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「なになに、仲悪いの?喧嘩した?」
「仲は普通ですけど……あいつ、人を見てため息しかつかないから嫌いです」
「わかるかも。生意気ですよねまじで」
「あのくらいが可愛いもんだよ」
「それにしては馬鹿にしすぎと思いません?」
耳を塞ぎたくなる話が盛り上がりをみせる。大人四人で面積が埋まってしまうほどの広さのエレベーターなので、自ずときこえる会話。
「あいつが人に構ったりする所見た事ないし、自己中っぽいし、人を見下していると言う……」
「常葉くんは、とても優しい人ですよ」
堪らず旺くんの言葉を遮ってしまうと、どうしてか、その会話は途切れてしまった。
それに飽き足らず、こっちはドアを開けて待っているのに、みんな降りようとしない。
……なにかまずいこと、口走ったかな。
「あ、ほら、私教育係してたんで、」
「お前笑うのか」
え、笑う?私が?いつ?
大里さんの言葉に今度はこちらの時間が止まる。
見間違いでしょ……
「穂波さん、笑った方が絶対良いですよ!」
眞鍋さんも驚いて目を丸くさせるので、それとなく事実が頭に染み渡り慌てて表情を固めた。
「す、すみません。忘れてください」
無意識のうちに頬が緩んだのだろう、人差し指でメガネを直し、表情を固くすれば、「へぇ」と大里さんは、手に顎を乗せて頷いてみせる。
「穂波って意外と面白そうだな、俺があと5年若かったらなぁ、嫁に貰ったのに」
え、嘘、大里さんそんなこと言っちゃう!?
「え、でも、確かお子さん……」
「冗談だよ、嫁一筋な俺で残念だったな穂波」
「こ、告白してもないのにフラれた気分です……」
軽いショックを受けていると、乾いた笑い声を上げて男性陣は歩き始めた。
「ほら、何がいい」大里さんから声を掛けられると、昔の名残でその行動はすぐに理解出来た。
ロビーにある自販機エリアで、軽い反省会だ。
アイスココアをご馳走になると、ソファーに腰掛けて短い打ち合わせを行う。
「穂波さんって、意外と話しやすいんですね。もっと怖い方だと思ってました」
「え?」
「そうだな、穂波こそ勿体ねぇな。」
「いや、見てると意外と表情豊かなんですよ」
打ち合わせもそこそこに、何故か私の話題になれば、旺くんの声が聞こえて嫌な予感が過る。
「こう、無表情でも口の歪み方がまっすぐだったり、微妙に上がってたり。わかった時はちょっとした、ガッツポーズもんですね」
……どうして
別れた後に、こんな言葉をかけるのだろうか。
放っておいて欲しいのに。
そんなアピール、もう要らないのに。
「ほんとですか、本間さん、なんでわかるんですか?」
「え?何となく」
「なんだ、付き合ってんのか?」
大里さんの鋭い質問に、どきり、と胸に冷や汗をかいた。
「は、え、ち、違います!」
旺くんは飲んでいた物を噎せてしまい、私は慌てて否定すると、大里さんと眞鍋さんは二人とも笑い始めてしまった。
「そこでそんな態度とったら、肯定してると同じじゃないのか」
「わ、かれましたっ。昔のことです」
「別れたのかよ」
旺くんが何かを訴えるような目で合図をするので、分かってる、と、頷いてみせる。
あれこれ根掘り葉掘り聞かれるのも、説明するのも面倒だ。
「色々あって」
当たり障りのない答えを返すと、えぇ、と聞き足りない様子の眞鍋さんとは反対に大里さんは、そうか、と納得してくれた。
「お前らもそろそろいい歳だし、身を固めてもいいのにな」
それもそうだ。ひと月前まで本気で考えていたんだけどな、旺くんとの結婚。
だけど、もう、全く思い浮かべることは出来ないな。
「そう、ですね」
と、思い出は閉じ込めて頷いた。
「じゃあ、お、れ、は、オフィスに1度戻るかな」
「だったら、私も」
「いえいえ、あ、外出用のID返しておきますよ!ごゆっくり〜」
「お疲れー」
打ち合わせをしていたのか。二人は芝居がかったセリフを残して本当にエレベーターへと消えていった。
変に気を使わせてしまったみたいだ。申し訳ないけれど、そういう仲ではないのに。
隣を見れるはずもなく、ふぅ、とため息を吐き出し肩にかけたバッグの紐を持ち直した。
……まぁ、いいか。いつもより少し早いけど、お言葉に甘えて帰ろう。
腕に巻かれた華奢な腕時計を確認して、小さく頷く。
やっと隣を見上げ「お疲れ様です」と簡単に挨拶を終えてエントランスへ向かった。
……もう、常葉くん帰ってるかな。
また仕事持ち帰ってるのかな。
……そうだな、甘いの作ろう。
何がいいかな、プリンとか?
ブラックコーヒーばかり飲んでる常葉くんが、甘いの好きとは知らなかったな。
……疲れてるんだろうな。
ウザがられても、同居人として体調を心配するくらい、怒られないだろう。
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