TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「…今日も来てる」

真剣な表情を半分壁に隠しながら、客席の方を見て、バイト仲間の女の子が声を上げる。

ここは都内の落ち着いたカフェ。

同じロゴの店は日本を飛び出し、海外でも見かけるようになった、人気のカフェチェーンだ。

今の…私に言ったのかなぁ…

話は聞いてあげたいけど、今…抹茶フラペチーノ作ってて、最後の粉がけ作業に集中したいからちょっと無理なんだよね…

「…知ってる!ね〜なんなのあの人?!」

私じゃないバイト仲間が話に加わった。

…ちょっと待ってよ。そんな話はあとにして、待ってるお客さんの注文聞いてよ…

「…出来た」

外野の喧騒にまどわされる事なく、美しい抹茶フラペチーノを完成させた自分を褒めたい…。

「お待たせしました…抹茶フラペチーノのお客さま〜」

こうなったら最高の出来上がりを早くお客様に…振り返って叫ぶと、さっきバイト仲間が噂していた人物がこちらにやってきた。

こげ茶色のスーツにカラーのワイシャツは、秋のはじまりを表現しているみたいな…それは完璧なコーデ。

足元の革靴はピカピカで、踵からコツコツ心地よいリズムを鳴らしてる。

「…俺だ」

目の前に立ったその人は、見上げるほど背が高い。

そして…彫刻みたいな彫りの深い顔立ちはイケメンを通り越して、芸術的美しさまで漂わせてる…

…こんな人が、私と同じ…

「…日本人?」

ヤバい…。

驚きが声に出てしまった。

「…」

「…お待たせいたしましたぁ。抹茶フラペチーノでぇす」

バイト仲間が素早くやってきて、私の手から渾身の力作を奪い、手渡してしまった。

「…お待たせ、しました」

我に返って軽く頭を上げると、まさに頭上から低音ボイスが響いた。

「…俺は…クォーターだ」

「…え?」

「え…じゃない。日本人か?って聞いただろ?」

タイムラグのある返事に、一瞬頭が回らなかった。

「俺に興味があるのか?」

「え…っと」

なんだろう…ヤバい人?

カッコよすぎて何だか怖っ…!

「武者小路…響」

「え?む、むしゃ…?」

突然名乗られた時代劇みたいな難しい名前は…どこか懐かしいような…。

「わぁ〜!お客様、珍しいお名前なんですねぇ…私は…」

考えてる私を突き飛ばして、イケメンの前にしゃしゃり出るバイト仲間…おとなしそうな顔して…こういうタイプだったとは…!

「君、悪いけど…この子の分も働いてくれる?」

時代劇的苗字のイケメン、目にも止まらぬ速さで私のエプロンを脱がせ、その子に預けてしまった。

「え?ちょっと待ってください。なんですかいきなり?」

「…うっせーわ。年下なんだから、俺のやることに従え」

「…!」

…記憶が鮮明に蘇った…

夏休みの公園。数人集まって川に行った。

草木をかき分けて…現れた水面。

透明で、ちゃんと底が見えた。

小さい魚が泳いでて…踏み潰してしまいそうで足を入れるのが怖かった。

そして…先に川に入った男の子に言った。

『…怖いよ…私もう帰る…』

男の子は逃げ出そうとする私の手を取って言った。

『…1人で帰れないだろ。年下なんだから、俺のやることに従え』

男の子は確か…響。

私よりずっと背が高かった。

武者小路、響…。

嘘だ…あの時の、響?

「…思い出したか?石塚琴音」

私のフルネームを呼ぶ顔は、あの頃よりさらに優雅で冷静。そして…強引。

「バイトは終わり。後はこの美人のお姉さんに任せて…」

私に言いながら、バイト仲間に優しく微笑むと、催眠術にかかったみたいに私の荷物を持ってきてくれた。

「…行くぞ」

肩を抱かれた途端香るかすかな香水は…あの頃の響からは考えられないほど大人っぽくて。

驚いて見上げる私を見おろした瞳は…焦るほど大人の男のそれだった。

…………

「…ちょっと待って。なに?車?」

カフェを出ると目の前に黒塗りの車。

世の中のことを知らない女子大生の私でもわかる。

…これ、とんでもない高級車だ。

だって、胴体が長い車なんだもん。

「いいから乗れ。時間がない」

助手席からスーツ姿の男性が降りてきて、響の歩くスピードに合わせるように後部座席のドアを開けた。

「いや…っなにこれ!」

「変な声あげんなバカ」

「だってソファになってる…」

L字型のソファの短い方に悠然と腰掛けて…響は長い足を見せびらかすように組んだ。

「これは…お前を驚かそうとして乗ってきただけだから」

「えぇっ?私は今日、はじめから捕獲される予定だったの?」

「…まぁな。だってお前、ぜんっぜん気づかねぇんだもん」

…気づくはずない。

あの頃はもっと華奢で、背は高かったけど、憧れちゃうくらい綺麗だったから。

それがこんな男の人になってるなんて、想像もつかない。

「…バイト女子、みんな噂してたよ。響のこと」

「…でしょうね」

ふふん…と不敵に笑う笑顔が妖艶で、10年前、最後に会った時とはまったくちがうことに気づく。

スパダリは甘くない

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

2,031

コメント

3

ユーザー

こんばんは🌃 どうぞよろしくお願いします🎶 私も、こちらでも 響を追いかけたいと思います💖

ユーザー

テラー様でも追いかけますー😆 何回でも響に逢いたい⋆ ˚。⋆୨♡୧⋆ ˚。⋆

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚