テラーノベル
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「エルア! お前との婚約を破棄し、聖女の地位を剥奪する!」きらびやかなシャンデリアが照らす、王宮の大夜会。その中央で、私の婚約者である第一王子・カイルが、私の妹であるセリアの腰を抱き寄せながら、尊大に言い放った。会場の貴族たちが、一斉に私を冷たい視線で見下ろす。くすくすと上品に口元を隠して笑う者、あからさまに軽蔑の目を向ける者。「カイル殿下……。それは、どういうことでしょうか?」私が静かに問い返すと、カイルはフンと鼻を鳴らした。「白々しい! お前がその嫉妬深さゆえに、真の聖女であるセリアのドレスを汚し、階段から突き落とそうとしたことはすべて分かっているのだ! 聖女の力もろくに使えず、ただ神殿の奥でふんぞり返っているだけのお前など、我が王国の王太子妃にはふさわしくない!」「お姉様……どうしてあんな酷いことをなさったのですか……? 私はただ、お姉様のお役に立ちたかっただけなのに……っ」セリアがカイルの胸に顔を埋め、いかにも悲劇のヒロインといった様子で涙を流す。すべては、セリアが仕組んだ自作自演の罠だった。けれど、私は言い訳をする気にもならなかった。ただ、胸の奥で「やっと解放される」という、深い安堵の息が漏れそうになるのを必死で堪えていた。彼らは何も知っていない。私が『神殿の奥でふんぞり返っている』のではない。この王国の全土を覆い、魔物の侵入を防いでいる巨大な【聖なる結界】。それを、私が毎日18時間以上、自分の魔力を削りながら一人で維持し続けているということを。「お前の代わりなどいくらでもいるのだ。明日からは、真の聖女であるセリアが結界の管理を行う。無能なお前は、今すぐこの国から出て行くがいい!」カイルの言葉に、周囲の貴族たちが同調するように囁き合う。「当然ですな。魔力測定でも、セリア様のほうが圧倒的な数値を叩き出されたとか」「何もしない無能な聖女など、我が国の恥だ」当然だ。私が結界に9割以上の魔力を注ぎ続けている状態で測定したのだから、数値が低く出るのは当たり前なのに。彼らは私の労力を「聖女としての義務」として無給で搾取し続け、最後にはこうして泥を塗って追い出すのだ。「――分かりました」私はそっと、頭に乗っていた重い聖女のティアラを外した。そして、それを大理石の床へと静かに置く。「カイル殿下。婚約破棄、ならびに聖女の剥奪、謹んでお受けいたします。明日からはセリアが結界を維持されるのですね? くれぐれも、絶やさぬようお気をつけて」「ふん、言われなくともセリアの聖属性魔法は完璧だ。お前のような無能の心配など無用。さあ、早く失せろ!」私は深く一礼し、踵を返した。この国への未練は、もう一滴も残っていなかった。私が結界の手を離せば、明日にはこの国がどうなるか――想像するだけで、少しだけ小気味いい気持ちにさえなる。(さようなら、愚かな人たち)私が扉へと向かって歩き出した、その時だった。「――待ちなさい」夜会の重厚な空気を一瞬で凍りつかせるような、低く、圧倒的な威厳を持った声が響いた。声の主は、会場の最上席――他国の賓客として招かれていた男性だった。漆黒の髪に、燃えるような紅蓮の瞳。軍服を完璧に着こなした圧倒的な美貌の青年。世界最強と謳われる『ガルディニア帝国』の若き皇帝――ルファード・ヴァン・ガルディニア陛下だった。冷徹無慈悲と恐れられ、女性に見向きもしないことで有名な彼が、ゆっくりと席を立ち、私の方へと歩いてくる。カイルが慌てて頭を下げた。「ルファード陛下! 見苦しい身内の恥をお見せしてしまい、申し訳ございません。今すぐこの無能を――」しかし、ルファード陛下はカイルの言葉を完全に無視した。彼は私の目の前まで来ると、まるで壊れ物を扱うかのような手つきで、私の泥で汚れた手をそっと取り――。その場に、片膝を突いたのだ。「な……っ!?」カイルが、そして会場の全員が息を呑む音が聞こえた。一国の皇帝が、追放されたばかりの元聖女に跪いているのだ。ルファード陛下は、紅蓮の瞳でじっと私を見つめ、低く甘い声で囁いた。「ようやく見つけた、私の愛しい人。……この愚かな国は、あなたという本物の至宝を、ずいぶんと雑に扱ってきたようだ」「え……? 陛下、私は……」「このような落ちぶれた国に、あなたの美しい魔力を捧げる必要はない。エルア嬢、我が帝国へ来てください。あなたを侮辱したすべての者に、一生届かないほどの幸福を私が約束しましょう」彼の熱い視線と、包み込むような手の温もりに、私の心臓が大きく跳ねた。その頃、私の足元から伸びていた王国の結界の『糸』が、完全にぷつりと切れた。明日、この国が魔物の大群に襲われ、大パニックになることを、カイルたちはまだ何も知らない。私は、差し出された皇帝陛下の大きな手を、しっかりと握り返した。
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コメント
3件
わあ、素敵な物語でしたね…!「やっと解放される」っていう静かな安堵と、それを必死で隠すエルアさんの心情に、まず心掴まれました。それまで一人で結界を支え続けてきたのに、誰にも認められず無能扱いされる切なさが痛いほど伝わってきます。そして追放された直後に現れたルファード陛下の「ようやく見つけた」という言葉、まるで運命の再会みたいで胸がときめきました…!結界が切れたラストも、これからどうなるのか気になりますね。