャツは、秋のはじまりを表現しているみたいな…それは完璧なコーデ。
足元の革靴はピカピカで、踵からコツコツ心地よいリズムを鳴らしてる。
「…俺だ」
目の前に立ったその人は、見上げるほど背が高い。
そして…彫刻みたいな彫りの深い顔立ちはイケメンを通り越して、芸術的美しさまで漂わせてる…
…こんな人が、私と同じ…
「…日本人?」
ヤバい…。
驚きが声に出てしまった。
「…」
「…お待たせいたしましたぁ。抹茶フラペチーノでぇす」
バイト仲間が素早くやってきて、私の手から渾身の力作を奪い、手渡してしまった。
「…お待たせ、しました」
我に返って軽く頭を上げると、まさに頭上から低音ボイスが響いた。
「…俺は…クォーターだ」
「…え?」
「え…じゃない。日本人か?って聞いただろ?」
タイムラグのある返事に、一瞬頭が回らなかった。
「俺に興味があるのか?」
「え…っと」
なんだろう…ヤバい人?
カッコよすぎて何だか怖っ…!
「武者小路…響」
「え?む、むしゃ…?」
突然名乗られた時代劇みたいな難しい名前は…どこか懐かしいような…。
「わぁ〜!お客様、珍しいお名前なんですねぇ…私は…」
考えてる私を突き飛ばして、イケメンの前にしゃしゃり出るバイト仲間…おとなしそうな顔して…こういうタイプだったとは…!
「君、悪いけど…この子の分も働いてくれる?」
時代劇的苗字のイケメン、目にも止まらぬ速さで私のエプロンを脱がせ、その子に預けてしまった。
「え?ちょっと待ってください。なんですかいきなり?」
「…うっせーわ。年下なんだから、俺のやることに従え」
「…!」
…記憶が鮮明に蘇った…
夏休みの公園。数人集まって川に行った。
草木をかき分けて…現れた水面。
透明で、ちゃんと底が見えた。
小さい魚が泳いでて…踏み潰してしまいそうで足を入れるのが怖かった。
そして…先に川に入った男の子に言った。
『…怖いよ…私もう帰る…』
男の子は逃げ出そうとする私の手を取って言った。
『…1人で帰れないだろ。年下なんだから、俺のやることに従え』
男の子は確か…響。
私よりずっと背が高かった。
武者小路、響…。
嘘だ…あの時の、響?
「…思い出したか?石塚琴音」
私のフルネームを呼ぶ顔は、あの頃よりさらに優雅で冷静。そして…強引。
「バイトは終わり。後はこの美人のお姉さんに任せて…」
私に言いながら、バイト仲間に優しく微笑むと、催眠術にかかったみたいに私の荷物を持ってきてくれた。
「…行くぞ」
肩を抱かれた途端香るかすかな香水は…あの頃の響からは考えられないほど大人っぽくて。
驚いて見上げる私を見おろした瞳は…焦るほど大人の男のそれだった。
…………
「…ちょっと待って。なに?車?」
カフェを出ると目の前に黒塗りの車。
世の中のことを知らない女子大生の私でもわかる。
…これ、とんでもない高級車だ。
だって、胴体が長い車なんだもん。
「いいから乗れ。時間がない」
助手席からスーツ姿の男性が降りてきて、響の歩くスピードに合わせるように後部座席のドアを開けた。
「いや…っなにこれ!」
「変な声あげんなバカ」
「だってソファになってる…」
L字型のソファの短い方に悠然と腰掛けて…響は長い足を見せびらかすように組んだ。
「これは…お前を驚かそうとして乗ってきただけだから」
「えぇっ?私は今日、はじめから捕獲される予定だったの?」
「…まぁな。だってお前、ぜんっぜん気づかねぇんだもん」
…気づくはずない。
あの頃はもっと華奢で、背は高かったけど、憧れちゃうくらい綺麗だったから。
それがこんな男の人になってるなんて、想像もつかない。
「…バイト女子、みんな噂してたよ。響のこと」
「…でしょうね」
ふふん…と不敵に笑う笑顔が妖艶で、10年前、最後に会った時とはまったくちがうことに気づく。
コメント
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こんばんは🌃 どうぞよろしくお願いします🎶 私も、こちらでも 響を追いかけたいと思います💖
テラー様でも追いかけますー😆 何回でも響に逢いたい⋆ ˚。⋆୨♡୧⋆ ˚。⋆