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……どうしよう、逃げ、逃げなきゃ。
考える前に軽いキスが落ちると、それは顎を伝い舌先は首筋を這う。
「っや、」
「や、じゃねぇよ」
低い声が身体に響き、ジャケットと共にブラウスは簡単に脱がされて、すぐに肌が露になる。
駄目だ、これ以上は駄目。
だって、常葉くんは、
「……ねぇ、穂波さん」
「は、い」
「もー挿れていいでしょ?」
脳内の考えを打ち消す、飴玉を舐めるような、甘ったるい声。
耳元で囁くように言えばちゅ、と、そこへキスが落ちる。それだけでびくびくと身体が震える。
「やだ、やだ。」
必死で首を横に振ると、顔を掴まれてすぐに唇が覆われる。
「なんで?あの人としようとしてたんじゃないんですか」
「違う、すぐ、帰ろうと……っ」
「ふーん、で、なんで俺はダメなの?」
……だって。
常葉くんには、ちゃんと、相手がいる。
目を閉じると、すぐに脳裏に浮かぶ眞鍋さんの顔。
……良い子だよね。
なんでも受け入れる素直な子で、
表情もコロコロ変わって、可愛らしくて、
…………お似合い、だよ。
腰を持ち上げられると、ストッキングが潤滑油となりタイトスカートは簡単に腰までたくし上げられた。
感触を楽しむみたいに指の腹で撫でられると、それだけで身体のあちこちが熱を帯びる。
「ねえ、なんでダメなの?」
猫みたいな声が私を擽る。
間違えちゃだめ。
もう、間違えを楽しむ余裕も、時間も、私にはない。
「つ、ごうの、いい女は、嫌。……なりたく、ない」
「へぇ、いい心掛けですね」
腰を浮かされると、ストッキングとショーツは一気にずり降ろされた。
そこが顕になると、常葉くんは容赦なく既に濡れた突起を指で解すように刺激する。
「あっ、や、やめ……っ」
その都度つま先までピンと伸びて、勝手に口から声が漏れた。
だめ、だめ。こんな事、もうしちゃだめ。
子どもじゃない、もう良い大人だ。
なのに、頭では理解出来ているのに、ちっとも身体は自制が効かない。
「ふ、あ、や…だ、」
「なんで?」
「だって、常葉くん、」
「……俺が何?」
「……っ、あ、っ」
喉の奥からの声が、言葉をかき消す。
言葉は簡単に消えるのに、頭の奥の顔は、2人の姿は、消えてはくれない。
「こないだから、何遠慮してるんですか」
「っ」
「言いましょうか」
涙を溜めて見上げれば、常葉くんは動きを止めて私を静かに見つめている。
溜まっていた涙は、瞬きすれば簡単にこぼれ落ちた。
「……ま、なべさん」
同時に吐き出した声さえも、震えていた。
「は?」
酷く呆れ返った声が、容赦なく私の胸を抉る。
……どうしよう、言わない方が良かったかな。
少しだけ後悔が生まれる。それでも零してしまったから、もう言い逃れは出来ないだろう。
唇を一度噛み締めて、ぎこちなく見上げる。
「こ、婚約……してるの」
「してませんよ」
「まえ…付き合ってた」
「いいえ、ただ親同士が知り合いなだけです」
「……ほんとに?」
再度確認を取るように伺うと、常葉くんはため息をひとつ、吐き出した。
「そんなくだらない嘘をつく理由がないですから」
至極面倒そうな声だけど、その言葉は水みたいに私の身体に浸透する。
……そっ、か。
そうだったんだ。
だけど、途端に常葉くんの瞳が色を変れば、色っぽく、煽るようにその視線が落ちた。
ガラス玉みたいな大きな瞳は私だけを捉える。
「……なんでそんな事、気にしてんですか」
それは、
それだけは…………言えない。
口を噤んで視線を逸らすと、彼は急にあたしの中に指を入れてかき回した。水を弾く音だけが鼓膜を揺らす。彼の動きと共に小刻みに揺れる身体。
滲んだ世界に、常葉くんだけが映る。
…………そう言えば、常葉くん
甘い目元が私を捉えると、頭の奥が蕩けて、無責任に意識を手放そうとする。
…………車の中で、話していた、答え
「あっ、あっ、やっ、」
「……もう、力抜いて良いですよ」
何だったのかな…………。
「おやすみなさい。……穂波さん」
酷く、穏やかな声が耳の奥で緩やかに響けば
疑問も熱も、ゆらゆらと揺れる微睡みの中に消えていった。